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蓮舫氏の「二重国籍」、何が悪い?-「純・日本人」も国を売る

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
民進党の新代表に選ばれた蓮舫氏(写真:アフロ)

正に、「国籍ハラスメント」というべきか。二重国籍がメディア上で問題視された民進党・新党首の蓮舫氏だが、彼女は台湾の国籍を放棄しなくても、それは違法行為として処罰されることではない。両親のいずれかが外国人で、22歳までに日本国籍を選んだ場合でも、外国籍を放棄することは、あくまで努力義務にすぎない。法務省は「二重国籍を完全になくすことは困難」と、事実上容認しているのである。また、日本においては、二重国籍であっても、国会議員や総理大臣になれないわけではない。そのようなことを定めている法律などないからである。つまり、処罰の対象となる違法行為でもないのにもかかわらず、二重国籍を理由に蓮舫氏の進退を問うことは、不当なバッシングであり、重大な人権侵害であり、ヘイトスピーチである。むしろ、そのような愚行をメディアや政治家達が行っていることこそ、蓮舫氏個人の人権問題のみならず、両親のいずれかが外国人である、いわゆる「ハーフ」の人々(注1)への差別や偏見を助長するという点で大きな問題だ。

〇先進諸国では、むしろ重国籍容認が多数派

現在、日本には複数の国籍を持つ、いわゆる重国籍者が、数十万人いるとされているが、法務省が事実上容認している背景には、そもそも二重国籍を原則認めないという国籍法第16条が罰則規定を持たない他、その厳格な運用が困難であり、また時代の流れにそぐわないから、という事情がある。第156回参議院法務委員会(2003年)では、「必ずしも単一の国籍ということが国際的な全体の潮流ではないのでは」との質疑に対し、当時の森山眞弓法務大臣は「我が国を取り巻く国際情勢とか国内情勢の変化を踏まえまして、所要の法改正を行うことも含めて適切に対処してきたところだと思います」と答弁している。

世界的にみても、国境を越えて人々が行き来することが当たり前になる中で、先進国各国では、重国籍を容認する国がほとんどだ。米国では、最高裁判所が、二重国籍を“法律上認められている資格”であり、“二カ国での国民の権利を得、責任を負うことになる”と述べており、一国の市民権を主張することで他方の国の権利を放棄したことにはならない、とされている。欧州諸国では、1997年に採択された 「ヨーロッパ国籍条約」 に従うかたちで重国籍を認めている。同14条では、出生や婚姻により重国籍となった場合にはその国籍を保持することを認めなければならないとし 、 同15条では、それ以外の帰化等による場合については締約国が独自に定めることができる、としている。オーストラリアやカナダも、重国籍を認めている国だ。

〇二重国籍者を危険視するバカバカしさ

こうした二重国籍を容認する国々が先進諸国のマジョリティーになっている中で、日本では、そうした流れと真逆の動きもあるようだ。今回の二重国籍騒動を受け、日本維新の会の馬場伸幸幹事長は今週14日の記者会見で、国会議員や国家公務員の二重国籍を禁止する法案の提出を検討していることを明らかにした。「二重国籍の人が自衛隊の指揮官になることは非常に違和感がある」とのことだが、二重国籍者をまるで他国の回し者のように見なす、差別的な発言である。こうした二重国籍者を危険視する差別的な主張は一部メディアやネット上でも観られるが、一言で言えばバカバカしい。残念ながら、両親ともに日本人であり、日本国籍のみを有する、いわば「純・日本人」であっても、日本の人々の利益よりも、他国の利益のために働く人間はいくらでもいるからだ。その最たる例が、他でもない、安倍晋三総理大臣その人だろう。日本の有事への対応は個別的自衛権で対応できるにもかかわらず、国の最高法規である憲法の解釈を捻じ曲げて、集団的自衛権の行使、つまり、米国の戦争のために自衛隊を戦地に送ることも可能とする安保法制を強行採決した(実際には正当な手続きも経ていないので、「強行採決」ですらない。注:2を参照)。さらに、沖縄県など在日米軍基地を抱える地域で米兵による凶悪犯罪が繰り返されているのに、その温床とされる日米地位協定を改定することを、安倍政権は否定している(注3)。「駐留外国軍隊である米軍には、日本の法令は適用しない」という日米地位協定は、ドイツやイタリアなど他の国々が米国と結んだ地位協定に比べても、あり得ないほど不平等な内容であるにもかかわらず、だ。

〇差別を助長するな

いずれにせよ、上記した馬場幹事長のような言動は、重国籍者へのヘイトスピーチであるのみならず、両親のいずれかが外国人である、いわゆる「ハーフ」(注1)の人々全体への差別を助長しかねない。それでなくとも、子ども時代にいじめられたり、大人になっても外見で判断されるなど、悩みや痛みを抱えていることが少なくないのだ。今、日本で結婚するカップルの31組に1組が、国際結婚だ。両親のいずれかが外国人である人々は、珍しくなくなっており、そうした人々の感情や立場を、政治家やメディアは配慮すべきだ。まして、無責任かつ偏見に満ちた主張は慎むべきなのである。

(了)

注1:英語で「半分」を意味する「ハーフ」は差別的なので、「ミックス」「ダブル」と呼ぶべきでは、という主張もある。

注2:安保法制「成立していない」、学者や弁護士らから続々あがる声ー参議院則違反、記録も無く「採決不存在」

http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20150928-00049934/

注3:日米地位協定については以下の記事を参照

http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20160526-00058080/

http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20160714-00059959/

追記:蓮舫氏は差別される側の苦しみに立って、基地問題に取り組むべき

今回、蓮舫氏は「国籍ハラスメント」とも言うべき二重国籍バッシングを浴びて、差別される側の痛みを身に染みて知ったのではないか、と思う。だからこそ、蓮舫氏に考え直してもらいたいことがある。蓮舫氏は、沖縄県辺野古沖の米軍基地移設について「決まったことだから」と堅持することを表明しているが、民主党政権が政権を失った後、辺野古移設に反対する翁長雄志氏が沖縄県知事になり、国政選挙においても相次いで野党側が勝つなど、沖縄の民意ははっきりしている。沖縄の人々は、こうした民意が示されているにもかかわらず、米軍基地を押し付け続ける日本政府に対し、「沖縄差別だ」と憤っている。この間の蓮舫氏の辺野古基地移設に関する発言に対しても、沖縄の人々は非常に怒っている。蓮舫氏には、差別される側に立って、沖縄の基地問題に取り組むべきではないか。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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