AIと衛星が暴いた!日本の食脅かす中国の「暗黒船団」―対北制裁にも違反

中国のイカ釣り漁船 Global Fishing Watch 提供

 「庶民の海産物」の代表格と言えるイカ。中でも、スルメイカは煮てよし、焼いてよし、刺し身や干物にもよしと、日本の食卓に欠かせない存在であるが、その漁獲量はここ数年激減しており、昨年のスルメイカ漁獲量は4.2万トンと史上最悪の不漁となった。「スルメイカ危機」の要因の一つとして疑われてきたのが、中国漁船の違法な操業だ。こうした中、違法漁業を監視する民間団体「グローバル・フィッシング・ウオッチ(GFW)」と米国の非政府組織「アウトロー・オーシャン・プロジェクト(OOP)」は、AI(人工知能)や衛星データを活用、北朝鮮領海内で中国漁船による大規模なスルメイカ漁が対北制裁に違反して行われていることを突きとめた。GFWの科学者、パク・ジェヨン氏によれば、北朝鮮領海内での違法操業が、スルメイカ全体の資源量を激減させているのだという。

◯漁獲量がかつての6分の1に

 このままではスルメイカが食卓から消える―そう言っても過言ではない程、スルメイカ漁獲量の激減は深刻なものだ。2011年には約24万トンであった日本でのスルメイカの漁獲量は、昨年には約4万2000トンにまで落ち込んだ。水産庁は、スルメイカの資源量について、「低位で減少傾向」と評価しながらも「中国や北朝鮮による漁獲量や漁場などの情報が不明であるため資源評価が不確実になっている」と情報不足を認めている。日本近海に生息するスルメイカは、東シナ海でふ化したものが日本海や太平洋を北上。東北から北海道にかけての海で成長、再び南下して産卵する。つまり、スルメイカの資源量を正確に把握するには、日本のみならず東アジアの国々の漁獲量についての情報も必要であり、だからこそGFWとOOPによる調査報告は大いに注目すべきなのだ。

◯AIと衛星で「暗黒船団」を確認

北朝鮮領海での違法漁業のイメージ GFW提供
北朝鮮領海での違法漁業のイメージ GFW提供

 GFWは、グーグルや国際的な海洋保護団体オセアナ、衛星画像分析を行う環境保護団体スカイトゥルースによって設立され、衛星データとAI技術の活用により、世界の漁船の動きをほぼリアルタイムで追跡できるシステムを構築した。「暗黒船団」とも呼ばれる、不法な漁獲を行う漁船は、大型漁船に装着が義務づけられている漁船の位置を伝えるための発信器のスイッチを切っているが、GFWは、イカ釣り漁船がイカを集めるために照明を使うことに注目。衛星画像から、北朝鮮領海で操業する漁船を割り出すことに成功し、航路の追跡から中国漁船と確認した。

違法なスルメイカ漁のイメージ GFW提供
違法なスルメイカ漁のイメージ GFW提供

 また、AI技術の一つであるニューラルネットワークによる解析により、2隻の船が並んで航行しながら網を引く中国漁船に独特の「2そう引き」と呼ばれる漁船の存在と動きを確認。洋上で、北朝鮮領海に向かう中国漁船10隻のビデオ撮影にも成功したという。これらの調査により、2017年に900隻以上、2018年には700隻以上の中国の「暗黒船団」が北朝鮮海域でスルメイカ漁を行っていたことが明らかにされた。GFWの科学者、パク・ジェヨン氏は「一国を起源とする船舶によって行われた他国の海域での違法漁業の事例としては、過去最大のもの」と指摘。これらの中国の「暗黒船団」よるスルメイカの漁獲量は、同時期の日本と韓国の年間漁獲量の合計に匹敵する約16万トン、金額では4億4千万ドルになると推計されるのだという。「成長して産卵期を迎える前のスルメイカが北朝鮮領海内で大量に漁獲されていることが、スルメイカ資源が減少する大きな理由で、このままでは漁業が崩壊しかねない」(パク氏)。 

◯対北朝鮮制裁にも違反

 中国の「暗黒船団」によるスルメイカ漁は、国連による対北朝鮮制裁にも違反している可能性が高い。北朝鮮領海内での外国漁船の操業は、漁業権を持つ北朝鮮の外貨収入源となるとして、核実験に対する国連の制裁措置で禁じられている。GFWなどによると、2004年、北朝鮮は中国と数百万ドル規模の漁業権契約を交わし、領海内での中国漁船の操業を認めた。2017年の国連制裁決議でこれは禁じられたが、その後も、北朝鮮が制裁に違反して中国の漁業関係者に漁業権を売却し、外貨を獲得していることが指摘されているのだ。

 また、中国の「暗黒船団」により、北朝鮮の漁民達も苦境に陥っている。GFWによると北朝鮮には多くの漁師の男性が命を落とし、女性ばかりが残った「未亡人村」と呼ばれる地域まで生まれているという。韓国海洋水産開発研究院のリー・ジュンサム研究員も「中国漁船に漁場を奪われ、小さな船なのに遠くまで漁に出かけ、無理な操業をしている北朝鮮漁船が暴風で壊れたり、エンジンに不調が発生したりした結果、海流に流されている」と指摘。北朝鮮のものとみられる木造船の漂着が日本沿岸で相次いでいることとの関連性について言及した。

◯「暗黒船団」=IUU漁業の撲滅を

 スルメイカに限らず、各国の「暗黒船団」=IUU漁業(「違法」「無報告」「無規制」の漁業)による海洋資源の収奪は、極めて深刻な問題だ。OOPの設立者であるイアン・アービナ氏は「人工衛星データなどを使った今回の調査は、世界の海洋での不法行為を取り締まることができるという希望を与えてくれる」と語る一方、「海の上での人権侵害や不当な行為、(乱獲などの)環境破壊などを防ぐ努力が軽んじられているという事実を示すものでもある」と警鐘を鳴らす。日本としても、IUU漁業撲滅の取り組みに力を入れるべきであろう。

(了)

『追いつめられる海』(岩波書店)等、環境問題に関する著作が多数ある井田徹治・共同通信編集委員のコメント

 今回明らかになったような違法漁業は、「違法・無報告・無規制」の英語の頭文字をつなげてIUU漁業と言われる。国連食糧農業機関(FAO)によると、IUU漁業の水揚げは最大で年間2600万トン、その価値は230億ドル(約2兆6千億円)にも上る。IUUはGFWのグループが指摘するように、資源枯渇の原因ともなり、根絶が急務になっている。GFWという最新の技術を使ったシステムがIUU対策に貢献できることは重要だ。

 水産庁は、スルメイカ減少の理由として、産卵海域などでの海況の変化や中国による乱獲やIUUの可能性を指摘しているが、日本国内の資源管理にも問題がある。水産庁は資源管理のために年間の漁獲可能量(TAC)を定めているが、毎年、漁獲量はこれを大きく下回っている。TACの枠は事実上、意味がなく、取り放題の状況が続いているのが実情だからだ。国際的な資源管理の必要性を各国に呼び掛けるなら、スルメイカの大漁業国の一つとして日本国内でも資源の現状に配慮した実効ある資源管理策を実行することが重要だ。

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、入管による在日外国人への人権侵害、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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