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異常気象で危機、アザラシの赤ちゃん、日本のホタル「軍備より温暖化対策に資金を」動物写真家 小原玲さん

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
動物写真家・小原玲さんとアザラシの赤ちゃん。本人提供

 今夏は日本のみならず世界中で異常気象が発生、地球温暖化がいよいよ牙を剥き始めていることを人々に見せつけた。こうした変化に苦しんでいるのは、人間だけではない。約29年間のカナダでの取材から、いち早く温暖化の影響を訴え続けてきた動物写真家の小原玲さんに話を聞いた。

〇アザラシの赤ちゃんを脅かす温暖化

 「今年は3年ぶりにアザラシの赤ちゃんの撮影に行くことができました」―小原さんは現地で撮った写真を筆者に見せながら言う。

 「私がアザラシの赤ちゃんの撮影を行っているのは、カナダのセントローレンス湾にあるマドレーヌ島です。真冬から春にかけ、湾は流氷に覆われ、その上でアザラシ達は赤ちゃんを産みます。ところが、ここ数年、気温が下がらないために十分な流氷が張らなく、撮影に行くことができないということが続いていました」(小原さん)

氷を枕にして昼寝するアザラシの赤ちゃん。小原さん提供
氷を枕にして昼寝するアザラシの赤ちゃん。小原さん提供
生まれてから4週間程、アザラシの赤ちゃんは流氷の上で育つ。小原さん提供
生まれてから4週間程、アザラシの赤ちゃんは流氷の上で育つ。小原さん提供

 北米を大寒波が襲った影響もあり、今年春、セントローレンス湾は流氷に覆われた。だが、それでもなお、小原さんは温暖化による影響を感じたという。

 「確かにこの冬はうんと寒かったのですが、寒い期間が短くなっています。そして、カナダの夏の気温は年々上がり、期間も長くなっている。両極端な気候になっています」

 3年ぶりのアザラシの赤ちゃんの撮影に大いに張り切る小原さんであったが、その最中に驚くべきことが起きる。

 「私が撮影を始めて、わずか数日で湾を覆っていた流氷がバラバラに割れ、グズグズの氷になってしまったのです。ですから、私より遅れて来て一緒に仕事をするはずだった英BBC放送のカメラマンは、撮影をあきらめざるを得ませんでした。最初は氷の状況が良かっただけに、とても驚きました…」

バラバラに割れ、溶け始めた流氷。流氷が溶けるとアザラシの赤ちゃんが溺れ死んでしまうこともあるという。小原さん提供
バラバラに割れ、溶け始めた流氷。流氷が溶けるとアザラシの赤ちゃんが溺れ死んでしまうこともあるという。小原さん提供

 深刻なのは、アザラシ達への影響だ。

 「アザラシの赤ちゃんが生まれてから、自分で泳ぎ魚を捕れるようになるまで、4週間かかります。ところが、今回は赤ちゃんが生まれてから、わずか2~3週間で氷がボロボロになってしまった。このような中で、アザラシの赤ちゃん達が成長できるのか、非常に心配です。不幸中の幸い、湾の中なので、流氷がバラバラになっても、どんどん外洋に流されてしまうわけではないのですが…」

母乳をねだるアザラシの赤ちゃん。子育てに流氷は不可欠だ。小原さん提供
母乳をねだるアザラシの赤ちゃん。子育てに流氷は不可欠だ。小原さん提供

 小原さん曰く、かつてはアザラシの赤ちゃんが成長する間、分厚い流氷がセントローレンス湾全体を覆っていたという。だが、以前は4月くらいまであった流氷が、今は3月半ばにはもう溶け始める状況となっているのだ。

 「アザラシ達も状況の変化を感じ取って、出産のシーズンを早めています。しかし、温暖化の進行は、それを上回るスピードなのです」

〇日本でも異変―豪雨の影響

 異変は日本でも起きている。小原さんは、ホタルやシマエナガ(北海道に生息する野鳥)等を、国内での主な被写体としているが、毎年のように発生する集中豪雨によってホタルの数が激減しているのだという。

