今年3月に名古屋入管で当時33歳だったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが死亡した事件で、日本の入管行政のあり方が問われた。著しい体調の悪化にもかかわらず、適切な治療を行わないまま収容を続けた挙げ句、ウィシュマさんを死なしてしまったことに社会は震撼し、国会でも大きく取り上げられた。だが、入管の人権感覚は全く変わっていない。なんと、入管の収容施設内で、車椅子の病人を数人がかりで1時間半にわたって虐待したというのだ。被害者の男性に話を聞いた。

○入管施設内でコロナに二度も感染

 今回、筆者の取材に応じたのは、スリランカ人男性のジャヤンタ・マルダケ・スガット・クマラさん(47歳)。2000年に来日し、日本で結婚したが、その後、離婚したために在留資格を失ってしまった。また、母国スリランカ内戦では現在の政府と応戦していた勢力に属していたため、帰国すれば迫害される恐れがあるとして、難民認定申請を行ったが、昨年3月に東京入管の収容施設に収容されてしまった。収容後、ジャヤンタさんは二度も新型コロナウイルスに感染し、現在も頭痛や倦怠感などの後遺症に苦しめられている。さらに肝機能障害も患っており、吐き気のために、脂っこい入管の給食は食べても吐いてしまう状況だ。入管内の面会室で筆者の取材に対応した際も、バケツを持参していた。常に吐き気に苦しめられ、取材中に嘔吐する可能性もあったからだ。

○入管職員による集団暴行

 ジャヤンタさんが入管職員らに暴行されたのは、今年10月11日のこと。既に体調の悪化が著しく、苦しみもがく中で、ジャヤンタさんは、吐瀉物用のバケツを破損してしまった。その様な些細なことで、入管職員らはジャヤンタさんを雑居房から独房に連行したのだ。この、「懲罰房」とも呼ばれる独房は、入管職員に反抗的な態度を取った際に懲罰として、閉じ込められる狭い部屋だ。この連行の際に、入管職員らはジャヤンタさんを車椅子から無理やり引きずり下ろしたのだが、その際にジャヤンタさんの片足が車椅子の金具に挟まってしまった。入管職員らは、金具を外そうとする間、ジャヤンタさんの頭と両腕をそれぞれ一人ずつが、力いっぱいに床に押しつけた。特に頭を抑えていた職員は、ジャヤンタさんの頭の上に乗るようなかたちで、のしかかった上、何度も首を絞めてきたのだという。

入管職員の「制圧」の様子を描いた絵 ジャヤンタさん/SYI提供
入管職員の「制圧」の様子を描いた絵 ジャヤンタさん/SYI提供

 また、腕を押さえつけていた職員の肘がぶつかり、ジャヤンタさんの右目はまぶたが開かなくなる程、酷く腫れ上がった。車椅子の金具に挟まってしまったジャヤンタさんの足はうっ血し、途中から現場に来た入管内の医師が「道具を使って、車椅子を壊して。早く外さないと、足を切断しないといけなくなる」と職員らに注意する程だったという。だが、入管職員らは結局、力ずくでジャヤンタさんの足を車椅子から引き抜いたのだった。そのため、ジャヤンタさんは足を痛め、現在も痛みのために自由に動かすことができないのだという。この暴行は1時間半にも及んだ。

 健康状態の悪化が著しかったジャヤンタさんは、今月11日に仮放免されたものの、そのたった2週間後の今月25日に再び東京入管の収容施設に再収容されてしまった。ジャヤンタさんは、通院していた最中で、肝機能の低下は病院での診断書でも指摘されており、それが原因とみられる摂食障害もある。入管での人権問題に取り組む市民団体「収容者友人有志一同」(SYI)は、ジャヤンタさんの再収容について、「ウィシュマさんの事件を繰り返すのか」と懸念。ジャヤンタさんの仮放免を求めている。

○入管施設内で横行する暴力

 何の変哲もないバケツを破損してしまった程度で「懲罰房」行きとなり、しかも足に引っかかった車椅子をただ単純に外せば良いものを、わざわざ床に数人がかりで体重を乗せて1時間半も床に押し付ける。何故、そのようなことをするのか、東京入管側の言い分も聞くべく、筆者は同広報に問い合わせたが、「個別のケースにはお答えできない」という決り文句が返ってきただけであった。

 入管の収容施設では、被収容者を「反抗的」と見なした場合、大勢の入管職員らが被収容者に飛びかかり、暴力で無理やり従わせるという「制圧」行為が日常的に行われている。東京入管では、先日も米国人男性が「制圧」され、腰骨を損傷したとして国賠訴訟を提訴したばかり。過去にも、男性職員らが女性の被収容者達を力ずくで床にねじ伏せ、膝で女性の首を押さえつけたり、女性を乱暴に投げ飛ばしたりしている。

被収容者の家族の証言 国会議員によるヒアリングにて 撮影/モザイク処理は筆者
被収容者の家族の証言 国会議員によるヒアリングにて 撮影/モザイク処理は筆者

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https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20200605-00181924

 さらに、2010年には、ガーナ人男性アブバカル・アウドゥ・スラジュさん(当時45歳)が強制送還の際に、入管職員らに制圧行為を受けた後に死亡するという事件も起きている(なお、スラジュさんは日本人女性と結婚しており、彼自身も彼の妻も在留を強く望んでいた)。

 被収容者達の証言によれば、この「制圧」は、職員の安全等のためのやむを得ない措置というよりも、サディスティックに被収容者を痛めつけること自体を目的に行われているのではと思わざるを得ないようなケースも多々ある。例えば、東日本入国管理センターに収容されていたクルド難民のデニズさんに対し、腕をねじりあげられ、身動きの取れない状態で、彼の首の急所に入管職員が指を突き立て「痛いか、痛いか?」と叫んでいる様子が、裁判資料として提出された入管側の記録映像にはっきりと映っていた。

○法を軽視する行政組織は解体されるべき

 ウィシュマさんの件や、デニズさんの件は、国内外で大きな問題となり、今年春に法務省/入管が提出した入管法「改正」案も、高まる批判の中、廃案となった。だが、ジャヤンタさんの件を見ていると入管は全く懲りておらず、組織として致命的に自浄能力が欠落しているようにも見える。他方、在留資格を持たない在日外国人に対しては、主にネット上の匿名のユーザーからは「法に反しているのだから厳しく対応して当然」と、入管のやり方を擁護する意見もあり、筆者への記事に対してもそうした外国人を擁護するなとの意見もある。ただし、前提として、本来、庇護すべき難民や、様々な個別の事情から在留を許可すべき外国人を「不法滞在」にしてしまっている、法務省及び入管の差別的な対応にも問題は大いにある。また、仮に「不法滞在」だとしても、その人に対し何をしてもよいわけではない。日本は法治国家であるから、法から逸脱した対応は許されない。実際、「制圧」は入管法に基づく省令(被収容者処遇規則の第17条の2)で「制止等の措置」として規定されているが、同省令においても「合理的に必要と判断される限度」であるべきだとされており、被収容者を虐待してよいとは、どこにも書いていない。そもそも拷問は日本国憲法で禁じられている。車椅子を使うまでに衰弱していたジャヤンタさんを「制圧」する必要はなく、何度も首を絞めるといった行為は拷問にあたるのではないのだろうか。個人に対し強制力を伴って法に従わせようとする組織が、自分達は法令遵守していないのだから、本末転倒だ。その解体と再構築を含め入管のあり方を根本から問い直す時期に来ているのであろう。

(了)