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救急車を二度追い返した!東京入管の非道、医師法や法務省令に違反の指摘~手遅れで死亡した事例も

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
東京入国管理局とその前で抗議する人々 筆者撮影・資料写真

 法務省・東京入国管理局(東京入管)で、またも重大な人権侵害の疑惑だ。一昨日12日、東京入管に収容されているトルコ籍クルド難民の男性チョラク・メメットさんが「生命の危機」を感じる体調不良を訴え、家族に救急車を呼ぶよう訴えた。だが、東京入管は、二度にわたり、駆けつけた救急隊員を拒絶。チョラクさんに救急隊員を会わせることすらしなかった。支援者らの通報を受け、本件を野党議員達も問題視。13日の衆院法務委員会でも取り上げられた。

◯救急車を二度拒絶

 「どうしたらいい?旦那は、朝まで生きられないかもしれない」-12日深夜、難民支援等を行うNPO法人「WELgee」代表の渡部清花さんに助けを求める電話がかかってきた。震える声で訴えるのは、チョラクさんの妻。彼女に渡部さんが聞き取りしたところによると(関連情報)、12日午前中、チョラクさんに面会に行った際、既に入管職員二人に抱えられて来るなど、一人で歩くことすらできない状況だった。そのため、チョラクさんの妻が、東京入管の総務課に「外部の病院に連れて行って下さい」と頼むと、対応した入管職員は「午後から来る医者に診察させる」と答え、同日15時半に「医者に診察させ、薬を与えた」と報告。チョラクさんの妻は、埼玉の自宅へ一旦帰宅した。

 だが、その後、チョラクさんは電話で、実際には薬を与えられるどころか、医師の診察すら無かったのだと言う(東京入管側は「診察を受けさせた」と主張。ただし、当直は精神科の医者だったとの情報も)。チョラクさんの妻は慌てて東京入管に戻り、「救急車のお金を自分たちで払うので、旦那を病院に行かせてください」と懇願したものの、職員は対応しなかった。さらに再度、チョラクさんからSOS電話があったため、チョラクさんの妻に付き添った友人が救急車を呼んだ。だが、12日19時25分頃、駆けつけた救急隊員に対し、入管職員は「看護師がいるから大丈夫」と、チョラクさんに救急隊員を会わせることすらせず、帰らせてしまったのだ(筆者の取材に対しても東京入管側は、救急隊員とチョラクさんをあわせなかったことを認めている)。

 しかも、入管職員がチョラクさんの妻に伝えたところによると、実際にはその時、東京入管に看護師はいなかったのだと言う。つまり、東京入管側は嘘をついて救急隊員を帰らせた疑いがあるのだ(筆者の取材に対し、東京入管側は「准看護師は24時間体制でいた」と主張)。

 また、入管職員がチョラクさんの妻に「明日医者が判断し、必要なら外の病院に行きます」と伝えたように、救急隊員をチョラクさんに会わせなかったのは、少なくとも、この時点で医師資格のある人間の判断では無かったのだ。入管の規則で20時以降は被収容者が外部へ電話することはできなくなるため、チョラクさんと妻は、互いに連絡がとれなくなり、2度目の救急車を呼び、同日23時13分、救急車が到着したものの、チョラクさんはまたしても搬送されることはなかった

◯衰弱しきったチョラクさん

 チョラクさんを心配する支援者達は夜通し東京入管前で待機、今朝になって支援者達はチョラクさんとの面会を求めた。当初、東京入管側は渋ったものの、支援者らはチョラクさんと面会した。入管での人権問題に取り組むネット有志「FREEUSHIKU」メンバーの長島結さんは、筆者の取材に対し「チョラクさんは本当に体調が悪そうでした。ひと目見て、一刻も早く外部の病院につれていくべきだと思いました」と語る。「チョラクさんは、車椅子で面会室に来ましたが、まっすぐに座ってられない状態でした。『息が苦しい』『頭が痛い』と終始泣いていました」。しかも、著しく衰弱しているチョラクさんに、入管職員達が心無い言葉を投げつけたのだという。「苦しいと訴えるチョラクさんに対し、入管職員達は『何でもないから大丈夫』『あなたは俺より元気』等と言ったのだそうです。本当に酷い」(長島さん)。

◯国会でも野党議員が追及

 チョラクさんの身を案じる人々は、夜を徹してツイッターで情報を発信。#FREEUSHIKUがトレンドにもなった。また彼らの呼びかけにより、源馬謙太郎衆院議員(国民民主党)と藤野保史衆院議員(共産党)も急遽、13日の衆院の法務委員会で本件を取り上げた。源馬衆院議員の質問により、佐々木聖子・法務省入国管理局長が、本件について東京入管と事実関係の確認していることが明らかになり、藤野衆院議員の質問により、二回目の救急車が東京入管に来た際、医師はおらず、東京入管局長の指示の下、救急隊員らを帰らせたことが確認された。藤野議員は「被収容者処遇規則第30条では、『所長等は、被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならない』とありますが、(チョラクさんは)医師の診療を受けておりません。医師がいなかったのですから」と東京入管局長の指示が法務省令に反するものではないかと指摘した。

◯東京入管は医師法違反の疑い-法律家が指摘

 国会でも問題となったこともあり、13日午後、チョラクさんは、外部の病院に連れて行かれ、診察を受けることができた。だが、今回の東京入管が救急車を二度も返させたことについては、人権団体や弁護士団体からも批判の声があがっている。「入管問題調査会」「ハマースミスの誓い」「カメルーン人男性入管死亡事件弁護団」は、共同で声明を発表。同声明では、2014年3月30日、東日本入国管理センターが、体調不良を訴えたカメルーン人男性を確認しながら、救急車も呼ばずに死に至らせた事件に触れつつ、

入国管理局職員が本当に「看護師の判断で救急車不要と言った」のであれば、看護師の権限が診療の補助に留まり(保健師助産師看護師法5条)、診察は医師しか行えない医業そのものですから(医師法17条)、医師法違反が疑われます。

出典:https://ameblo.jp/yoyogiuehara-milestone/entry-12446447812.html

と指摘。被収容者の健康管理について、東京入管が責任を負う体制がないとして、東京入管局長に対し、チョラク・メメットさんを直ちに解放することを求めている。

 入管での人権問題等について取り組む市民団体「SYI(収容者友人有志一同)」のまとめによれば、ここ10年で入管内での自殺・病死は12人。自殺未遂はさらに頻繁に起きている。その中には医療を受けさせなかったことによる死亡者も含まれており、今回の事案を受けて、法務省入管への批判はさらに強まりそうだ。

(了)

【ここ10年間での、入管施設での外国人死者】

年月 国籍 場所 死因

09.3 中国 東京 自殺

10.2 ブラジル 東日本 自殺

10.3 ガーナ 東京(※成田支局) 強制送還中の制圧による窒息死の疑い

10.4  韓国 東京 自殺

10.4 フィリピン 東京 病死

10.12 フィリピン 東京 病死

13.10 ミャンマー 東京 医療放置による病死

14.3 イラン 東日本 誤嚥性窒息死(医療放置)

14.3 カメルーン 東日本 医療放置による病死

14.11 スリランカ 東京 医療放置による病死

17.3 ベトナム 東日本 医療放置による病死

18.4 インド 東日本 自殺

東京=東京入国管理局(品川区)、東日本=東日本入国管理センター(牛久市)

※SYI(収容者友人有志一同)のまとめをもとに作成

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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