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なぜ安倍首相は国連に「拒絶」されたのか―過去にも警告を受けていた日本

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
国連気候行動サミットで温暖化防止を強く訴えたグレタ・トゥーンベリさん(写真:ロイター/アフロ)

 スウェーデンの少女で環境活動家のグレタ・トゥーンベリさん(16)が、温暖化対策へ本気で取り組むよう求めた演説が、日本でも話題となった、今年9月の国連気候行動サミット。この気候行動サミットには小泉進次郎環境大臣も参加したものの、発言の機会はなかった。そして、共同通信の先月29日付の配信記事によると、安倍晋三首相自身も気候行動サミットに参加し演説することを打診していたが、国連側から断られた、というのだ。

◯各国政府要人と安倍首相の明暗

 米国ニューヨークで今年9月に開催された国連気候行動サミットでは、アントニオ・グテーレス国連事務総長の呼びかけに応じ、各国の政府要人が参加。自国の温暖化対策への取り組みについて演説した。例えば、

・ドイツは2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにすること、

・インドは太陽光や風力等の自然エネルギーによる発電能力の大幅な増強を行うこと、

・中国も世界全体の温室効果ガス排出を半分以下に削減させるため取り組むこと、

を約束した。共同通信の記事によれば、安倍首相も、G20大阪サミットの結果を含めて演説するつもりであったが、国連側から断られていたという。その大きな要因として、温室効果ガスであるCO2を大量に排出する石炭火力発電を安倍政権が日本のエネルギー政策として推進していること、さらには、日本が途上国の石炭火力発電所建設へ資金援助を続けていることがあったと共同通信は報じている。

石炭火力を推進する安倍政権へ海外のNGOも抗議。今年9月の国連気候行動サミットで。

◯日本への厳しい視線

 この共同通信の報道について、菅義偉官房長官は先月29日閣議後の会見で否定。「国連側から発言要請があったが、日程の都合上、参加できなかった」と語った。だが、石炭火力発電を推進している安倍政権に、国連関係者達や関連機関が厳しい視線を向けていることは、誤魔化しようのない事実だ。例えば、クリスティアナ・フィゲレス前国連気候変動枠組条約事務局長は、今年2月の来日時、日本記者クラブ主催の会見で、「日本は石炭火力発電の新設はすべきではない」「石炭火力技術の輸出を続けることで、日本は国際的評判を落としている」と警告している。

 

 また、国連環境計画(UNEP)が今月26日に公表した報告書も、日本に対し「新規の石炭火力発電の建設の中止、スケジュールを定めた既存の石炭火力発電の段階的な廃止、CO2を出さない電力供給といったエネルギー戦略を作成すること」と勧告している。

 2012年以降、安倍政権の下で日本では大小50基の石炭火力発電所の建設が計画され、うち13基は中止となったものの、15基が新規稼働、22基の計画が進行中なのだ(関連情報)。

石炭発電所ウォッチのウェブサイト 日本全国の新規建設計画がまとめられている
石炭発電所ウォッチのウェブサイト 日本全国の新規建設計画がまとめられている

◯脱石炭が日本の命運を左右する

 今回の共同通信の報道を受け、環境NGO「FoE Japan」気候変動・開発金融と環境担当の深草亜悠美さんは、志葉の取材に対し次のようにコメントした。

「パリ協定*の実施を目前に控えたこのCOP(気候変動枠組条約締約国会議)で、日本が脱石炭を目指すということを世界にはっきりと伝えるべき。銀行や商社など、様々なアクターが脱石炭方針を打ち出し始めており、新たな石炭火力発電所を建設するのは非常に難しくなっている。日本政府にとっても、脱石炭を方針として打ち出すハードルはそこまで高くないはずだ。一方で、JICA(国際開発機構)がかかわるインドラマユ石炭火力発電事業や、ベトナムで三菱商事が出資しているブンアン2石炭火力発電所、ビンタン3石炭火力発電所など、今後計画が進むとみられる案件も残っている。今後、石炭火力が座礁資産化*する可能性が高い中、政府による方向転換は大きな意味を持つはずだ。また、石炭以外にも日本は海外でのガスや石油事業に大きな公的資金を投入している。これらについても、見直されるべきだ」

出典:環境NGO「FoE Japan」気候変動・開発金融と環境担当の深草亜悠美さん

 本日2日からスペイン・マドリードでCOP25が開催されるが、日本がこれまでの様なスタンスを取り続ける限り、その国際的信用がさらに落ちることは確実だ。世界経済が「脱炭素社会」を目指す中、ビジネスチャンスを失い、日本経済にも重大な悪影響が及ぶ可能性も高い。何より、巨大台風や豪雨による被害が甚大化しているなど、温暖化の脅威は日本の人々にとっても現実のものとなっている。温暖化を止めることは、文字通り私達の存亡にかかわること。日本政府関係者は勿論のこと、有権者も、もっと危機感を持つべきなのだ。

(了)

*本記事は、志葉玲公式ブログhttps://www.reishiva.netより転載したもの。

*パリ協定:世界の平均気温上昇を、産業革命前と比較して「2℃よりも十分に低く」抑え「1.5℃に抑えるための努力を追求する」こと、今世紀後半に世界全体の温室効果ガス排出を実質ゼロにすること等を定めた温暖化防止のための全世界的な協定。2015年12月にCOP21で採択され、翌年11月に発効。実施は2020年からとなる。

*座礁資産:市場や社会環境の激変により、価値が大きく低下する資産のこと。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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