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大きく変わったテレビのキャスティング ”テレビ的な”実力よりも重視され始めた決め手とは!?

谷田彰吾放送作家
YouTuberのテレビ出演の道を切り開いたヒカキン(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 最近、なにかテレビに変化を感じないだろうか? ゴールデンのバラエティにYouTuberやTikTokerといったネット発の人気者の出演が急増していたり、一方で、大物司会者の番組が終了するなどして波紋を呼んでいる。このコラムを書いている2月15日も『ネプリーグ』にYouTuberのフィッシャーズが出演していた。3年前ならほとんど無かったキャスティングだ。実は、バラエティも、ドラマも、報道も、テレビのキャスティングの方法が大きく変わりつつあるのだ。

 そもそも、テレビのキャスティングとはどうやって行われているのか?

 番組には、演出家、プロデューサー、放送作家など様々な肩書きのスタッフがいるが、番組の内容に関する決定権を持っているのは、基本的には演出家だ。映画界で言えば監督にあたるポジション。彼に向かって、放送作家などが案を出す。多くの場合が、企画が先に決まっていて、その企画をより良いものにしてくれそうな人をキャスティングする。

 たとえば、ゲストが3人のトーク番組。ゲスト席をどういう布陣にするか、という議論をする。MCに一番近い席は、MCとゲスト陣の橋渡しができ、ボケもツッコミも万能にできる「裏回しタイプ」を置く。真ん中にはいじられ役ができて撮れ高を担保してくれる人を。一番遠い席には、ひるまずにトークに入れる飛び道具的な芸人さんを置こう…など、役割を決めていく。その役割に応じて、何人かの候補者の名前が会議に上がるのだ。

 「AさんとBさん、甲乙つけがたいな…」そんな話になったり、上位の候補に断られて4、5番手の二人で迷うということも珍しくない。その際、これまでは演出家の過去の経験則に従って選ぶことが多かった。「◯◯は以前使った時にうまく跳ねた」といった具合だ。言ってしまえば、演出家の「好み」で決まっていたようなものだ。今もこれがベースにある。作品を作る上で、指揮をとる演出家の私見が入るのは当然である。

 ところが、最近はこんな迷うシチュエーションになった時、ある要素が判断材料に加わえられるようになった。SNSやYouTubeの「フォロワー数」である。

 SNSにおけるフォロワー数は、大雑把に言えば「ファンの数」と捉えられる。候補に上がったタレントに、どれだけファンがいるのか? どれだけ情報発信力があるのか? それらを吟味する。2択で迷った場合、「フォロワー数が多い方にしよう」という結論を出すことが増えている。場合によっては、「腕は劣るけどフォロワー数の多いBさんに賭けてみる?」という判断もあるほどだ。実力ももちろん大切だが、SNSに強いタレントが重宝されるようになった。そこには、今のテレビを取り巻く環境と、抱えている課題がある。

 テレビ離れが叫ばれて久しいが、コロナ禍で状況は急変した。多くのスポンサー企業が苦境に立たされ、広告出稿が激減しているのだ。ご存知の通り、民放各局はスポンサーがあってこそ成り立っている。テレビ局はもちろん売り上げを上げなければならない。となると、番組のキャスティングも自然と「スポンサー受け」の良いものになる。もっと言えば、スポンサーを納得させる理屈があるキャスティング。ただ「この人の方がおもしろいんで」という主観的な理由ではなく、「フォロワー数が多い」という客観的な理由の方が都合が良いのである。

 そして、売り上げをアップするために必要なのは、高視聴率だ。実は2020年から視聴率の指標が世帯視聴率から「個人視聴率」に移行したこともキャスティングに大きく影響している。個人視聴率になって、何歳の人が何人見ているというデータがはっきりとわかるようになった。スポンサーは、お金をあまり使わない高齢者よりも、購買に結びつきやすい59歳までのファミリー層に見てもらえる番組を好む。中でも、10代に訴求したい企業は多い。そんな時、浮上するのがSNSの「フォロワー数」である。SNSのアクティブユーザーは若い人が多いため、少しでも見てもらえるようSNSでの影響力が大きいタレントを起用する傾向が強まった。若者はテレビ離れが著しい世代でもあり、フォロワーを多く抱えるタレントにあやかりたい、というのが本音でもある。YouTuberなどがテレビに多くキャスティングされるようになったのは、この影響である。

 本音といえば、テレビ局としてはタレントたちの「告知力」にも期待している。「◯月◯日に◯◯という番組に出ます」といったSNS投稿だ。TwitterやInstagramの投稿はもちろんだが、欲を言えばYouTubeで裏側を喋ってもらったり、今流行りのClubhouseで話してもらうなど、チャンスは多岐にわたる。良い番組を作ってもテレビをつけてもらえなければ意味がない。だからこそ、タレントのテレビ外での発信力に乗っかりたいというわけだ。

 一方、タレントの目線で言えば、SNSでの発信力は商品価値に関わる大きな要素となった。もはや「アナログなものでSNSはやってないんです」では済まされない時代だ。大雑把な印象ではあるが、大御所ほどSNSをやらない傾向がある。テレビでの影響力が大きければSNSは必要ない…という考え方もあっただろう。だが、テレビ局は上記の理由で制作費が逼迫している。ならば「テレビでの影響力は落ちるけど、SNSでの影響力は大きいタレントを起用しよう。ギャラも安いし」という発想も生まれる。それぐらい、コロナによって時代は動いた。

 だが、一概にフォロワー数だけでタレントの人気度を測るのは違う。フォロワー数が多くても熱量が低ければ「ファンが多い」とは言えない。「いいね」やリツイートの数、最近増えた有料オンラインイベントの集客力などを、総合的に判断すべきである。

 いずれにしてもテレビは変わりつつある。同時に、芸能界も変わっていく。だが、出演者が変わっただけで視聴率が取れるわけではない。その人を見たければYouTubeを見ればいいだけの話だ。テレビがおもしろくなるためには、なによりも「企画」が大事。企画あってのキャスティングだ。それでも、現役の放送作家である筆者の立場からすれば、変わるテレビに少しでも期待を寄せていただければ本望である。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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