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膝に釘打ち拷問、反戦本所持で少女を半殺し―金田勝年法相「治安維持法は適法」から共謀罪への悪夢

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
金田勝年法務大臣(左)と安倍晋三首相。(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

実際に犯罪行為が行われなくても、そうした行為について複数人で話しただけで摘発・処罰され、デモなど憲法上認められた行為についての話しあいまで対象とするとも言われる共謀罪(テロ等準備罪)法案。同法案は「現代の治安維持法」とも言われるが、先週2日、金田勝年法務大臣は、治安維持法について「適法」だとした上で、同法による拘留・拘禁についても「適法」と答弁。戦前・戦中の思想弾圧の拠り所であり、苛烈な拷問で多数の犠牲者を出してきた治安維持法を今なお否定しない政府のあり方は、共謀罪への懸念をますます強めさせるものだ。

◯治安維持法を認め、反省も無い金田法相

問題の発言は、2日の衆院法務委員会、畑野君枝衆議院議員が治安維持法犠牲者の救済と名誉回復についての質問に対して、金田法相が答弁したもの。金田法相は、

「治安維持法は当時、適法に制定されたものでありますので、同法違反の罪にかかります、拘留・拘禁は適法でありまして、また、同法違反の罪にかかる刑の執行も、適法に構成された裁判所によって言い渡された有罪判決に基づいて、適法に行われたものであって、違法があったとは認められません」

出典:今月2日の衆院法務委員会での金田法相の発言

として、謝罪も賠償も検証も必要ないとの見解を示したのだ。だが、法相の認識は治安維持法による犠牲に対し、あまりに無神経で無反省だと言えよう。

◯猛威をふるった治安維持法

治安維持法とは、1925年に制定されたもので、当初は共産党員の取締りにのみ使われるはずだった。だが、適用の対象を一挙に拡大する改正案は1928年、議会で通すことができなかったため、緊急勅令というかたちで強引にその強化が行われた。つまり、共産党系の団体のメンバーでなくとも、そうした団体の「目的遂行のためにする行為」(目的遂行罪)を行ったとみなされた場合に、処罰対象となるようになった。そのため、労働組合の活動、文化運動、弁護士の治安維持法被告のための活動までもが「目的遂行罪」として処罰対象とされるようになった。さらに宗教団体や農民団体、団体とすら言えないような集まりにまで、その摘発対象が拡大していき、猛威を奮ったのだ。

◯治安維持法と恐るべき拷問、逮捕者は数十万人

治安維持法は、令状なしの逮捕、長期間の拘束、そして激しい拷問とセットであった。その被害者として最も有名なのは、作家の小林多喜二だろう。共産党に入党していた小林は、1933年2月、特高警察により拘束され、拷問の果てに殺されてしまった。その拷問がいかに凄まじかったか。小林の遺体を引き取った小説家の江口渙の記録によれば、

・首や両手首に細い縄で縛り上げたとみられる痕が溝となって残っていた

・顔には複数の打撲傷、特に左こめかみに、強く殴られた痕

・下腹部から性器、太ももが赤黒く腫れ、大量の内出血

・両膝にはそれぞれ10数カ所、釘のようなものを刺した傷

などの凄まじい拷問の痕が小林氏の遺体に残されていたのだという。小林の事例は例外だったわけではなく、当時の衆議院議員・山本宣治は1929年2月8日、議会において、次のように治安維持法で逮捕された人々が以下のような拷問を受けたと発言している。

・鉛筆を指の間にはさむ

・三角型の柱の上に坐らせてその膝の上に石を置く

・足を縛って逆さまに天井からぶら下げて、顔の血液が逆流して気絶するまで放置

・竹刀での殴打

・生爪を剥がす

など。これらの残虐な拷問は、戦前の当時でも合法ではなかったが、上記山本の議会での告発にもあるように、実際には激しい拷問が野放しになっていたのだ。その後、治安維持法による逮捕や拷問はますますエスカレートしていき、1943年には、13歳の少女が与謝野晶子の詩集『乱れ髪』を持っていただけで、特高警察に捕まり、半殺しになるまで殴る蹴るの暴行を受けるということまで起きた。与謝野の反戦歌「君死にたまふことなかれ」に線を引いていたことが、治安維持法に反するとみなされたのである。

