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ウィシュマさん死亡前の映像「人格と肉体を破壊する様子まざまざ」立憲・有田議員ら戦慄の内容を報告

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
ウィシュマ・サンダマリさん(写真手前)

 今年3月、名古屋入管で死亡したスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)。彼女が亡くなるまでの約2週間の入管内監視カメラ映像の一部が、国会議員らに開示された。映像では、健康状態が悪化したウィシュマさんが、幾度も助けを求めていたことが、改めて明らかとなった。また、出入国在留管理庁(入管庁)の報告書の記述は、映像での様子よりも、かなり表現が控えめであるなど、報告書の信頼性の論議も再燃しそうだ。映像を観た議員の何人かは、その感想をツイッターに投稿。有田芳生参議院議員(立憲民主党)は「入管が人間の尊厳を無視し、人格と肉体を破壊する様子をまざまざと見た」と、入管のウィシュマさんへの非人道的な対応に憤った。

○半年以上かけて、やっと開示

 ウィシュマさん死亡の真相究明のため、入管内監視カメラの映像の開示を、野党側は今年の通常国会から求めてきたが、政府与党は頑なに開示を拒んできた。流れが変わったのは、ウィシュマさんの遺族が国賠訴訟を行うとし、裁判の証拠保全手続きで映像を開示したことからで、遺族が2回目の開示を行った今月24日、衆院法務委メンバーが非公開で閲覧することに与野党が合意、実施されたという。開示対象となったのは、今年2月22日からウィシュマさんが亡くなった3月6日までの監視カメラ映像記録を編集した、6時間26分の映像。さらに参院でも27日に同じ映像が開示された。

○映像内容、有田議員が連続投稿

 映像を閲覧した国会議員のうち、有田芳生参議院議員は、映像の様子を細かくメモを取り、自身のツイッターに投稿している。それによると、今回開示された映像の冒頭、今年死亡の13日前の今年2月22日の時点で、ウィシュマさんは既に自力で歩けない状態だったという。有田議員は、ウィシュマさんは同16日の検査で、「飢餓・脱水状態」となっており、この時点で入院させるべきだったとも指摘した。

 さらに、死亡の11日前の同24日の午前4時頃、何度も「担当さん」とウィシュマさんが助けを求めていたという。「口から血が、鼻から血が」「担当さん、あー、あー、担当さん、あー、あー、あうー、あうー」とうめき声をあげていたウィシュマさんに女性入管職員2人が様子を見に来て背中をさすったりしたものの、医師や救急車を呼ぶことは無かった。

 死亡の8日前、同26日の午前5時頃。ウィシュマさんはベッドから落下。18回助けを呼んだという。なお、有田議員自身も言及しているが、遺族が確認した映像では23回助けを呼んていたという(この違いについては不明。映像が編集されたものだからか?)*。

*この場面について、入管の報告書では「数回助けを呼んだ」とあり、映像の内容と食い違う。辞書でそう書かれているように、一般的に「数回」は、2~3回、多くても5~6回であり、筆者も上川陽子法務大臣(当時)に、会見で質問したものの、具体的な回答はなかった。

 死亡の5日前の今年2月27日の映像では、入管の報告書でも問題となった、カフェオレを上手く飲めずに吹き出したウィシュマさんに対する、入管職員が「鼻から牛乳や」との不適切発言が改めて確認されたという。

 死亡の6日前の同28日の映像でのウィシュマさんについて、有田議員は「朝7時に電気がついても起きない。右手、左手が少し動いたが、少しの時間だ。毛布を自分の手で取れない。腰のあたりが何度か痙攣しているように見えた」とツイート。この時点で既にかなり危機的な状況だったことがうかがえる。

 死亡の3日前、今年3月3日の映像では、入管職員達が、「食べたら元気になるから。そうしたらまたご飯食べられるから」と、ウィシュマさんの首もすわっていないのに、無理に食べさせていたという。

 さらに亡くなる2日前、同4日の映像では、明らかにウィシュマさんの顔色に異変があり、入管「大丈夫?」と声をかけても返事がなく目も開かないという状況で、入管職員達はただじっと観ていただけだったという。

 死亡の前日、同5日の映像では、ウィシュマさんは「あー、あーっ」と泣き声や叫び声をあげていた。その場にいた入管職員が「アロンアルファ」と発言した*のも映像に残っていたという。

*入管の報告書によると、職員が何を食べたいかを尋ねると、ウィシュマさんはうまく話せず「アロ…」などと口にした。これに職員は「アロンアルファ?」(瞬間接着剤の商品名)と聞き返したのだという。

 有田議員のツイッターでは、本稿執筆時点(2021年12月29日午前)では、死亡当日の映像については、これから投稿するとのこと、続きを期待したい。

○映像編集に不審な点も

 ウィシュマさんに関する名古屋入管での監視カメラ映像については、もとむら伸子衆議院議員(共産党)も「非常につらい視聴」と感想を自身のツイッターに投稿。また、入管の報告書についても、映像に沿って正確に記述すべきだと指摘した。

 同じく共産党の山添拓参議院議員も自身のツイッターに「閲覧した映像は一部に過ぎず、職員とのやり取りの途中で不自然に切られたものもあり、報告書との齟齬を判断しかねるぐらい不十分」と投稿。「腑に落ちない部分が多数ある」として、来年通常国会での集中審議で検証すべきとしている。

○「悪意なき拷問と悪意ある隠蔽」との指摘

 今回、野党側が求め続けていた映像が開示された意義について、衆院法務委員会筆頭理事の階猛衆議院議員(立憲民主党)も自身のブログでまとめ、「映像を見る上で私が注目したのは、①ウィシュマさんを死に至らしめた入管職員の対応と、②この問題に関して8月に法務省が公表した最終報告書との整合性、の二つ」と述べている。

入管職員の対応について階議員は、

 ベッドで寝たきりとなって自力で起き上がることもできないウィシュマさんに対し、入管職員らは表面上は親しげに話しかけ、寄り添う姿勢を見せます。しかし、ウィシュマさんが「トイレに行けない」と言っても無理やり連れて行こうとし、「点滴お願い」と言っても無視し、「死にそうだ」と言っても放置し、「食べられない」と言っているのに、無理やり飲食物を口の中に流し込むなど、やっていることは「拷問」に等しいものでした。

と述べ、「入管の常識を守って行動すると、人道的には許されない『悪意なき拷問』となるところに問題の本質があり、入管組織を抜本的に変えなくてはならないと強く感じました」と、個々の職員の資質というよりも、入管自体の組織としての問題があると指摘。

 さらに、他の議員らも指摘しているように、階議員も入管のウィシュマさん死亡の報告書について「ビデオ映像の深刻さをごまかすため、簡略にしたり穏便にしたりした表現がいくつもありました。これは、入管への責任追及を免れるための『悪意ある隠蔽』だと言わざるを得ません」と問題視した。

 ウィシュマさんの映像がようやく野党議員に開示されたことは、ウィシュマさん死亡の真相究明や、入管自体のあり方を問う上で、大きな意義があったことは、各議員の発信からうかがえる。一方、今回開示された映像は約2週間分のうちの、6時間26分であり、入管側が恣意的な編集を行なったのではないかとの疑念も残る。もし、そうでないというならば、全ての映像記録を野党側に開示すべきなのだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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