「東京から札幌」どころではない夏季オリンピックの危機-パリ協定発効から3年、希望はあるか?

東京2020オリンピック 1年前セレモニー (写真:つのだよしお/アフロ)

 2020年東京オリンピックでのマラソン・競歩の開催地は、東京から札幌に変更。猛暑による選手への影響は当初から懸念されていたが、先月、中東カタールで行われた陸上世界選手権で女子マラソン参加選手の約4割が暑さのため途中棄権という惨状を受けてのIOC(国際オリンピック委員会)の強行姿勢に、東京都や日本政府、JOCが押し切られたかたちだ。だが、今年の夏、熱中症患者が続出したように、札幌でも猛暑リスクがないわけではない。欧米でも強烈な熱波に襲われるなど、地球温暖化の影響がいよいよ現実のものとなっていく中、夏季オリンピック自体が存続できるのかという疑問が生じてくる。

○札幌でも猛暑リスク

 マラソン・競歩の開催地を札幌に移したものの、猛暑リスクがなくなったわけではない。今年、札幌では7月下旬から8月上旬にかけ、連日、最高気温が30度以上となった。「熱中症疑いによる救急搬送」は、7月が100人、8月が128人であった。気温に加え、日射や湿度から計算され、労働・運動環境の国際的な指針とされる「暑さ指数」(WBGT)でも、8月上旬では午前中ですら、(公財)日本スポーツ協会が「激しい運動は中止」とする、WBGT28~30度に達する日があった。

環境省サイトより
環境省サイトより

 それでも、札幌は東京に比べればマシだ。札幌の夏場の最低気温は低く、今年8月上旬の最低気温は17.7度から25.3度の間で上下している。早朝の気温の低い時間帯であれば、猛暑リスクは軽減されるだろう。ただ、鍋倉賢治・筑波大学教授が約180万人のデータからまとめた論文によると、マラソンを行う上での適温は「6~8度」(中・上級者)。つまり、札幌の夏場の最低気温であっても、選手達が最高のパフォーマンスを発揮できる環境とは言い難いのである。

○夏季オリンピック自体が危うい

 問題は、東京か札幌か、という範疇にとどまらない。今後、温暖化が進行する中、夏季オリンピックのあり方自体が問い直されることになるだろう。夏季オリンピックは、東京やソウル、北京など以外は、主に高緯度にあり冷涼な欧米で行われてきた(メルボルン、シドニー、リオデジャネイロは南半球なので、夏と冬が逆)。だが、近年、欧州を強烈な熱波が襲うようになってきた。とりわけ、今年7月の熱波は凄まじく、フランス・パリでは42.6度と過去最高気温を塗り替えた。ドイツ、オランダ、ベルギーでも40度超え。英国ロンドンも38.1度を記録。米国でも、ニューヨークやワシントン等の主要都市で38度近くまで気温が上昇した。8月上旬には、スペインとポルトガルは46度台と「殺人的」とも言える高温となった

米国海洋大気庁(NOAA)のサイトより 今年7月の欧州熱波
米国海洋大気庁(NOAA)のサイトより 今年7月の欧州熱波

 これらの猛暑の原因は、地球温暖化によって世界平均気温自体が上昇していることに加え、上空を流れる偏西風が大きく蛇行し、熱帯の空気が北半球に流れ込んだためだ。そして、英オックスフォード大学の研究などが指摘するように、偏西風の大蛇行も、温暖化の進行によって頻発すると見られている。IOCは夏季オリンピックの開催を原則7、8月としているが、この時期、北半球の国々では今後も猛暑に見舞われる可能性は高い。多くの国々の気候が、屋外での激しい運動を行うことが困難なものになりつつあるのだ*。

*夏と冬の時期が逆転している南半球で「夏季オリンピック」を続けるという選択肢はある。

○このままではオリンピックどころか日本が危うい

 スポーツが好きな方々には言葉が悪いかもしれないが、このまま温暖化が進行するならば、オリンピックどころの話ではない。人間社会の存続すら危ぶまれるのだ。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第5次評価報告書は、今後、温暖化が進行した場合のリスクについて、以下のようなことが起きうるとしている。

・高潮や海面上昇による水害の増加、生計の崩壊

・極端な気象現象によるインフラの崩壊

・熱波による死亡や疾病の増加

・農業生産減少による食料不足や水資源不足

 こうした傾向は既に日本でも現実化していると言えよう。今年の台風15号、19号は、日本近海の高い海面水温のため、勢力を保ったまま上陸し、暴風や水害で、各地の住宅地や電力網や鉄道、道路、工業地帯、農業や畜産業が甚大な被害を受けた。この2つの台風による被害額は農林水産関連だけでも1800億円以上に及んでいる。毎年、規格外に大規模な自然災害が襲ってくるようになれば、日本経済が破綻することにもなりかねない。実際、今年9月に発表されたIPCCの最新報告書『変化する気候下での海洋・雪氷圏に関する特別報告書(SROCC)』は、温暖化の進行によって、これまで「100年に1度」であった大規模な気象災害が毎年起きるようになると警告しているのだ

 温暖化による破局的な影響を防ぐためには、世界平均気温の上昇を1.5度以下、最悪でも2度以下に抑える必要がある。だが、現在、各国政府が掲げる削減目標では、仮にそれを達成したとしても、今世紀末に世界の平均気温は最大で3度以上も上昇する見込みだ。つまり、全く不十分なのである。本記事の配信は、温暖化防止のための国際合意「パリ協定」の発効(2016年11月4日)から3年という節目にも合わせたものであるが、3年前より状況ははるかに切迫したものとなっている。日本を含め各国が国家として何をやるべきなのか、優先順位の見直しが必要だろう。

○オリンピックを機会に現状を認識しよう

 残念ながら、日本では猛暑や台風、大雨などの被害を目の当たりにしてもなお、温暖化への危機感が十分とは言えない。温暖化対策に対しても、それが決して負担だけではなく、新たなイノベーションや雇用を生む絶好の機会にもかかわらず、後ろ向きだ。とりわけ、政府与党やマスメディアはそうした傾向が顕著だ。だからこそ、今の政府与党やメディアにとって最大の関心事である東京オリンピックが、猛暑に脅かされていることから-非常に皮肉で愚かしいのだが-温暖化対策の重要性に気がつくことを願うばかりである。それこそ、オールジャパンでの取り組みが、我々やその子孫の未来を守るために必要なのだから。

(了)

*本記事は、志葉玲公式ブログ「志葉玲タイムス」の記事を加筆したもの。 https://www.reishiva.net/

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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