銃殺された「慈悲の天使」負傷者救護中に禁止兵器で―日本の12団体、イスラエル軍の大量殺傷に共同声明

イスラエル軍に銃殺されたラザンさん(左)と血まみれのベスト(右)。PMRS提供

 21歳の女性救急ボランティア、ラザン・アルナッジャールさんは、今月1日、イスラエル軍による銃撃で殺された。パレスチナ自治区ガザでのデモに対し、イスラエル軍が無差別射撃を行い、デモ参加者らの死亡、負傷が相次いでいる。ラザンさんは懸命の救護活動の最中に背後から銃弾を受けたのだった。ラザンさんは日本のNGO「日本国際協力ボランティアセンター(JVC)」が協働する現地NGOのスタッフであり、JVCは今月7日午後、イスラエル当局に抗議する声明を発表。また、JVC含む国内NGO12団体が、デモ参加者への殺傷力のある武器の使用中止等をイスラエルに働きかけるよう、河野太郎外務大臣へ共同声明を提出した。

〇銃弾飛び交う中、無償・無給で救護

 その死を伝える報道で「慈悲の天使」と呼ばれるラザンさんは、その呼び名通りの心優しく、献身的な女性だった。ガザでは、今年3月末から1948年のイスラエル建国により、自らの土地を追われた人々の帰還権を求めるデモ「帰還大行進」が行われ、イスラエルとの境界に大勢の人々が連日集まり、抗議活動を行っている。これに対し、イスラエル軍はデモ参加者らに容赦なく実弾を発砲。多数の人々が死傷している。特に、在イスラエル米国大使館のエルサレムへの移転が行われた先月14日には、たった1日で58人が死亡、2700人以上が負傷するという惨事となった。今年3月末にガザ南東部フザ村の自宅近くでデモが行われるようになってから、ラザンさんは毎日、銃弾が飛び交い、強力な催涙ガス弾が降り注ぐ現場で、ボランティアとして無給・無償で、負傷者の救護と応急処置を行っていた。今月2日付けの米紙・ニューヨークタイムズの記事によれば、ラザンさんは生前、次のように語っていたという。

「私達の目的は、命を救うこと、人々を救助することです。そして、そのことによって世界にメッセージを発信することです。“武器がなくても、私達は何でもできる”と」

〇狙い撃ちされたラザンさん

 今月1日、同僚ら目撃者達が各メディアに語ったところによると、ラザンさんは、イスラエルの境界近くで倒れていたデモ参加者を助けに、両手を上げ、丸腰であることをアピールしながら接近、応急処置を行っていたところを、背後からイスラエル軍の狙撃兵に撃たれたのだという。ラザンさんは白衣を着ており、誰の目にも救護スタッフだということは明らかだった。ラザンさんが所属していた現地NGOで、日本のNGOとも協力関係にある「パレスチナ医療救援協会(PMRS)」は、その声明で「医療関係者への攻撃はジュネーブ条約違反の戦争犯罪だ」とイスラエルを非難、「国際社会はただちに戦争犯罪への対応をすべきだ」と求めた。また同協会の声明によれば、ラザンさんが撃たれた際、同協会所属の他の3人の救護スタッフもイスラエル軍の銃撃で負傷したのだという。

〇ラザンさん殺害、高まる国際的な批判

 可憐で心優しい21歳の女性の非業の死に、ガザの人々は深く悲しみ、強く憤っている。ラザンさんの追悼会に参加した日本のNGO・JVCのスタッフに、ある参列者の女性はこう語ったという。

「ラザンは今までも2回、デモの最中に負傷していたの。自分が負傷しても人々の命を救いたくて救助に向かう、とても勇敢な子だったそうよ。あまりにも尊い子だから、神様が早く自分のもとに呼び寄せてしまったのね…でも、こんなことは許されちゃいけないわ。あんな子を撃つなんてもう、気が狂っているとしか思えない…」

出典:JVCフェイスブックより

 今月3日に行われたラザンさんの葬儀には数千人が参加。ラザンさん殺害への悲しみと憤りはパレスチナのみならず、アラビア語で「慈悲の天使」を意味するハッシュタグと共に中東各国のSNSへと広がっていった。中東諸国21カ国と1地域からなるアラブ連盟は「ラザンさんの死は、イスラエル政府に直接の責任がある」と批判。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)、国連人道問題調整事務所(OCHA)、世界保健機構(WHO)の事務局長らもラザンさん殺害への憤りを表明、医療関係者の保護を求めた。

