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嘘と詭弁だらけ 入管の「逆ギレ」が酷いー入管法「改正」Q&Aをファクトチェック

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
クルド難民デニズさん(写真中央)提供 入管による長期収容や虐待が常態化している

 迫害から逃れてきた難民や日本に家族がいるなど、帰国できない事情のある外国人を、その収容施設に長期収容している法務省・出入国在留管理庁(入管)。理不尽な収容によるストレスで多くの被収容者が体調を崩し、入管側が適切な医療を受けさせなかったことによる死者まで出している。入管の収容の判断のあり方については、各地の弁護士会や人権団体から批判され、そして国連の恣意的拘禁作業部会からも「国際人権規約に反する」と改善勧告されている。ところが、入管はQ&Aというかたちで、「開き直り」のような主張をそのウェブサイトに掲載した(関連情報)。これについて、入管問題に詳しい児玉晃一弁護士がファクトチェックを行った。

○入管のQ&Aが酷い

「入管法改正案Q&A」入管庁のウェブサイトより
「入管法改正案Q&A」入管庁のウェブサイトより

 入管による収容は、特に「オリンピックのための治安対策」で近年、2年以上の収容が常態化している。これに対し、国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会(以下、国連WG)からは「収容するか否かについて裁判所による効果的な救済の仕組み」「収容期間の上限」が無いことが、国際人権規約違反だと指摘され、有志の超党派議員による入管法改正案では、改善策として上記2点が取り入れられている。だが、入管のQ&Aでは、裁判所の判断や収容期間上限について「必要ない」と主張。その根拠として、法務省・入管側の入管法改正案で、

「収容するか、監理措置により収容しないで社会内で生活させるかは、その外国人の収容等を行う入国警備官とは別の官職である上級の入国審査官(主任審査官)が慎重に判断する」

からとしている。だが、児玉弁護士は「今の法律でも収容令書を発付するかどうかは入国警備官の請求によって主任審査官が判断するのです。仮放免するかどうかも主任審査官または収容所の所長です」と指摘。「2021年3月6日に亡くなった名古屋のスリランカ人女性*の仮放免を不許可にしたのは、この主任審査官なのです」(児玉弁護士)。つまり、現行法と変わらないものを、さも、改正案による改善点のように見せかけているかたちだ。

 また入管側は「不服があれば、行政訴訟もできる」としているが、児玉弁護士は「行政訴訟の平均審理期間は1年4ヶ月」であると指摘。つまり、その間は収容されていることとなり、これはEUでの収容上限である3ヶ月より、大幅に長い。また、収容の上限を設定することについて、入管側のQ&Aでは

「収容の上限を設けると、上限を超えた人全員の収容を解かなければならない、そうなると退去を拒み続けることを誘発し、退去強制がますます困難になる」

として否定的だ。だが、児玉弁護士は「収容に上限を設けている米国、フランス、ドイツなど国々では、強制送還できなくなっているのか?」と疑問を呈する。「入管の人に直接質問できる機会があったので、この3カ国では収容の上限超えた場合にどうなるのか、当然調べているんですよね、教えて下さいと聞きました。入管は回答できませんでした」(同)。

○米国は収容期限があり、英国は保釈で司法判断

 国連WGから指摘された、収容について事前に裁判所が判断する仕組みがないことや、収容期間の上限がないことが、「国際的な標準から外れているのでは」との指摘について、入管側のQ&Aでは、

「当庁で把握している範囲では,例えば,アメリカ,イギリス,オーストラリア及び韓国においては,収容について裁判所が事前に判断する仕組みはないとのことです」

と書いている。これに対し、児玉弁護士は以下のように指摘する。

「アメリカは収容期限の上限があります」「イギリスは事前判断の仕組みはありませんが、裁判所による保釈制度があります。保釈申請は収容施設内からもFAXでできて、請求から3営業日以内に公開法廷で審理がされます。私も何回か傍聴しましたが、基本的にはその日に保釈するか否かの決定がされて、即日解放されているケースも見ました」(同)

 入管の場合、仮放免の判断は数ヶ月かかることも普通で、その判断はブラックボックスだ。さらに、東京オリンピックの影響で、ここ数年は仮放免の許可数が激減し、長期収容の原因となっている。

○「収容期間の上限」で詭弁

 収容期間に上限がないことが国際基準に反するのではという点についても、入管のQ&Aは

「例えば、イギリス、オーストラリア及び韓国においては、法律上の収容期間の上限はないとのことです」

と、他にも収容期間の上限を定めていない国があるとして、「国際的な標準に外れているとは考えていません」と自己正当化している。しかし、児玉弁護士はこれにも反論。

「イギリスでは2019年で収容期間6か月未満が98%」「韓国も『日韓における外国人収容施設の比較検討』(呉泰成 2019)によれば、平均的な収容日数は15日間」「日本は2020年12月末現在、収容の7割が6か月以上で全然比較にならない」

 つまり、収容期間が上限がないと言っても日本のように長期収容を行っているわけではないということだ。オーストラリアは、長期収容を行っているが「同国の入管収容制度は日本によく似ていて、(国連の)規約人権委員会から何度も恣意的拘禁であるとして自由権規約9条1項違反の指摘を受けています」と児玉弁護士。「こんなものを比較例として『国際基準』だというなど恥ずべきことです」と憤る。

○制度の一部を取り出して比較しているのは入管側

 児玉弁護士が呆れるのは、入管側が各国と日本の制度について「制度の一部のみを取り出して比較するのは適切ではない」とそのQ&Aで書いていることだ。上記したようにイギリスが事前の司法判断はなくても保釈については裁判所が迅速に対応したり、収容期限がなくても日本よりはるかに収容している期間が短いが、入管のQ&Aではこうした点には触れていない。「制度の一部のみを取り出しているという言葉、そのままお返ししたいです」(児玉弁護士)。

○「手本」にしている米国からも批判

 入管のQ&Aでは「日本の入管法は、アメリカの法制度を基礎としている」とも書かれている。要は、日本の入管法が国際基準から外れたものではない、と主張したいのであろう。だが、米国務省は、先月末に公表した2020年の人権報告書の中で、日本での難民認定する割合の低さや難民申請者が入管施設に長期収容されることに言及。皮肉なことに、当の米国からも日本の入管行政は問題視されているかたちだ。

 今回は、主に収容について、児玉弁護士にファクトチェックしてもらったが、入管のQ&Aは他にも事実を捻じ曲げている点がいくつもある。意固地になって詭弁を弄するよりも、批判を受け入れ、改善すべき点は改善するべきだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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