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【都知事選】残念・小池百合子、覚醒した山本太郎、高評価の宇都宮けんじ―政策レビュー、生存としての環境

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
都知事選は7月5日に投開票される(写真:つのだよしお/アフロ)

 7月5日投開票の東京都知事選。新型コロナ対策が大きな焦点となっているが、それ以外にも重要課題はある。例えば地球温暖化(=気候危機)への対策だ。温暖化が原因と見られる異常気象は、既に都民にとって非常に大きな脅威である。昨年10月の台風19号による猛烈な大雨で、墨田区や江東区など250万人が暮らす東京東部の江東5区は、河川氾濫による水没寸前の危機にあった。紙一重で回避されたものの、仮にもっと雨量が多かったら、大変な惨事となっていただろう。また、世界的な大都市である東京都の温室効果ガスの排出量は、ギリシャやフィンランド等の一国分に相当する。東京都の環境政策は、地球規模の視点で行われていく必要があるのだ。そこで、小池百合子氏、宇都宮けんじ氏、山本太郎氏の注目3候補の温暖化対策を、公開されている政策集などからレビューする。

◯小池氏はもっとやる気がほしい

小池百合子氏のウェブサイトより
小池百合子氏のウェブサイトより

 まずは、小池氏。昨年はスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんはじめ、自身の生存の危機として気候危機への対応を求める若者達が世界各国で立ち上がり、国連総会の中でも最重要課題の一つとなった。小泉純一郎政権で環境大臣も経験した小池氏としては、当然、温暖化対策にも力を入れるものと思いたいところ。だが、小池氏の政策集を見ると、「地球温暖化」や「気候危機」といった文字すらない。関連するだろう政策としては、

・「サステナブル・リカバリー」(持続可能性にも配慮した経済復興):CO2排出減少などの環境配慮と経済活動が両立する社会・経済モデルへの移行

・家計・環境に優しい省エネ家電の導入促進

出典:https://www.yuriko.or.jp/policy

 といったものくらい。小池氏は、昨年5月、世界の主要都市による国際会議「U20」で、「2050年までに東京都の温室効果ガス排出を実質ゼロにする」との目標を発表した。だからこそ、具体的な対策を示すべきなのだろうが、少なくとも都知事選での公約集からは、いかに「2050年排出ゼロ」を実現するかは読み取れない。また、「2050年排出ゼロ」は一見、非常に高い目標に見えるが、温暖化対策の世界的な合意『パリ協定』で、気候危機による破局的な影響を避けるための「主要先進国は2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」という目標をなぞったに過ぎない。もともと、東京都は国内の自治体としては初の排出量取引*を実施するなど、先駆的な取り組みを行ってきたが、それは小池都政の実績というより、それ以前からの東京都の知事らや職員達の取り組みであると見るべきだろう。以上から、都知事選における小池氏の温暖化対策の筆者の評価は、「残念」というものとなった。

*動画参照 

◯意気込みを感じる宇都宮氏

宇都宮けんじ氏のウェブサイトより
宇都宮けんじ氏のウェブサイトより

 次に、立憲民主、共産、社民等の野党共闘候補である宇都宮氏。結論から言えば、有力候補3人の温暖化対策では、"2030年までに50%の排出削減をめざします"とあるように宇都宮氏のそれが最も意気込みを感じられる。同氏は自らが掲げる重要政策として、"都心一極集中・大規模開発優先の都政を転換し、コミュニティと「気候危機」対策を重視する都市構造をつくります"とアピール。具体策としては、脱石炭・脱化石燃料を明確にしたことが素晴らしい。

"東京都CO2排出の燃料別で66.2%を占める電力部門のCO2削減のために、東京電力に対して石炭火力発電の新規建設中止、早期撤退を要求します。そのために、東京電力の大口株主(第4位)であることや、石炭火力・化石燃料からの投資撤退が世界的流れであることを踏まえ、東電からの投資撤退も選択肢に含めて、脱石炭・脱化石燃料を要求します"

出典:http://utsunomiyakenji.com/policy/important02

また、産業や業務、交通などの部門からの排出が多いところに着目しているのも手堅く、

"二酸化炭素を大量に放出する事業者に対しては東京都の補助金等を減らし、二酸化炭素の放出削減など「気候危機」対応をしている企業には独自の補助や投資をおこなうことを検討します"というものや、"電気自動車、燃料電池車など低公害車の普及を強力に進めます。「電気スタンド」「水素ステーション」を増設します"

出典:http://utsunomiyakenji.com/policy/important02

などを提示している。さらに

"「気候危機」対応の脱原発型・低炭素型のものに改修・改築することを大幅に促進します。これにより、地域の中小建設業・住宅産業を活性化させ、雇用を増やします"

出典:http://utsunomiyakenji.com/policy/important02

 など、いわゆるグリーン・ニューディール、つまり、温暖化対策の事業を行うことで、雇用を生むという提案をいくつもしている。とりわけ、

"大規模工場の移転・閉鎖が相次ぎ、厳しい経済状況にある多摩地域をグリーン・ニューディールによって再生する"

出典:http://utsunomiyakenji.com/policy/important02

との提案は興味深い。ただ、欲を言えば、もう少し対策を具体的なものにし、自然エネルギーや電気自動車の導入等の数値目標を設定するなど、いかに東京を脱炭素都市にするのかの実現性を見せてくれたら、なお良かったと言える。とは言え、意気込みは強く感じられるので、全体としては「高評価」だと言えよう。

◯山本氏の「覚醒」

山本太郎氏のウェブサイトより
山本太郎氏のウェブサイトより

 さて、筆者にとって意外であったのが、山本氏の「覚醒」だ。環境NGO「気候ネットワーク」による昨夏の参院選での各党の温暖化対策レビューで、山本氏率いるれいわ新選組は、安倍政権に対抗しようとする野党の中では、最も低い評価だった。それは「エネルギーの主力は火力」とアピールしたところにも現れていた。ただし、世界的には、太陽光や風力などの自然エネルギーの経済的な競争力は驚くべき進化を遂げ、国や地域によっては最も安い電力は太陽光となっている。日本の場合、大手電力による電力網の独占体制により、自然エネルギーの価格が諸外国に比べ高いことが指摘されてきたが、今年から発送電分離が本格化し、2020年代半ばには、自然エネルギーの優位性が顕著になると言われている。話を山本氏の政策に戻すと、彼も宇都宮氏と同様、グリーン・ニューディールを強くアピールしている。また、具体策としては、

"再生可能エネルギー推進のためには、送配電の小グリッド化推進と蓄電施設設置の推進を行い、エネルギーの地産地消および地域間連携を東京都で推進します。都市農業エリアにおける営農型太陽光発電はじめ小規模太陽光発電や小規模風力、昼夜・季節間で温度変化が小さい地中温度と地上温度の温度差を利用して熱エネルギーを取り出す「地中熱」の利用促進のために公的資金融資を推進。新規住宅やリフォーム時に再エネや地中熱利用、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)などを促進する導入費用を都が補填します"

出典:https://taro-yamamoto.tokyo/policy/

 とあり、目の付けどころのセンスの良さを感じる。恐らく、温暖化対策に詳しいブレーンがついたのであろうが、聞く耳を持ち、進化し続けるのが山本氏の良いところだろう。

 以上、注目候補3人の温暖化対策を比較してみた。未来の世代に、人間が生存できる地球環境を残せるか。候補者だけでなく、有権者もまた問われているのだ。

(了)

*2020年6月29日20時26分 宇都宮氏の政策について加筆。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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