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新型コロナ流行させた?!中国の「食」と「漢方」、世界のリスクに―過去にもSARS流行【補足あり】

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
新型肺炎の感染拡大で東京オリンピックも開催が危ぶまれる 東京2020プレビュー(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 世界中をパニックに陥れている新型コロナウイルス。日本国内でも安倍首相が全国の公立小中学校の休校を要請、東京オリンピックの開催も危ぶまれるなど、騒動は広がるばかりだ。その発生源は、中国の中部、湖北省武漢市とされているが、新型コロナウイルスが流行した背景には中国の「食」と「漢方」があるのでは―中国当局も含め、各国が疑いの目を向けている。これらの野生動物の利用は「希少動物を絶滅へと追いやっている」と、かねてから自然保護団体などから批判されてきたが、今回の新型コロナウイルスの流行で、無規制の野生生物取引は世界的な人獣共通感染症の流行リスクと成りうることが改めて危惧されている。

◯希少動物が漢方薬の原料に

 「四足のものはテーブル以外、何でも食べる」―中国の食文化の多様さとして、よく言われる言葉であるが、実際、中国では、様々な野生動物が食用や漢方薬の原料として消費されている。だが、人口増や購買力の向上によって、中国国内のみならず、世界各地で中国向けの野生動物の密猟が増加、希少動物が絶滅の危機に瀕している大きな原因となっている。

 例えば、トラはかつてアジアの広範囲に生息していたが、生息地の開発に加え、骨がリウマチに効くと信じられているため、漢方薬の原料としての密猟が横行。中国に生息していたアモイトラは、既に野生では絶滅していると見られる。インドのベンガルトラや、ロシアのアムールトラも、中国向けの密猟の脅威に晒され続けている。サイのツノも解熱薬や解毒薬としての効果があると信じられ、アフリカやアジアでのサイの密猟が横行する原因となり、特に東南アジアに生息するスマトラサイは野生のものは約80頭程しか生存しておらず、正に絶滅寸前だ。トラの骨やサイのツノなど、野生動物を原料とした漢方薬の効果には科学的な根拠がないにもかかわらず、中国では根強い人気がある。さらに食用としても、コウモリやハリネズミ、カメ類やヘビ類など、様々な野生動物が生鮮市場で売買されている。中国当局の統計によれば、こうした野生動物の市場規模は約2兆円とも言われ、その中には上述したような希少動物の違法取引も含まれるのだ。

◯人獣共通感染症のリスク

 自然保護団体や野生生物の研究者らから問題視され続けてきた中国での野生生物の消費であるが、希少動物を危機に追いやっているという問題の他、人獣共通感染症の流行の原因となりうるというリスクがある。2002年、アジアを中心に32の国や地域に拡大したSARS(重症急性呼吸器症候群)も、中国の野生動物市場で売られていたハクビシン(ジャコウネコ科の一種)からウイルスが検出されたが、元々は野生のコウモリ(キクガシラコウモリ)が宿主だったとみられている。SARSは、発熱や咳などインフルエンザに似た症状で、1~2割が重症化、呼吸不全などを引き起こした。致死率は平均で約10%だが、65歳以上では50%以上とかなり高かった。

 今回の新型コロナウイルス(COVID-19)も、元々の宿主はコウモリだと目されている。WHO(世界保健機関)は、コウモリからセンザンコウに感染し、さらに人間へと感染した可能性を指摘している。センザンコウとは全身を鎧のようなウロコで覆われたアリクイのような哺乳類。中国では肉が珍味として食用にされる他、ウロコが喘息やがんに効く薬となると信じられているが、科学的根拠はない。センザンコウは「世界で最も密猟されている動物」だとも言われ、2019年にアフリカからアジアへと密輸されたウロコは実に97トン、15万匹分に相当するという膨大な量であった(関連情報)。

◯中国政府は無規制の野生生物取引に恒久的な対応を

 食文化は各国各地固有のものがあり、貴賤を評価されるものではないとは言え、絶滅へと追いやるまでに、その種を食べ尽くすことは、現代の国際社会においては許されない。また、SARSに続き、新型コロナウイルスによる肺炎と、二度も世界的なウイルス禍をもたらしたのであれば、中国の責任は軽いものではないだろう。野生動物市場では、感染源となる動物と人間の接触の機会が必然的に多くなるため、危険な人獣共通感染症が広まりやすい環境にある。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、中国当局は、野生動物を食べる習慣を「悪習」として批判し、野生生物の販売を一時的に禁止する処置を取っているが、無規制或いは違法な野生生物取引を徹底的に根絶しなければ、今後も人獣共通感染症を流行させてしまうリスクから逃れられないだろう。国際社会としても中国当局に強く対応を求めるべきだ。

◯日本の対応も問われる

 ただ、野生生物の違法取引という点では、問題は中国だけではない。日本もペットとして、様々な昆虫や魚類、鳥類、爬虫類や哺乳類などを密輸し、世界有数の違法取引市場となっている。これらの密輸された野生生物が、新たな感染症の発生源とならない保証はない。また、象牙については、中国が同国での象牙売買を禁止した現在、日本が世界最大の象牙取引市場となっているのだ。

 また日本ではウナギのかなりの割合が密漁されたものであり、しかも、毎年「土用の丑の日」では、大量のウナギが売れ残り、食べもしないで廃棄するという愚行を繰り返している。中国に強く対応を求める以上、日本もまた自国のスタンスを問われることになる。単に中国を叩けば良いというものではなく、生物多様性の保全と、公衆衛生上の安全のため、野生生物の違法取引を根絶していく取り組みを率先して行っていくことが、日本にも求められているのだ。

(了)

*本記事は志葉玲公式ブログの記事を転載・加筆したもの。

https://www.reishiva.net/entry/2020/02/26/114939

*【補足】中国湖北省武漢などを視察したWHOと中国の専門家チームは「新型コロナウイルスはコウモリからセンザンコウを介して広がった可能性がある」との認識を示しているが、「可能性」であり断定ではないため、記事中での断定的な表現を修正した。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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