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【北朝鮮危機】最大のリスクは在日米軍!米艦隊と海自共同訓練、地雷原に自ら飛び込む安倍政権の愚

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
米国は朝鮮半島へ空母を派遣、緊張がにわかに高まっている。(提供:U.S. Navy/ロイター/アフロ)

北朝鮮をめぐる情勢がにわかに緊迫してきている。今月12日付の共同通信は、米国側が日本政府に対し、中国の対応いかんによっては、北朝鮮への先制攻撃に踏み切ると伝えていた、と報じている。さらに、米国のトランプ大統領は、原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島周辺に向けて派遣。一方、北朝鮮側が月内にも核実験を行うことも予想される。情勢は今後さらに緊張が高まる方向に向かう可能性が高いが、安倍政権は「国民を守る」との言葉とは裏腹に、これまで通りの対米追従を続けている。そうした米国まかせの無策さが、日本の人々の安全を脅かすかもしれないのだ。

〇在日米軍は「抑止力」であるだけでなく、リスク

日本の防衛関係者、およびメディア関係者には、北朝鮮の核の脅威への対応として「日米同盟の強化」を主張する声が圧倒的に多い。だが、先月6日の北朝鮮のミサイル実験と、それに伴う北朝鮮側の声明は、在日米軍がこれまで言われてきた「抑止力」であるだけではなく、むしろリスクでもあることを明示した。

朝鮮中央テレビなど北朝鮮の複数のメディアは先月7日、その前日に行われた4発の弾道ミサイル実験について「在日米軍を攻撃する部隊が参加した」と伝えた。これまで、北朝鮮側の挑発的な言動に対象は、主に米国や韓国だった。筆者が防衛省に確認したところ、「在日米軍への言及は初めてのこと」だと言う。

ベトナム戦争、イラクやアフガニスタンでの対テロ戦争へと、在日米軍基地から米軍海兵隊や航空母艦が出撃していった。そのような前例から見ても、北朝鮮側にとって、在日米軍を自国への脅威とみなすのは当然のことだろう。しかも、北朝鮮は米国本土に届く大陸間弾道ミサイルを持っていない。そうなれば、直近の目標として在韓米軍や在日米軍を攻撃することは、戦術上、至極当たり前のことだと言える。

日本政府やマスメディアはこれまで在日米軍の「抑止力」としての役割ばかりを強調してきた。そして北朝鮮の核の脅威を煽って、支持率を維持し、視聴率を稼いできた。だが、北朝鮮が繰り返し主張してきたことは「ミサイルと核の開発は、自国の体制を崩壊させる可能性のある米国に対する防御」だということだ。つまり、日本政府やマスメディアが騒ぎ立ててきたこととは裏腹に、北朝鮮側はこれまで日本自体は脅威とみなしてこなかった。少なくともプライオリティーとして、非常に低かった。このことから言えることは、在日米軍こそ、北朝鮮が日本に向けてミサイル攻撃を行う、最大にして唯一の動機であり、日本にとっては、対北朝鮮における最大のリスク要因だった、ということである。まるで狂信的なカルト教団のごとく、在日米軍の「抑止力」を信仰してきた日本政府やメディア関係者は猛省するべきだろう。

〇日本や韓国などのリスク無視の最悪の「米国第一主義」

ミサイルや核の実験を繰り返してきた北朝鮮は批難されるべきであるせよ、これまで日本や韓国などの周辺国に配慮して、米国が対北朝鮮攻撃を控えてきた中で、トランプ政権が北朝鮮への先制攻撃に踏み切るのであれば、それは「米国第一主義」の最悪のかたちとなる。米国は、北朝鮮側が米国本土に甚大なダメージを与える攻撃手段を持っていないので、被害があるにしても、米軍関係に限定されるのに対し、韓国は市街地に長距離砲や短距離弾道ミサイルの雨を降らされ、壊滅的な被害を被るだろう。仮に韓国の原発が破壊されたら、高濃度の放射線プルームが西日本に流れてきて、深刻な汚染被害を被るかもしれない関連情報)。日本も在日米軍基地が対象とは言え、弾道ミサイルの精度の悪さから、基地周辺の一般市民が犠牲になる可能性が高い。日本のミサイル防衛の技術・装備も向上しているとは言え、300発もある弾道ミサイル「ノドン」を五月雨式に撃ってこられた場合に全てを防げるかは、かねてから疑問視されてきた。今回、筆者が防衛省に問い合わせた際も、その回答は「自衛隊の能力については、回答を差し控える」というものだった。「いかなる事態でも国民を守り抜く」と息巻く安倍首相と異なり、ある意味、正直な回答である。

〇日本の安全を第一にせよ

日本の市民の命を最優先に考えるなら、トランプの危険な「米国第一主義」に、歯止めをかけることこそが、日本政府がまずやるべきことである。それでも、米国が日本はじめ周辺国のリスクを考えずに対北朝鮮攻撃を止めないというのであれば、いっそのこと、日米地位協定の全面的な見直しと、日本が具体的に攻撃されない限り中立の立場を貫くことを宣言したら良いのかもしれない。今回の危機は、あくまで米国VS北朝鮮という対立構造であり、日本がしゃしゃり出て何も良いことはない。だが、残念なことに、安倍政権はどこまでも対米追従を続けるようだ。北朝鮮周辺に向かっている米国の原子力カール・ビンソンに海上自衛隊が合流、あろうことか、この緊迫した情勢下で、共同訓練を行うのだという。つまり、米国VS北朝鮮という対立構図の中にわざわざ踏み込んで、北朝鮮側を挑発するようなものだ。まるで、地雷原に自ら飛び込むような愚行は、ただちに中止されるべきだろう。

本当の意味で、日本の人々を守るということはどういうことなのか。今回の危機を機に、日本の政治家や官僚、そしてマスコミに蔓延る、「何があっても米国にすがれば良い」という発想から抜け、事実に基づいた情勢分析を踏まえて、立ちまわり方を考えることはできないものか。あくまで、トランプが軍事面の「米国第一主義」を貫くならば、日本は自国の平和を第一にするべきなのだ。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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