終戦後に廃止されるまで治安維持法によって逮捕・拘束された人々は数十万人とみられ、その内、送検された人々は7万5681名、送検後に死亡した人々が1682名だという(1976年1月30日、不破哲三衆議院議員の衆院予算委員会質疑より)。まさに、恐るべき大弾圧が、治安維持法によって行われたのだ。そして、この治安維持法による拘留・拘禁ついて、戦前でも戦中でもない、現代の法務大臣が「適法に行われた」と発言したのである。

◯金田法相は法相たる資格なし

国家権力が刑法において人々を拘束し、刑罰を課す際には、その運用が恣意的に行われないよう、また拷問や虐待が行われないようにすることは、国を超えて近現代の民主主義国家の鉄則である。その様なことも理解できず、過去の悪法の反省すらできない法務大臣の下で、「現代の治安維持法」とされる共謀罪法案が衆議院に続き、参議院でも採決されようとしているということが、いかに危機的なことなのか。今回の治安維持法についての一連の発言だけでも、金田法相は辞任するべきだし、共謀罪法案は廃案にされるべき、それくらい異常かつ深刻な状況なのである。

(了)

以下、畑野議員と金田法相とのやり取り(書き起こし文責:小原美由紀)

*******************

◆畑野君枝議員(日本共産党)

「共謀罪法案は、現代版・治安維持法と呼ばれています。

治安維持法はどのような法律であったか。ひとつは、制定過程は、強行採決によるものだったと記されております。

『治安維持法が議会に提案されると、議会内外から厳しい反対意見と反対運動が起こった。

議会内では星島 二郎などがこの法案は、権力による濫用を招くと強く反対した。

労働組合や農民組合や無産政党も、この法案が議会を通過すれば、自分たちの運動が権力の濫用によって弾圧されると危機感を募らせて 反対運動をした。

帝国議会のまわりに治安維持法反対の大きなのぼり旗が林立した。

議会請願という大衆行動が展開された。』

ところが、それを押し切って強行採決で成立した。適切に制定されたとは言えない、と言わなくてはなりません。

さらに、明治憲法にさえ、違反していた。

あいまいな構成要件である「国体」。「私有財産制」を、特高警察と、思想弾圧担当の当時の検事が 意図的に政治的に利用して、これを裁判所が追認をしたと。そして、

戦争に反対し、平和と民主主義のためにたたかい、抵抗する人々に襲いかかった。

こういう歴史がございます。

人を逮捕・監禁・審問・処罰すべき法律は、明治憲法においても権力の濫用を許さない、構成要件の明確さが求められていたと。

明治憲法23条

「日本臣民は、法律に依らずに、逮捕、監禁、審問、処罰を受くることなし。」にも、違反していたと言わなくてはなりません。

そして治安維持法は国際社会にも、背を向けた。その当時の歴史の状況からも明らかであります。

戦後、治安維持法が否定された以上、この法律による弾圧犠牲者の救済、名誉回復をするべきではありませんか?法務大臣、いかがでしょう。」

◆金田勝年法務大臣

「えー、お答えをいたします。

治安維持法は当時、適法に制定されたものでありますので、

同法違反の罪にかかります、拘留・拘禁は適法でありまして、また、同法違反の罪にかかる刑の執行も、適法に構成された裁判所によって言い渡された有罪判決に基づいて、適法に行われたものであって、違法があったとは認められません。

したがって、治安維持法違反の罪にかかる拘留もしくは拘禁、または刑の執行によって生じた損害を賠償すべき理由はなく、謝罪、および実態捜査の必要もないものと思われます。」

◆畑野君枝議員

「金田大臣、だめですよー!

それまた、繰り返すんですか? 共謀罪法案。

当時も、明治憲法の下で、憲法違反、強行採決。

国際社会からの批判も聞かない。

その結果、侵略戦争に突き進んだんじゃありませんか。

そのような認識だから、人権の問題についても、きちっとした国際的な懸念に答えることができないと言う状況だと、言わなくてはなりません。

私は、こうした問題を、『適切ではなかった』と、大臣がおっしゃる前に、いくつか申し上げました。(治安維持法の弾圧犠牲者は)もうご高齢なんです。103歳、102歳ですよ。それでもがんばって生きてこられた。そういう方たちに、戦後の日本の政府として、きちっと対応をするべきだと。

いまの法律でなにが出来るか、真剣に考えるべきだと思いますが、

金田大臣、いかがですか?」

◆金田法務大臣

「え~、先ほど申し上げましたとおり、でございます。」

◆畑野君枝議員

「ほんとにですね、政治が変わる必要があると、言うことを申し上げて。 これ、必ず解決すると決意を申し上げたいと思います。」

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書き起こしここまで。 

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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