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魚より多くなる!プラスチックだらけの世界の海 国際社会の対応は

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
コートジボワールの沿岸 プラスチックごみの海への流出は世界的な問題(写真:ロイター/アフロ)

 新たな環境問題として、その対応が国際社会の大きな課題となっている、海洋プラスチック問題。今回の「志葉玲のジャーナリスト魂! 時事解説と現場ルポ」では、この海洋プラスチックごみ問題を解説。また、東京経済大学で今年10月26日に行われたシンポジウムでの、高田秀重教授(農工大)の講演をリポート。

◯10歳と12歳の少女が実現、脱レジ袋

 コンビニやスーパーなど、日本では当たり前に使われているレジ袋。しかし、インドネシア・バリ島では、「環境を汚染する」として、レジ袋が禁止されています。それは、2013年当時、10歳と12歳だった、少女達が始めた活動によるものなのです。

 世界有数の観光地として多くの観光客が訪れるバリ島。しかし、人々が捨てる大量のごみが美しい海岸を汚してしまっています。そんな状況に心を痛めたワイゼン家の姉妹メラティさんとイザベルさんは、レジ袋をなくそうと「バイバイプラスチックバッグ」という活動を立ち上げました。学校の友達や同年代の若者達に協力を求め、SNSで活動を広めていきました。やがて、バリ島中の子ども達が「バイバイプラスチックバッグ」に参加していきました。メラティさん、イザベルさん達は、海岸でゴミ拾いをしたり、講演を行ったり、エコバックを配ったり、バリ島内のお店やレストランをまわりレジ袋廃止への賛同を求めました。さらに、年間1600万人が乗り降りするバリ空港でのレジ袋廃止署名活動を行いました。子ども達の熱意を大人達も無視できなくなり、「バイバイプラスチックバッグ」は、バリ島での最大級の環境保護運動に発展。さらに、メラティさんとイザベルさんはハンガーストライキまで行って、レジ袋廃止をバリ州の知事に求めました。これには、バリのワヤン・コスター州知事も、すぐさまメラティさんとイザベルさんを自分のオフィスに招き、レジ袋廃止を約束しました。そして、2018年末、コスター州知事は、プラスチック製の袋やストロー、発泡スチロールの使用を禁止すると発表したのです。「すごいことをするのに、大人になるまで待つ必要はありません」「子どもには無限のエネルギーと世界が必要とする変化を起こすモチベーションがあります」「やりましょう!変革をおこしましょう」―メラティさんとイザベルさんは、世界最高峰のスピーチイベント「TED」で、そう呼びかけました。たった二人の少女が始めた活動の成果は、バリ島のみならず、プラスチック問題に頭を悩ませる世界の人々に大きな希望を勇気を与えたのです。

 海洋プラスチック問題は、近年、新たに世界的な課題となっています。レジ袋やペットボトル、その他のプラスチック容器、さらには漁網などの漁業関係のごみなど、様々なプラスチックのごみが海に流出してしまっています。その量は、少なくとも年間800万トンといわれ、これはジャンボジェット機5万機分、東京スカイツリーの222基分という、凄まじい量です。プラスチックごみは、自然の中で分解しづらく、数十年から数百年という長期間、自然の中に存在し続けます。そして、誤って食べてしまったり、漁網や釣り糸などが絡まってしまったりと、海鳥やウミガメ、アザラシ、クジラなど海の生き物達は、プラスチックごみによって、傷ついたり、命を落としたりしてしまいます。さらに、海岸での波や日光(紫外線)等の影響を受けるなど、5ミリ以下に細かくなったマイクロプラスチックは、海を漂い、生物の身体に蓄積されていきます。マイクロプラスチックには、有害な化学物質が融合することがわかっており、それが生物の身体に蓄積することでどの様なことがおきるのか。まだ詳しくはわかっていませんが、何らかの悪影響が及ぶのではないか、とも懸念されています。

◯海洋プラスチック問題への国際的な取り組み

 世界の人々が使い捨てプラスチックを使う限り、海に流出するプラスチックの量はどんどん増えていくことは確実です。世界経済フォーラムの報告によれば、2050年にはプラスチック生産量はさらに約4倍となり、「海洋プラスチックごみの量が海にいる魚を上回る」と予測を発表しているのです。海洋プラスチック問題に対応するための、国際的な動きも始まりつつあります。2018年6月にカナダで開催されたG7(主要7カ国首脳会議)では、プラスチックのリサイクル・再利用や使い捨てプラスチック製品の大幅削減などの対応を求める「海洋プラスチック憲章」が採択されました。ただ、この海洋プラスチック憲章に署名したのは、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、イギリスとEUだけ。米国と日本は署名を拒否し、国際社会から批判を浴びました。その一年後、2019年6月に大阪で開催されたG20サミットでは、海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」が合意されました。しかし、これに対し、グリーンピース・ジャパンや、一般社団法人 JEAN、容器包装の3Rを進める全国ネットワークなど、日本で活動する24団体は、共同で声明を発表。大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの合意を歓迎しつつも、対策として不十分であると指摘しました。その理由として、大阪ブルー・オーシャン・ビジョンの「2050年までに」という達成期限が遅すぎること、そして、「法的拘束力のある各国のプラスチック使用削減目標設定を含む実効性のある枠組み」がないことをあげています。その上で、

1.海洋プラスチック汚染問題を包括的に解決するための、2030年までのプラスチック使用量の 大幅削減目標を含む、法的拘束力のある国際協定の早期発足に主体的に貢献していくこと

2.2030年までの意欲的なプラスチック使用量削減目標を、日本政府が率先して早急に設定し世界に示すことで、同様の動きを働きかけていくこと

3.NGO、市民団体との実質的な対話や連携を開始すること

 の3つの政策を行うよう、求めています。

◯マイクロプラスチックの厄介さ

高田秀重・東京農工大学教授 筆者撮影
高田秀重・東京農工大学教授 筆者撮影

 海などに流出したプラスチックごみの厄介なのは、日光や波などによって細かく砕けたマイクロプラスチックの状態になると、回収が事実上不可能になる上、様々な海の生き物の体内に蓄積してしまう、ということでしょう。日本でのマイクロプラスチック研究の第一人者である高田秀重・東京農工大学教授は、マイクロプラスチックが生物に与える影響を懸念しています。

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フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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