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日本とイスラエルの投資協定、人権侵害や戦争犯罪に加担することにならないかー入植政策の関与に識者ら懸念

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
安倍政権はイスラエルとの関係を強化し続けている。(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

テロ等準備罪(共謀罪)に多くの人々の目が奪われている間に、またしても、問題ある協定が衆議院で承認されてしまった。「日・イスラエル投資協定」(「投資の自由化,促進及び保護に関する日本国とイスラエル国との間の協定」)だ。今月12日に、衆院外務委員会で採決され、さらに同18日の衆議院での審議でも承認。現在、参議院で審議中だ。イスラエルは世界でも有数の技術大国であると同時に、パレスチナを今なお占領し続け、中東和平の障害となる入植地をつくり続けている等、人権や国際法の上での問題が非常に大きい国でもある。イスラエル経済とパレスチナ占領による人権侵害は密接につながっており、同国と安易に経済関係を強化することは、パレスチナの人々への人権侵害、戦争犯罪等に日本企業が加担することになりかねない。そうならないためにも、日・イスラエル投資協定を参院で承認する前に、十分かつ慎重な議論を行うべきだろう。

〇入植地とは何か?何が問題なのか?

パレスチナ自治区ビリン村で占領に抗議する人々、催涙ガスを撃ち込むイスラエル軍
パレスチナ自治区ビリン村で占領に抗議する人々、催涙ガスを撃ち込むイスラエル軍

日・イスラエル投資協定の問題を考える上で理解すべきことが、イスラエルが推し進めている入植地だ。これは、第三次中東戦争(1967年)でイスラエルが占領したヨルダン川西岸及び併合した東エルサレムで建設される、イスラエル人及び国外から移住してくるユダヤ人のための住宅地のこと。占領地に自国民を移住させることは国際法(ジュネーブ第4条約)に反する上、パレスチナを独立国とする代わりに、イスラエルの生存権も認めるという中東和平の大きな障害となっている。だが、イスラエルは中東和平についてのオスロ合意(1993年)以降も、入植地建設を進め、今やヨルダン川西岸と東エルサレムの入植者の数は60万人に達するとされている。こうした入植者達を保護する名目でイスラエルの警察や軍がパレスチナ自治区での人権侵害を行う他、イスラエル人入植者自体が、パレスチナ人の村々を襲い、住民を殺傷したり、オリーブ畑を破壊したりするなどのテロ行為を行っている。また、東エルサレルムでの入植地建設では、元々、現地に住んでいたパレスチナ人の人々を強制的に追い出し、家々を破壊するなどの問題も起きている。さらに、2014年には、入植者達とパレスチナ人の若者達の衝突を口実に、イスラエルはパレスチナ・ガザ地区への大規模な軍事進攻を行い、2000人以上を殺害、1万人以上を負傷させ、これらの被害者の7割が民間人であった上、病院や国連管理の学校までも攻撃するなど、重大な戦争犯罪を行っている。つまり、入植地建設は、国際法上からも、人道上からも、中東の平和と安定からも、許されないことなのである。

イスラエル軍によるガザ攻撃

〇参院では慎重な審議を

エルサレム併合を既成事実化するだけではなく、入植地での農場や工場等イスラエル経済にとって重要な生産拠点でもある。だから、入植地で生産された農作物や工業製品に対し、欧米などでは輸入規制やボイコットなども行われるのだが、衆院外交委員会でのやり取りによれば「日・イスラエル投資協定上のイスラエルの領域に入植地は含まれない」(政府答弁)とのことだった。日本政府としても、外務省が、過去6年間で34回にわたり、イスラエルの入植政策を批判する談話を発表しているため、入植地での経済活動に日本企業が関与することを公然と認めるわけにはいかないのだろう。ただ、それでも日・イスラエル投資協定によって、間接的に入植地の問題に加担する恐れがないわけでもない。本件について、慎重な議論を求める請願を行った一人である「パレスチナの平和を考える会」の役重善洋さんはこう指摘する。

「投資協定の主要な対象であるイスラエルのセキュリティ・ビジネスの多くはイスラエル軍のサイバー部隊の退役軍人によって立ち上げられており、そこではパレスチナ占領政策の中で培った経験・技術が商品化されています。投資協定を発効させる前に、日本の資本・技術が、イスラエルのセキュリティ企業や軍需企業を通じて、被占領パレスチナ領や他の紛争地における非人道的な諜報活動や人権侵害に利用されないようにするための対策が不可欠です」。

イスラエル入植地ビジネスについて、国連の人権理事会は2013年に詳しい調査報告を行っており、それによれば、入植地で生産された農作物や工業製品の直接の売買以外にも、例えば、

・入植地と「分離壁」、入植地に直結した検問所に対する監視・認証装置の供給

・入植地で操業している企業へのセキュリティサービスや機器、材料の供給

・家屋や財産の破壊、農地や温室、オリーブ畑、収穫物の破壊に用いられる機器の供給

・住宅や事業展開のためのローンを含め、入植地およびその活動の発展・拡大・維持を支援する銀行や金融活動

等々について、「民間企業は、自らの活動が人権に与える影響を評価し、国際法、並びに、『企業と人権に関する指導原則』に従い、パレスチナ人民の人権に悪影響を与えないようにするために必要とされるあらゆる手段――入植地から得られる企業利益を終結させることを含む――を講じなければならない」と結論付けている。

本当に、日・イスラエル投資協定は入植地ビジネスに加担することにならないか、衆議院で十分な審議が行われたとは言い難い。上記した役重さんらの請願には、日本の中東研究者、NGO関係者、ジャーナリスト70人が賛同した(関連情報)。参議院での審議では、こうした識者の意見も聞いて、しっかりとした国会審議が行われることが望ましいのであろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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