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テレビに戦力外通告された石橋貴明はなぜ復活できた? YouTubeで流行するテレビへの『リベンジ』

谷田彰吾放送作家
(写真:Splash/アフロ)

 『とんねるずは死にました』

 衝撃の発言で話題になったのが去年の9月。しかし、今や男は完全復活と言っても過言ではないほど躍動している。石橋貴明、59歳。還暦を目の前にして、石橋が戦いの場に選んだのはテレビではなくYouTubeだった。

 自らを「テレビから戦力外通告を受けた人」と語る石橋貴明は今や、チャンネル登録者数150万人を誇る。チャンネル開設からわずか半年でこの数字を叩き出し、威厳を取り戻した。なぜこれだけの人気を獲得できたのか? その裏には、弱者が強者に立ち向かう「リベンジストーリー」を好む最近の風潮がある。

 石橋貴明といえば、「テレビの申し子」という言葉がふさわしい。『お笑いスター誕生!!』から芸能界に入り、無名の存在からテレビ番組を使って一気にスターに成り上がった。『とんねるずのみなさんのおかげでした』『ねるとん紅鯨団』など冠番組が次々と大ヒットし、大御所と呼ばれるほどの地位を築き上げた。

 しかし、近年はテレビにコンプライアンスの波が押し寄せ、たびたび批判にさらされた。「パワハラ芸」と揶揄され、時代錯誤の芸人というレッテルまで貼られた。そして、2018年3月に『とんねるずのみなさんのおかげでした』が終了し、ついにゴールデンのレギュラー番組が消滅。それからはかつての輝きを失ったように見えた。

 ところが、2020年6月にYouTubeチャンネルを立ち上げると、瞬く間に100万人を突破。「石橋の知名度があれば当然だろう」と言う人もいるだろうが、知名度と人気が必ずしもリンクしないのがYouTubeだ。スマホを何度も操作して、わざわざ石橋のチャンネルまでたどり着かなければならないYouTubeは、積極的に「見たい!」と思わせないと見てもらえない。つまり、知られていることよりも人気が必要なのだ。とはいえ、石橋はわずか2年前まで「嫌われていた」とされる人だ。矛盾しているではないか。

 その矛盾を解消する鍵が、石橋の動画のコメント欄にある。「みなさんが終わったタイミングでテレビを全く見なくなりました! 昔から多分テレビを見たかったんじゃなくて、とんねるずを見たかったんです!!」「とんねるずは終わっちゃいない。テレビが終わったんだ」「石橋貴明の大逆襲はここがスタート」 このように、まるでテレビに敵意を向けるようなコメントがたくさんあるのだ。

 私は2年の時が石橋のポジションを変化させたと考えている。ファンにとって石橋は「テレビ側の都合で弾き出された人」という見方があるのではないか。視聴率をとっていた頃はチヤホヤするのに、とれなくなったら捨てるのか…そんな感情を持っていたファンが多いように思う。近年のテレビは、メディアとしてのパワーが大きいがゆえに「既得権益」的な組織として批判的に見られることがある。テレビはビジネスであり視聴率がその指標なわけだから、番組が終わるのは仕方のないことなのだが、ファンにとっては割り切れないものがあるのだろう。

 かくして石橋貴明は、芸能界トップクラスの「強者」であったにもかかわらず、今では巨大勢力に弾き出された「弱者」の立ち位置に変化した。そんな石橋が、もう一度おもしろいことだけを追求したいとYouTubeに戦場を移した。すると、人は挑戦する弱者を応援したがる。

 このテレビへの「リベンジストーリー」は、YouTubeで成功する上で大きな要素になっている。この1年、ワケあってテレビに出られなくなったタレントたちが、YouTubeで人気を博している。コンプライアンスの壁でテレビ出演が激減していた江頭2:50は228万人。ジャニーズ事務所を退所し、テレビ出演が無くなった手越祐也は169万人。反社会的勢力との闇営業問題で吉本興業をクビになった宮迫博之は132万人だ。宮迫が「テレビに戻りたい」と言えば言うほど、ファンは「テレビはなんで戻さないんだ!」と応援の気持ちが膨れ上がるというわけだ。私はテレビでもYouTubeでも仕事をしているので複雑な気持ちだが、巨大な仮想敵がいると熱が入りやすいということなのだろう。

 石橋は1月31日に放送された『情熱大陸』に出演した。今やテレビのカウンターにいる彼がYouTube撮影の裏側をテレビに公開したのだから、時代は変わった。これからも、どんなメディアであっても、石橋貴明は石橋貴明であり続けるのだろう。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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