「トランプ氏は平和主義者」って本当?―4年間の「実績」から検証

評価が真っ二つに分かれるトランプ米国大統領(写真はウィキペディアから)

 トランプ氏ほど評価が真っ二つに分かれる政治家も珍しい。「史上最悪の米国大統領」とこき下ろされる一方、「救世主」として崇める「信者」というべき熱烈な支持者達もいる。それは米国でのみならず、奇妙なことに日本においても、リベラルと見られる層にもトランプ支持者が少なからずいる。それは、「トランプ氏は米国の大統領としては、戦争を行わなかった平和主義者だから」との理由だそうだ。だが、本当にトランプ氏は「戦争しない大統領」であったのか。

○ドローン攻撃を多用したトランプ政権

 米国の歴史は常に戦争と共にある。独立戦争に始まり、アメリカ先住民族との戦争、南北戦争、二度の大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、そして、アフガニスタンやイラクなどでの対テロ戦争と、常に米国は戦争を行ってきた。イラクから米軍の大部分を撤退させたオバマ元大統領ですら、ドローン(無人攻撃機)によるテロ容疑者への攻撃で、罪のない現地民間人達も「誤爆」で殺害したことで批判の対象とされている。一方、トランプ氏支持者は「血塗られた歴代の米国大統領に比べ、トランプ大統領は平和主義だった」と主張する。ただ、それはあまりに過大評価であろう。

米軍資料写真
米軍資料写真

 オバマ政権の8年間で行われたドローン攻撃は、1878回であったが、トランプ政権の最初の2年だけで、アフガニスタンやパキスタン、ソマリアなどで2243回ものドローン攻撃を行っている。トランプ政権はドローン攻撃に極めて積極的だったのだ(関連報道)。ドローン攻撃等の米国の空爆については、オバマ政権は大統領令13732により、

・民間人被害を避けるべく、攻撃のタイミングの調整や軍事目標と民間人との峻別を明確

 にする等、予防的な措置を取ること

・民間人被害に関する調査を行い、新たな被害を軽減する措置を取ること

・民間人の死傷者に対する米国政府の責任を認め、負傷した民間人または殺害された民間人の家族に、謝礼金を含むお悔やみを申し出ること

 等の対策を米国の関連機関に命じていた。また、同大統領令は国家情報長官に対し、米軍の空爆によって殺害された戦闘員・非戦闘員に関する報告書をまとめ公表することを求めている。ところが、トランプ政権では、標的を攻撃する判断での軍及びCIAの権限を強化する一方で、民間人殺害に関する報告義務を削除したのだ。大統領令とは別に米国議会の要求によって国防総省は空爆についての民間人被害の報告を求められているが、トランプ政権においてその透明性は不十分で、米軍の報告と民間組織の推計では数十倍の開きがあるという。

○イラク、シリアでの空爆と民間人被害

 トランプ政権は、対IS(いわゆる「イスラム国」)の軍事作戦として、イラクやシリアでの猛空爆を行ってきた。特に2017年は米軍主導の多国籍軍の空爆により、ほぼ毎日、民間人が死亡するという状況が続き、シリア西部では昨年11月になっても空爆が続いていた。英NPO「AIRWARS」の集計及び調査によれば、一回の空爆で100人以上の民間人が殺されたというケースも少なくない。例えば、2017年3月17日、イラク北部の都市モスルへの空爆で、米軍主導の有志連合は105人から141人の民間人が死亡したと発表している。しかも、AIRWARSの現地情報による報告では、同空爆で最大520人(うち370人が子ども)の民間人が殺された、としているのだ(関連情報)。

 AIRWARSの年次報告書によると、2017年の米軍を中心とする有志連合による中東各国への攻撃での民間人被害は、オバマ政権時であった2016年と比較して倍増し、3,923人から6,102人の民間人が死亡したと推定されるという。IS拠点での攻防が激化していた時期とは言え被害は極めて深刻であり、AIRWARSは「トランプ政権が軍事攻撃における民間人保護の政策を縮小した結果だ」と評している(関連情報)。

○イラン革命防衛隊ソレイマニ司令官の暗殺

 トランプ政権によって一時は戦争勃発の危機にまで発展したのが、米国とイランの対立だ。これについては筆者は幾度か記事を書いているが、オバマ政権時(2015年)にイランとの間で成立した核合意―イランはあくまでエネルギー利用として核開発を行い、核兵器には使用しないかわりに米国やEU等は対イラン経済制裁を解除するという合意から、トランプ政権は2018年、一方的に離脱。対イラン制裁を再開した。さらに、トランプ政権は、2020年1月にはイラン革命防衛隊の指揮官ガセム・ソレイマニ氏を空爆で殺害。これに対し、イラン側は、同国の隣国イラクにある米軍基地でミサイルを発射するなどの報復を行った。このミサイル攻撃は事前通告されていたため、米軍関係者が多数死傷する事態とはならず、戦争は回避されたものの、米国とイランの一触即発の対立は続いている。不幸中の幸い、バイデン次期米国大統領は核合意に復帰する意向であり、緊張緩和が期待される。

○イエメン空爆でのサウジアラビアへの兵器売却

 米軍による直接の軍事行動ではないとは言え、米国でも批難の声が上がったのが、トランプ政権によるサウジアラビアへの軍事支援だ。サウジが主導するアラブ諸国の有志連合はイエメンでの内戦に介入、同国への空爆や物資輸送路の封鎖を行った。そのため、多くの民間人が空爆で殺され、また国民の3分の1が飢餓状態にあるなどの深刻な食料危機やコレラ等の疫病が蔓延するなど、「世界最悪」と言われる人道危機に陥った。そのため、米国がサウジに兵器を供与することは、内戦をより一層悪化させるとして、米国連邦議会は、2017年6月に上院で、同年7月に下院でサウジ等へ兵器売却中止を求める決議を可決。だが、これに対しトランプ大統領は「サウジとの二国間関係を損なう」として、拒否権を発動した。その後、現在に至るまでイエメンの人道危機は悪化し続けている。

○「平和主義者」とはとても言えない

 その他、パレスチナ問題では、極端にイスラエルびいきなトランプ大統領の姿勢が、「二国家共存」という、これまでの米国の中東和平の枠組みを危うくしていること(関連情報)、韓国の仲介もあり、最終的には米朝会談にこぎつけ緊張緩和につながったものの、北朝鮮に対し80発もの核兵器使用を想定していたなど(関連情報)、トランプ政権の外交・安全保障政策は極めて危ういものだった。トランプ大統領の強い求めにより、アラブ首長国連邦やバーレーンがイスラエルとの国交を回復したが、これはパレスチナ問題を置き去りにしたものであり、また対イラン包囲網という意味合いも大きい。こうした一連の問題を鑑みれば、「トランプ氏は戦争をしない、米国大統領としては異例の平和主義者だった」という支持者の主張は現実からかけ離れたもの、と結論づけられるだろう。

(了)

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、入管による在日外国人への人権侵害、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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