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なぜオリラジは独立した? 芸能事務所のビジネスを崩壊させかねないYouTubeと“フワちゃん”

谷田彰吾放送作家
(写真:アフロ)

 オリエンタルラジオが吉本興業から独立した。

このニュースを見て、誰もがこう思ったのではないだろうか。

「何件目だよ」と。

 2020年は芸能事務所からの独立がかつてないほどに起きた一年だった。ジャニーズ事務所から中居正広さん、手越祐也さん、山下智久さん、オスカーから米倉涼子さん、スターダストから柴咲コウさんが独立。他にも、ローラさんや前田敦子さんなど、異例と言っていい人数だ。いわば『芸能界 独立元年』。その締めくくりが、吉本のオリエンタルラジオである。

 大手の事務所から独立すると干される……それは何十年も前からはびこってきた芸能界の「掟」だ。では、今年になって、なぜこんなにも独立が続いたのか?

 私は放送作家という職業なので芸能事務所とは近からず遠からずの関係だが、忖度せずに“客観的”な意見を述べさせてもらう。結論としては、芸能事務所のビジネスモデルは、もう「崩壊寸前」と言わざるをえない。

 その答えをひもとく鍵は2020年に起きたメディア変革、とりわけ『テレビとYouTubeの力関係』だ。オリラジが独立の道を選んだ背景にも、これが大きく関わっていると考える。

 芸能事務所のビジネスは主に、スターの卵を発掘し、育成し、テレビ・雑誌・映画・舞台などのメディアに売ることだ。売った金額は事務所とタレントで分ける。よく吉本芸人が取り分を「事務所9 芸人1」と語っているが、その真偽はさておき、芸能事務所の仕事はタレントの「プロデュース」と「営業」、この2点になる。

 「プロデュース」とは、タレントが“売れるタレント”になるために、キャラを考えたり、トークや演技の技術を教えるクリエイティブな作業だ。いわば素材を商品に加工する工程である。そして、「営業」は文字通り商品を売り込むこと。テレビやCMの出演契約を獲得し、利益を上げる。

 芸能事務所にとっての顧客はメディアやファンだけではない。「商品」であるタレントもまた、顧客なのだ。2つのサービスを提供することで、事務所はタレントと契約している。

 だが、このサービスには欠陥がある。売れてしまったタレントほど、必要ないのだ。芸能界やメディアで居場所を確立した人に「プロデュースしますよ!」と言っても響かない。「営業」に関しても、ネットとSNSが定着した今、「お仕事はDMまで!」とTwitterに書いておけばいいだけの話だ。極論ではあるが、メディアは事務所と仕事がしたいわけではなくタレントと仕事がしたいのだから、需要さえあればオファーは届く。

 特に、芸人さんは自分でネタを作っている分、その思考が強いだろう。M-1などを見てわかるように、芸人はライバル達よりおもしろいネタを作るために命を削っている。そこで優勝すると、途端に事務所やマネージャーの電話が鳴り止まなくなるわけだが、そうなると「プロデュース」は自分でやっているし、「営業」はM-1で優勝した自分の力が大きいから、事務所の役割があやふやになる。

 私は中田敦彦さんとお話したことがあるが、とてつもなくクリエイティブな人だ。今の活動の中心であるオンラインサロンもYouTubeも、自分で企画を考え、表現する。もはや彼のプロデュースは彼にしかできない。YouTubeで配信された吉本卒業記者会見で本人が語っていたように、「吉本を離れた方がいいかもね」と事務所が言うのも無理はない。貢献できる領域が少なすぎるということだろう。

 しかし、事務所にもいろいろと言い分はある。芸人で言えば、考えたネタを披露する場を作ったのはライブを主催してきた事務所だ。俳優やアイドルで言えば、レッスン代などを投資したのは事務所である。まぎれもなくタレントの成長に貢献しているし、特に金銭面を負担しているのだから、「売れたから辞めます」では困る。だから、芸能界は暗黙のルールで独立したタレントに圧力をかけてきた。テレビなどのメディアに出演できないようにすることで、タレントから「職場」を奪った。

 ところが、今やテレビに出られなくなることは、以前ほどリスクではなくなった。革命を起こしたのが、YouTubeだ。

 近年、ヒカキンさんらをはじめとするYouTuberが台頭し、タレント以上の大金を稼ぎ始めた。そして、2019年から芸能人が本格的にYouTubeに参入。テレビ出演が激減していたカジサックさんがチャンネル登録者数100万人という「成功の形」を見せたことで、一気に流れが変わった。なんらかの理由でテレビに出演できない(しづらい)タレントにとっては救世主だ。宮迫博之さんがいい例だろう。不祥事で吉本を追放され、テレビに出られなくなっても、YouTubeで十分稼いでいる。