 「初夏、ホタル達は川や池で産卵します。ところが、そのすぐ後に、集中豪雨が降るとホタルの卵や幼虫が流されてしまう。九州では、数十年に1回の大雨が2、3年おきに、下手をすれば毎年降るようになってきた。ホタルの数が回復する間もなく大雨が降る。だから、以前は、ホタルの撮影スポットだった場所も壊滅状態になってしまいました」

小原さんが20年前に撮ったホタルの写真。近年、相次ぐ豪雨によりホタルが各地で激減。以前のような写真が撮れないことも。小原さん提供
小原さんが20年前に撮ったホタルの写真。近年、相次ぐ豪雨によりホタルが各地で激減。以前のような写真が撮れないことも。小原さん提供

 「ショックだったのは、今夏の西日本豪雨災害です。被災地の人々の被害の深刻さに加え、(岡山県倉敷市の)真備町の周辺はホタルの名所なのです。今夏の大雨で真備町周辺のホタル達も流されてしまったかもしれません」

 西日本豪雨災害について、先月10日、気象庁は「地球温暖化の寄与があったと考えられる」との見解を示した。温暖化により、海水温が上昇するとそれだけ多くの水蒸気が発生、降水量が増えるのだ。気象庁によれば、1度上昇ごとに約7%、雨量が増加するという(関連記事)。

〇戦争はやめ、温暖化対策や被災者支援を

 IUCN(国際自然保護連合)によれば、現在、絶滅が危惧される生物の実に10種に1種以上が地球温暖化の脅威にさらされている(関連情報)。

 小原さんも「人間や他の生き物達にとって、地球温暖化は最大の脅威になると思います。それは異常気象が頻発している昨今の状況からも明らかでしょう」と危機感をにじませる。

2017年に世界で発生した異常気象。気象庁のウェブサイトより www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/annual/annual_2017.html
2017年に世界で発生した異常気象。気象庁のウェブサイトより www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/annual/annual_2017.html

 「もう、人間同士でいがみ合っている状況ではありません。戦争や軍備にお金をかけるのをやめ、地球温暖化対策や異常気象による被害の救済にお金を使うべきです。特に日本の被災者の人々の置かれている状況は酷い。体育館の中、段ボールで仕切っているだけなんて、僕が若い頃、報道カメラマンとして取材した内戦下のソマリアの難民キャンプの方がまだマシだったくらいです。温暖化によって日本でも災害が深刻化、増加していく中で何にお金を使うべきなのか、もっと考えなくてはいけません」

 小原さんの言うように、私達人類、そして他の生き物達も、地球環境の変化からは逃れることはできない。今、何を優先して行うべきなのか、人々がそれぞれの意識や行動を変えていくことが必要なのだろう。

(了)

「雪の妖精」として親しまれる北海道の野鳥シマエナガ。小原さん撮影
「雪の妖精」として親しまれる北海道の野鳥シマエナガ。小原さん撮影

*小原玲さん率いる「チーム・シマエナガちゃん」による写真展示が以下の日程・場所で行われる。会期中、小原さんらによるトークも行われる予定だ。

「シマエナガちゃんと仲間たち」展

https://www.facebook.com/events/313437166096258/

開催日:9月21日(金)~9月27日(木)

    平日10時30分~19時

    土・日・祝祭日11時~17時(最終日は14時まで)

トークショー:

22(土)・23(日) 各13時・15時

場所:富士フォトギャラリー銀座 スペース3

(東京都中央区銀座1丁目2-4 サクセス銀座ファーストビル4F)

【小原玲さんプロフィール】1961年、東京都生まれ。『フライデー』専属カメラマンを経て、フリーランスの報道写真家として国内外で活動。中国・天安門事件の写真は米誌『LIFE』の「The Best of LIFE」に選ばれた。アザラシの赤ちゃんとの出会いを契機に動物写真家に転身。『アザラシの赤ちゃん』(文春文庫)、『シマエナガちゃん』、『もっとシマエナガちゃん』(講談社ビーシー/講談社)など著書・写真集多数。

*Yahoo! Japanでは、豪雨災害への支援を募っております。是非ご協力下さいませ。

平成30年7月豪雨緊急災害支援募金(Yahoo!基金)

https://donation.yahoo.co.jp/detail/1630036/

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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