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東大名誉教授が警告「人類に残された時間は20年」―地球温暖化の猛威が現実化、急がれる対策

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
史上最大級の台風「ハイエン」(2013年)の犠牲者が眠る墓地。(写真:ロイター/アフロ)

 今日4月22日は、アースデイ。地球環境のことを考え、行動していく日として、日本も含め世界各地で環境関係の催しが行われている。現在、様々な環境問題があるが、中でも人類の存亡すら左右しかねないのが、地球温暖化だ。山本良一・東京大学名誉教授は、「人類に残された時間はあと20年程度。それ以上、対策を引き延ばせば本当に手遅れになる」と訴える。山本教授に、地球温暖化の現状や今後、求められている対策について聞いた。

〇温暖化の暴走が始まりつつある!

北極の海氷の変化(1984年と2016年)。[https://www.youtube.com/watch?v=Vj1G9gqhkYA&feature=youtu.be NASA発表の動画]より。
北極の海氷の変化(1984年と2016年)。[https://www.youtube.com/watch?v=Vj1G9gqhkYA&feature=youtu.be NASA発表の動画]より。

 「北極圏の海氷が年々減り続け、このままでは、温暖化による影響がさらなる温暖化を招く、『ポジティブ・フィードバック』が始まってしまう」と山本教授は言う。「カナダやロシア、フィンランドなど8ケ国による共同研究によれば、このまま気温上昇が続けば、2040年には、夏場に北極圏の海氷が全て溶けてしまうことになると予測されています。北極圏の海氷は、巨大な鏡のようなもので、太陽光線を反射するのですが、氷が溶けてしまうことで、より多くの熱を地球がため込むようになってしまいます。そうなると、シベリアの永久凍土や、海中のメタンハイドレード(氷状のメタンガス)が溶け、CO2の20倍以上の強力な温室効果ガスであるメタンガスが大量に放出され、地球温暖化がさらに加速することになってしまいます。既に、永久凍土からのメタン放出は始まっていますが、極地の氷が失われることで、より大量に放出されるようになれば、極めて深刻な状況になるでしょう」(山本教授)。

〇猛威を振るう異常気象

山本良一東大名誉教授
山本良一東大名誉教授

 北極圏の海氷が激減していることは、世界各国で異常気象をもたらしている。「極地と赤道との温度差が小さくなると、中緯度の上空が流れるジェット気流の勢いが弱くなります。このジェット気流が蛇行することにより、極地の寒気が中緯度の地域に流れ込みます。北米等で猛烈な寒波が起きると、『温暖化なんて嘘だ、むしろ寒冷化している』と主張が出てきますが、寒波も温暖化の影響なのです。逆にジェット気流の蛇行で、赤道付近からの空気が流れ込むことで、熱波が引き起こされます」(山本教授)。

今冬の大気の流れ。出典:気象庁資料
今冬の大気の流れ。出典:気象庁資料

 海水面から蒸発する水蒸気が増加することによる台風やハリケーンの強大化も深刻だ。「2012年に米国を襲ったスーパーハリケーン『サンディ』、2013年にフィリピンを襲ったスーパー台風『ハイエン』なども、温暖化の影響によるものです。こうした気象災害の強大化は、今後、国家が立ち行かなくなる程、凄まじいものになるのでは、と懸念されているのです」(同)。

 サンディによる経済損失額は約500億ドル、ハイエンはフィリピン全人口の1割以上が被災と、国家が揺らぐような被害をもたらした。異常気象による被害は、日本にとっても他人事ではない。「去年、九州北部豪雨で、福岡県朝倉市では1日に1000ミリという雨が降りました。こうした豪雨がもし関東で降ったらどうなるかと言いますと、国土交通省もその被害の大きさをシミュレーションしているように、荒川が決壊して都心が水没、壊滅状況になります。そうした事態が今年起きても不思議ではないのです」(同)。

〇温暖化を止めないと文明が崩壊

 温暖化の暴走が行きつく先には、人類絶滅という最悪の結末もあり得る。今年3月に亡くなった「車イスの天才宇宙物理学者」スティーブン・ホーキング博士は、昨年7月、BBCのインタビューの中で、地球温暖化防止の国際的な合意「パリ協定」から、トランプ政権が離脱を表明したことを、厳しく批判。米国がパリ協定から離脱することで、地球温暖化が加速、「気温250度、酸性雨が降り注ぐ金星のような高温の惑星へと地球を追いやるだろう」と警告した。山本教授は「ホーキング博士だけでなく、温暖化が人類存続を危うくするものだという声は、世界の専門家から次々と上がっている」と強調する。「ドイツのメルケル首相のアドバイザーのジョン・シェルンフーバー博士は、このまま温暖化が進行したら、今世紀末には人口の大半が犠牲となるだろうと警告していますし、ローマ法王フランシスコも『このままでは最後の審判が近い』と公文書で温暖化の脅威を訴えています。あと20年くらいで脱炭素社会を実現しなければ、こうした予測は現実のものとなるでしょう」(同)。

〇脱炭素化に加え、大気のCO2除去技術も必要

 山本教授は「石炭火力発電など、化石燃料を使うことをやめ、再生可能エネルギーを活用するなど、大気中に人間がこれ以上CO2を出さないことが、まず必要ですが、それだけではもう間に合わないかもしれない」と語る。「今、脚光を浴びているのは、大気中のCO2を除去する技術です。ネガティブ・エミッション・テクノロジー(NET)というもので、今年秋のIPCCの報告でも取り上げられる予定です。NETには、広域での植林や、バイオエネルギー利用におけるCO2回収貯留などいくつかの方法論があり、アイルランドでは、コストや効果の技術評価の一覧表を作っています。NETは、その国によって条件が違うので、日本も早くそうした技術評価をしていかないといけないのですが、全然やっていない。ですから、私も環境省や経済産業省に早くやりなさいと提案しているのです」(山本教授)。正に、温暖化対策は待ったなしなのだ。

(了)

*本記事は週刊SPA!2018年 4月10日・17日合併号掲載の記事に加筆したもの。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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