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なぜ「笑えそうにない」かまいたちの動画が1位に!?YouTubeで必要な”おもしろさ”より大切なこと

谷田彰吾放送作家
YouTubeより

”笑い”とは何だろうか?

YouTubeという新たなメディアによって、テレビ時代の概念が覆されてきている。

 5月17日午前8時時点でのYouTube急上昇ランク。1位は『【麺】かまいたち山内・濱家がインスタント麺BEST5を発表!』という動画(約60万再生)だった。正直、皆さんはこの動画で「腹かかえて笑えそうだな」と思いますか?

 かまいたちといえば、これからのお笑い界・テレビ界を背負って立つスーパースター候補だ。2017年キングオブコント優勝、Mー1グランプリ3年連続ファイナリスト(2019年準優勝)という輝かしい実績を持つ。賞レースでの結果が物語るように、ネタで実力を証明して売れた芸人だ。ネタに対するこだわりは強く、実に理論的にネタを作り上げている。笑いにストイックなコンビという印象を持つ方も多いのではないか。

 そんなかまいたちが『インスタント麺BEST5』である。文字通り二人が自分の好きな商品について話していくという内容だ。賞レースでしのぎを削っていた頃には考えられないほど、ゆるく、マイルドで、尖りのかけらもない企画だ。もちろん二人のトークなので安定感抜群なのだが、声を出して笑ってしまうようなシーンが何度もあるような動画じゃない。誰も知らないような特別な情報を発信するわけでもない。好きな商品を食べながら、好きなポイントを話すだけ。

 10年前の彼らがこの動画を見たら、どう思うだろうか?「お前らこんなぬるい仕事しとんのか!」「俺はこれがやりたくてお笑い始めたのとちゃう!」 もしかしたら、そんな感想を持つかもしれない。芸人の中には情報番組でただ食レポするような仕事を嫌う人もいる。「これは芸人がやる動画じゃない!」と認められない人もいるかもしれない。

 だが、ハッキリと言おう。この動画はまったくぬるい仕事ではない。YouTubeの世界では、むしろ「大正解」。見事な仕事だ。

 その証拠にと言っては何だが、この時間帯の急上昇ランク2位は、女優・仲里依紗が息子と一緒に好きなミスタードーナツのBEST3を発表するという動画だった。同じような企画がワンツーフィニッシュするほど人気が高いテーマなのだ。ちなみに、急上昇ランクとはYouTubeのトレンドを表すランキングで、YouTuberなら誰もがランクインしたい特別なもの。その1位となれば、その日のYouTube界のトップ動画と言っても過言ではない。(急上昇ランク1位は再生数1位という意味ではないので、あくまで旬の動画のトップという位置付け)

 かまいたちは、こういったBEST5企画を何度も配信してきた。ミスド、マクドナルドなど、外食チェーンを中心に幅広く。100万再生を超えた動画もある。割り切ったようにシリーズ企画として出し続けているのが凄い。なぜ強烈な笑いがあるわけでもないこの手の動画が人気なのだろうか?

 最大の要因は、「共感できること」だ。

 YouTubeはテレビと違い、個人が発信するメディアという特性が強い。誰にやらされているわけでもなく、個人が言いたいことを言い、やりたいことをやる。いわば個人の主張だ。だから見る側は「共感」できるものを選ぶ。この目線が大事なのだ。

 共感を得る上で大切なのが、間口の広さだ。極端な例で説明すると、『好きなカバティ選手BEST5』ではカバティが好きな人しか興味を持てない。カバティ人口は少ないので、共感できる人がそもそも少ない。一方、インスタント麺は誰でも一度は食べたことがあるだろう。幅広く視聴者を取り込めるテーマであることが勝因だ。

 共感という意味では、かまいたちは自己流の食べ方を紹介するのが抜群にうまい。奇をてらった珍しい食べ方をしているわけではない。生活感あふれる話を、情景が浮かぶように丁寧に表現している。「その食べ方わかる!」という嬉しさ。しかも、有名人と同じとなればなおさら視聴者の満足度は上がる。

 逆に、十人十色の主張ができる企画であることも成功の要因だ。誰もが食べたことがあるということは、誰もが自分の好きな商品がある。「俺はこっちの方が好きだな!」とコメントできる企画は伸びやすい。共感と裏返しだが、非常に重要な要素と言える。自分の意見が言えるのはテレビと大きく違うYouTubeの特性だ。ちなみに、約60万再生のインスタント麺の動画の視聴者コメント数は2000超。先日同チャンネルで配信された92万再生の動画『【ギャンブル】かまいたち山内がギャンブルで経験してきた失敗を全て話します!』のコメント数は1000にも満たない。再生数が多いのにコメントが少ないのはテーマが一方通行だからだ。

 このような動画を出しているのは、かまいたちだけではない。他の芸人たちも共感を意識しているなと強く感じる。例えば、チャンネル登録者数88万人・アンジャッシュ児嶋の『児嶋がコストコで爆買いしてきたから購入品紹介します!』という動画。ここ最近は10万再生を下回ることも多い児嶋だが、この動画は44万再生。明らかに突出している。芸能人の買い物という別のアングルも入ってはいるが、純粋なお笑い動画ではないという点では共通している。他に霜降り明星なども身近な外食チェーンなどの動画をよく出す。芸人やスタッフの間で「この手の動画が伸びる」と伝わっているのだろう。(誰が元祖とかそういう話ではないのであしからず)

 そうなると、これからお笑いが変わってくるかもしれない。ファンを増やすという意味では、人を笑わせることがすべてという時代ではなくなった。テレビでおもしろいネタをやり、冠番組を持つだけではダメ。YouTubeやSNSで共感を集め、芸人ではなく一人の人間として愛されることがファン増加に直結する。芸人がYouTubeをやるのが当たり前になり、何が視聴者にウケるのか模索する中で、この感覚はどんどん広がっていくはずだ。

 YouTubeによって、笑いの質も変わっていくのではないだろうか。芸人たちも変化が求められる時代である。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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