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「自殺防止キャンペーン報道は絶対にやめてほしい」と自死遺族が訴える理由とは?

鎮目博道テレビプロデューサー・演出・ライター。
一般社団法人全国自死遺族連絡会 田中幸子代表理事(筆者撮影)

去年(令和元年)自ら死を選んだ人の数は2万169人と、統計を取り始めた昭和53年以降過去最少になったというニュースがつい先日報じられた。しかし、10代の自死者は増えているなど、依然日本における自死の問題は深刻だ。そして、自死遺族たちは、愛する人を失った苦しみだけではなく、社会からの偏見や差別にも二重に苦しめられている。

そして、自死遺族たちは、メディアの報道姿勢にもいろいろな疑問を持っている。一般社団法人全国自死遺族連絡会の田中幸子代表理事にお話を聞いた。田中さんは、自らも息子さんを自死で亡くしている。

キャンペーン報道は「煽る」ことになる

Q:3月は最も自殺が多い月で、「自殺対策強化月間」。9月は「自殺予防週間」です。いつも夏休み明けに向かって、「学校に行きたくなければ行かなくていい、死ぬな」というのをメディアが一斉にキャンペーンでやるじゃないですか。あれについてどう思いますか。

A:あれはやめてほしいと思っています。

Q:それはなぜですか。

A:キャンペーンみたいにやるのはやめてほしいんですよ。8月の末、夏休み明けとか、前とか、3月が多いとか9月が多いとかとキャンペーンをやるでしょう。キャンペーンみたいにやるのは絶対にやめてもらいたい。煽るような感じがする。

Q:それは、「やめろやめろ」と言うことで…

A:それ自体がもうむしろ。だから、「やめろ」とか「死なないでね」というメッセージは毎日のようにランダムに届けていいと思っていて。何でそこだけに集中するのかなと。そうすると何か、苦しい人に聞いたんだけれども、「死ななきゃいけないのかなと思っちゃう」と言っていました。むしろ、反対に。

Q:なるほど。

A:うん。やっぱり心が弱っている人はね、死んだほうがいいのかな、死ななきゃいけないのかな、そういう時期だしと、流行じゃないけれども、むしろそんなふうに思い込むから、あれはやめてもらいたいというのは、精神的に病んでいる人たちからはたくさん聞きます。

自死を選ぶのは「特別な人」じゃない

Q:じゃ、もう、一斉にみんなで言うんじゃなくて、日頃から。

A:はい。毎日のように日頃からいろんなところでやっていくことがすごく大事だと思う。

全国でいろんな方法で届けていくことが大事だと思います。で、日常生活、普通のところで自死の問題が語られるような社会であってほしい。あのキャンペーンが一番嫌なんですよ、私。あれだと、もう、何か特別な人みたいでしょう?

Q:はい。

A:「8月末に亡くなる子どもたちは特殊な人たちだから」みたいな感じの、3月もそうでしょう。何とかキャンペーンとか自殺予防キャンペーンとかやるんだけれども、あれも、そうじゃないでしょう。

身近に、もしかしたらうちの家族も、もしかしたらうちの子どももとか思って、やっぱ心を引き締めて、やっぱり人間生きていってほしいなと思っているんですよ。私とは関係ないじゃなく。それにはキャンペーンとかじゃないんですよ。あれは、むしろ差別化を生んでいるような気がします。だから子どもたちが死ぬんじゃないかなと、むしろ私は追い込んでいるような気がします。

Q:なるほど。

自死を「きちんと」報道してほしい

A:最近は、すごく規制がかかっているふうに思っていて。きちんと報道してほしいというふうに思っているんですね。未成年者に関して報道するのは、いろいろあるでしょうけれども、私はできればきちんと報道してもらいたいというほうです。

Q:なるほど。それはなぜですか。

A:やっぱりある程度の抑止力になるというふうには思っています。そして飛び込んだ人がいたときに、単に「飛び込みだ」とか思わずに、「何歳ぐらいの人が亡くなった」とか「会社員だった」と出ることによって、どこまで出すかですけれども出すことによって、「ああ、何かあったんじゃないかな」とか、「この会社で何かあったんじゃないかな」とか、そういうことがよく分かるようになってほしい。身近に感じられるようになっていくんじゃないかなと私自身は思っています。

Q:つまり、おっしゃっているのは、個人名を出せということではなくて…

A:なくて。

「支援者の声」ばかりが取り上げられる

Q:どういう方がどういう事情で亡くなったのかということですね。

A:そう。ある程度。そしてあとはマスコミに対しては、労災に関してもそうだし、いじめに関してもそうだけれども、権力がある側の話だけを聞いて一方的に報道しているような気がして。

もっと遺族や当事者にも話を聞いて、そして両方の話をちゃんとコメントを出してもらいたいと思って。今はすごく不平等だなというふうに思っています。

Q:なるほど。そういう姿勢が、ある意味で自死が多いということにつながっていると。

A:私はそう思います。で、子どもの親がどんなに苦しむかとか、私の子どもがこんなことで苦しんで亡くなったんだよということがいろんなところで報道されていくと、多分もっと身近に感じることができる。

私なんかもそうだけれども、遺族に突然なったときに、あんなことしておけばよかったって、私の身には起こらないとみんな思っているわけです。でも、実際は突然起こるんですよ。

だからこそもっと身近に感じてほしい。そのためには遺族の声をどんどん上げるべきだと思いますけれども、最近はものすごく少ないなと思います。

支援者の声だけが載るの。支援をしてる人たち、ボランティアさんとか。そういう人の声と写真だけがいっぱい載るんだけれども、遺族や当事者の声があんまり載らないんです。

テレビプロデューサー・演出・ライター。

92年テレビ朝日入社。社会部記者として阪神大震災やオウム真理教を取材した後、スーパーJチャンネル、スーパーモーニング、報道ステーションなどのディレクターを経てプロデューサーに。中国・朝鮮半島やアメリカ同時多発テロなどを取材。またABEMAのサービス立ち上げに参画。「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立し、テレビ・動画制作のみならず、多メディアで活動。公共コミュニケーション学会会員として地域メディアについて学び、顔ハメパネルをライフワークとして研究。近著に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)

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