「令和おじさんの偽善」にインドネシアの人々が抗議した理由―公的資金で公害輸出、温暖化も促進

日本大使館の前で抗議するインドネシアの農民や環境NGOの代表ら 提供:WALHI

 就任後、初の外遊に出た菅義偉首相。訪問国の一つ、インドネシアでは、菅首相の同国訪問にあわせ、日本大使館前で抗議が行われていた。国際協力機構(JICA)が支援を続けるインドラマユ石炭火力発電事業・拡張計画の中止を求める要請書を、現地と日本の8団体が連名で、日イ両国政府に提出したのである。日本の公的資金を使った「経済協力」で、現地の人々の生活が脅かされ、環境破壊が行われる―そんな愚行を菅政権も続けるのか。

○日本大使館前での抗議

 「令和おじさん、クリーンな未来をもたらしてください」「JICAをインドラマユから追放してください」―そんなプラカードを掲げ、日本が支援する石炭火力発電事業に反対する人々の代表者らが、インドネシア首都ジャカルタの日本大使館前でアピールを行った。日・イ首脳会談の翌日、今月21日のことだ。

 抗議の対象となっているのは、インドネシアの西ジャワ州インドラマユ県での、インドラマユ石炭火力発電所の拡張。100万キロワットの石炭火力発電所を増設する計画へ、JICAは発電所の設計等のエンジニアリング・サービス借款として、総事業費18億1,000 万円、うち円借款部分 17 億 2,700 万円を貸し付ける予定だ。

 この計画に対し、現地の住民達や環境団体は、今月19日に日・イ両政府に提出した要請書の中で、以下のような問題点を指摘している。

1)ジャワ・バリ電力系統における電力の供給過剰

2)インドネシア国有電力会社の財務状況をさらに圧迫

3)気候変動対策/脱石炭の動きに逆行

4)環境社会問題(住民の生計手段への悪影響、大気汚染の悪化、住民協議等の不備)

5)建設反対の声をあげる住民への深刻な人権侵害

 中でも、発電所拡張予定地の周辺の住民達が危惧しているのは、健康被害や農業・漁業被害。既存の石炭火力発電所の大気汚染によって、既に子ども達に呼吸器系の疾患が現れている。また、発電所から排出される温排水によって漁獲量も減少し、拡張のため農地が奪われることも懸念されている。石炭火力発電所の拡張によって、これらの問題が一層深刻となることを、住民たちは恐れているのだ。

○有害物質の排出濃度、日本の10~20倍

 要請書を提出した団体の一つ、環境NGO「FoE Japan」の委託研究員である波多江秀枝さんは「環境規制の緩い国へ公害輸出は許されない」と語る。「JICAが検討中のインドラマユ石炭火力発電所の有害物質の排出濃度は、SO2(二酸化硫黄)もNO2(二酸化窒素)もppm換算で日本の石炭火力発電所の10倍から20倍も高い。インドネシアの環境基準が緩いからとは言え、酷すぎると思います」(同)。

【動画】絶え間ない せめぎ合いのなかで ~ 日本が援助するインドラマユ石炭火力・拡張計画と住民の声 *日本語字幕あり 動画右下部分の「字幕(C)」のアイコンをクリック

 実は、日本政府は今年7月、「次期インフラシステム輸出戦略骨子」において、石炭火力輸出を厳格化する新基準をまとめたが、経産省・資源エネルギー庁に聞くと、「骨子での石炭火力発電の輸出の基準は、あくまで温室効果ガス排出減の発電量あたりの効率についてであり、その他の有害物質について定めているものではない」という。

 また、骨子では高効率型の石炭火力発電は輸出を容認しているが、石炭火力発電は高効率のものであっても、天然ガス火力発電に比べ、2倍以上のCO2を排出する。石炭火力の輸出自体を全面的に禁止しないのかと資源エネ庁に聞くと「今のところ、そういった話はない」とのことだ。

環境省資料より
環境省資料より

 そもそもインドラマユ石炭火力発電所のように、進行中の案件は骨子における厳格化の対象外とされているという問題もある。「他にも、インドネシアでは今年稼働すると言われるバタン、建設中のチレボン、そして計画中のベトナムのブンアン2、バングラデシュでのマタバリ2といった石炭火力発電所へ、国際協力銀行やJICAといった日本の公的機関の資金が投じられ、或いは支援が検討されています」(波多江さん)。

○菅首相の所信表明とも矛盾

 菅首相は今月26日に行った所信表明演説の中で「2050年までに日本の温室効果ガス排出を実質ゼロにする」という長期目標を明らかにした。波多江さんは「日本国内の排出ゼロを目指す一方、海外へ石炭輸出を続けるというならば、矛盾しています」と語る。

 近年、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの技術は飛躍的に進歩し、経済性でも石炭火力発電を上回るようになっている。また、石炭関連のプロジェクトや、石炭関連の事業に依存する企業からの投資の引き上げ(ダイベストメント)も機関投資家や政府金融機関の間で広がっている。

 菅首相は「既得権益、先例主義を打倒していく」とその就任時に語ったが、日本の公的資金による石炭火力発電輸出こそ、正に打倒すべき既得権益、先例主義なのではないか。

(了)

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、入管による在日外国人への人権侵害、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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