 日本からもJVCが、「イスラエル当局に抗議し、また他の医療従事者も死亡・負傷している状況について、真相を究明したうえで責任の所在が明らかにされ、その責任が果たされることを求める」との声明を出した。

JVC声明:日本のNGOが支援・協働する現地NGOスタッフが負傷者の救護活動中に殺害されたことに抗議します http://u0u1.net/KqPt

〇ラザンさんの命奪った禁止兵器バタフライ・バレット

 ラザンさん殺害へ高まる国際的な批判に、イスラエルは「女性や子どもを危険な現場へ配置している(イスラム組織の)ハマスに責任がある」と弁明している。だが、それは苦しい言い訳だ。筆者は、今年5月、ラザンさんが殺害された現場と同じ場所で取材していたが、イスラエルの狙撃兵は、デモ参加者に対し、ライフルスコープで正確に狙いを定め、狙撃していた。たまたま流れ弾が当たったというのではなく、正に人々を殺傷するため撃っているのである。 ラザンさんも負傷者救助のため、イスラエルとの境界に30メートル程度まで近づいていたのであり、イスラエル軍の狙撃兵はラザンさんが医療関係者であること、女性であることが容易に認識できたはずである

デモ参加者に銃を向けるイスラエル軍の狙撃兵。筆者撮影
デモ参加者に銃を向けるイスラエル軍の狙撃兵。筆者撮影

 イスラエル軍が使っている弾丸、通称「バタフライ・バレット(蝶の弾丸)」も批判を呼んでいる。これは、人体に命中した際、銃弾の先端がめくれ上がり、体内の広範囲をえぐり、骨を粉砕するという恐るべきものだ。いわゆるダムダム弾の一種であり、非人道的だとして国際法で使用禁止とされている銃弾である。中東カタールの衛星テレビ・アルジャジーラが、ラザンさんの母親の言葉として伝えたところによると、ラザンさんの命を奪ったのも、バタフライ・バレットであったという。

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バタフライ・バレットによる傷の画像。閲覧注意http://u0u1.net/KqNz

〇国内NGO12団体が共同声明、問われる日本の外交

 ガザへのデモへの実弾射撃について、イスラエルは「自衛のための措置」とするが、過剰防衛であり、武器使用を控えるべきだとの国際的な批判が高まっている。日本でも、JVCやパルシック、JADE-緊急開発支援機構、ヒューマンライツ・ナウなど、NGO12団体が、デモ参加者への殺傷力のある武器の使用中止等をイスラエルに働きかけるよう、河野太郎外務大臣へ共同声明を提出した。声明では、「イスラエル当局の攻撃により128 人のパレスチナ人が死亡し、数百人の子どもを含む1万3,000人以上が負傷しています。また同時期に211人の医療従事者が負傷し、25台の救急車が損傷しています」として、日本政府に以下のような対応をするよう、求めている。

1.非武装の参加者に対する殺傷力のある武器の使用を中止するよう、イスラエル政府に働きかけてください。

2.また、国際法違反として非難されている本事件について、2018年5月18日に国連人権理事会で派遣が決定した独立調査が滞りなく行われるよう、関係者の調整に尽力してください。

3.非人道的なガザの封鎖を一刻も早く解除するよう、イスラエル政府に働きかけてください。

出典:NGO共同声明:ガザでの抗議運動参加者に対する殺傷力のある武器使用中止の働きかけ、真相調査の調整に尽力してください

 安倍政権の下、日本とイスラエルとの協力関係は強化されている。今年5月2日、安倍晋三首相はイスラエルを訪問、同国のベンヤミン・ネタニヤフ首相と会談。「今後5年間でイスラエルへの投資を飛躍的に増やしていく」と会談後の会見で安倍首相は明らかにした。だが、中東各国のみならず欧州各国、アジアや中南米諸国からも、イスラエルへの批判や懸念の声が上がっている中、日本の対応も問われている。

(了)