 中田敦彦さんもその一人だ。芸人になってすぐにブレイクし、ゴールデンの番組でMCに抜擢されるも、短命に終わった。その後もネタで這い上がり、テレビのレギュラー出演はあるものの、満たされない日々が続いた。だからYouTubeを始めた。教育系YouTubeを展開し、今や登録者数333万人(12月29日現在)。芸人の中でトップに立った。中田さんは、これまで持っていたテレビやラジオのレギュラー番組をすべて辞め、当面はYouTubeとオンラインサロンの運営で生きて行くと決めた。藤森さんも呼応するようにチャンネルを立ち上げ、ネットでの発信力を上げている。

 今年、電通が発表した『2019年 日本の広告費』によると、テレビメディア広告費は1兆8612億円。インターネット広告費は2兆1048億円と初の2兆円の大台を突破。ついに日本の広告メディアの首位が交代した。追い打ちをかけるように新型コロナウイルスが世界経済に大打撃を与えた。今後、テレビは資金力だけでなく、メディアとしての価値という点でも下降線を辿ることが予想される。

 芸能事務所に忖度するのは、テレビなどのレガシーメディアのみだ。YouTubeは個人運営にすぎず、制限することはできない。そんなことをすれば、むしろ動画で晒されて、痛い目を見るのは事務所の方だ。また、テレビにどっぷり浸かってきた芸能事務所の多くがYouTubeへの知見が乏しく、プロデュースができない。一緒にYouTubeを作っていければ話は違うのだろうが、タレントのニーズに応えられないと独立されてしまう。

 その意味では、今年大ブレイクしたフワちゃんは芸能事務所の反対側にいるタレントだ。YouTubeをホームグラウンドに、自己プロデュースで人気を勝ち取り、事務所に所属せずテレビに出演している。「フワちゃんはたまたま」とタカをくくっていてはいけない。今の10代はみなYouTubeやTikTokで、自力でスターを目指している。この形でスターになったタレントは、どれだけ芸能事務所に価値を見出すだろうか?

 さて、今後オリラジの二人はどんな道を歩むのか? ヒントになりえるのは、中田さんが宮迫さんと組んで立ち上げた、YouTubeのトーク番組『Win Win Wiiin』だ。この番組は、スポンサーが制作費を出し、ゴールデン帯のテレビ番組並みの予算で作られている。もはやテレビと遜色ない「事業」を自力で立ち上げた。

 このスキームでオリラジがメインMCを張る番組を作ることもできる。若かりし頃、MC失格の烙印を押された二人が、YouTubeでインパクトを残す逆転劇もありえる。コンビ、個人、どちらのチャンネルも影響力が増していけば、テレビや他のメディアからのオファーも継続する。今はSNSの発信力を頼りにキャスティングするので、役者でもある藤森さんの価値は、むしろ上がっていく可能性もある。

 一方、芸能事務所の今後も考えておきたい。既存の「人」を売るビジネスは難しいが、コンテンツメーカーに転換するのはひとつの方向性ではないか。簡単に言えば、芸能事務所が「テレビ局化」する。事務所でおもしろいコンテンツを立ち上げ、そこに自社のタレントを投入する。人は独立されたら終わりだが、自分たちで作ったコンテンツは逃げない。コンテンツが人気になれば事務所の価値が上がり、所属タレントが増え、独立も減る。それは同時にYouTubeをはじめとするデジタルメディア活動の強化につながる。タレントをプロデュースするスキルをコンテンツ制作に生かし、よりクリエイティブな企業を目指すのはどうだろうか。

 なにはともあれ、芸能界の『独立元年』はオリラジで締めくくられた。私はもちろん、タレントも芸能事務所も、テレビもYouTubeも、共存共栄でみなハッピーになればいいと思っている。エンターテインメントが既得権益にとらわれたら終わりだ。ユーザーを楽しませるためのエンタメであり続けるために、2020年という年が意味のあるものになってほしい。

放送作家

テレビ番組の企画構成を経てYouTubeチャンネルのプロデュースを行う放送作家。現在はメタバース、DAO、NFT、AIなど先端テクノロジーを取り入れたコンテンツ制作も行っている。共著:『YouTube作家的思考』(扶桑社新書)

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