【熊本震災】「川内原発を停止させろ」なぜ悪い?

再稼働した川内原発は問題だらけ(撮影・志葉玲)

【熊本、大分など九州での地震において、被災されたみなさまに心よりお見舞いを申し上げます】

今月14日に発生した熊本を中心とする九州での地震は、今なお余震が続いており、その数は震度1以上で900回以上も起きているという。筆者も友人が、阿蘇地方におり、不幸中の幸い、怪我などはしなかったものの、自宅が一部損壊したと聞き、心苦しく思っている。

その友人が、14日、地震の強い揺れの中で、不安に襲われたことが、川内原発(鹿児島県・薩摩川内市/九州電力)の状況だったと言う。万が一でも、福島第一原発事故のようなことが起きれば、自宅被害が大したことがなくとも、移住しなくてはならないかも知れない。幼い子どもを抱え、友人は「地震だけでも大変なのに、なぜ原発のことまで心配しないといけないのか?」と憤る。

地震による原発への悪影響を心配したのは、友人だけではなく、ネット上では川内原発の停止を求める署名運動がはじまり、わずか数日間で10万筆もの署名が集められ、官邸に提出された。共産党や社民党など、野党関係者からも川内原発の停止を求める発言が相次いだ。

ところが、丸川珠代環境大臣は川内原発を停止しないことを宣言。さらに一部の右派メディアやネットユーザー中には、「川内原発を止めろ」と訴える人々に対し、「非常識」「不安を煽る」など、バッシングしている者達がいるのだから、呆れたものだ。

現在起きている余震の震源地は熊本や大分であり、川内原発のある鹿児島県ではない*。だが、気象庁の青木元・地震津波監視課長が「ここまで広範囲に及ぶ地震は前例がない」と述べたように、専門家も何が起きるか予測できない事態が続いている。可能性が低いとしても、万が一の事態に対応するため、せめて余震がおさまるまでは、川内原発を止めておくのは、危機管理として当たり前のことだろう。そもそも、福島第一原発事故を経験した現在の日本において、原発が稼働していること自体おかしいわけなのだが、その中でも川内原発は稼働させておくには、あまりに問題が多すぎる。

*ただし、鹿児島県の南方、沖合のトカラ列島では震度2~3の地震が続いている。

〇稼働させ続けてはいけない川内原発の問題点

まず第一に、川内原発には、免震重要棟が未だ設置されていない。免震重要棟とは、建物全体が特殊な免震構造となっており、震度7クラスの地震でも揺れを3分の1から4分の1にまで抑えられる地震発生時の現場対応の本部となるものだ。福島第一原発事故時、もし免震重要棟がなかったら、なすすべがなかったと事故対応を指揮した吉田昌郎所長をはじめ、多くの関係者が語っている。つまり、免震重要棟が無ければ、事故直後の政府での最悪のシナリオのように、東京も含む東日本の広範囲が壊滅したかもしれなかったのだ。その、免震重要棟を設置しないまま九州電力は川内原発再稼働させ、さらには免震重要棟の新設計画自体を撤回、耐震構造の建物を新設することにしたのだ。だが、揺れを吸収する免震重要棟と、単に耐震性を上げただけの建物では、その性質が全く異なる。仮に建物自体が壊れなくても、揺れを軽減できなければ、内部の作業員や機材に被害が出て、結局、現場の事故対応に重大な悪影響が及ぶことが避けられないかもしれない。

第二に、いざという時の避難計画の欠如だ。川内原発発生時の避難計画について、鹿児島県は自力で避難できない要支援者の避難計画は10km圏内までしか策定せず、10~30km圏内は避難計画を状況次第で対応するとしている。つまり、事前の避難計画はない、ということである。また、川内原発が立地する薩摩川内市では原発事故時の住民の避難手段として、九州新幹線でピストン移送することを、JR側に申し入れていた。だが、今回の地震では、九州新幹線が脱線。大地震発生時の避難手段として、あてにならないことが露呈してしまったのだ。

第三に、川内原発直下に活断層が存在する疑いがある。新潟大学の立石雅昭名誉教授と、地元の研究者や住民らによる「川内原発活断層研究会」が2014年2月に発表した調査報告によれば、川内原発の北東約800mの山中の崖に活断層と観られる断層を3つ発見。そのうち一つは川内原発の方に伸びていたという。立石教授らは、この断層についての詳細な調査を求めていたが、逆に露出していた断層面がコンクリートで固められてしまい、その危険性についてはウヤムヤにされてしまった。

〇リスクを抱えてまで原発を稼働させる必要はない

原発というものは、その原子炉が地震によって直接破壊されなくても、外部からの電源が供給されなくなることで、途端に深刻なリスクに直面するものだ。周辺で比較的規模の小さい地震が発生しても、十分脅威になり得るというのが、福島第一原発事故の教訓だ。地震の揺れで原子炉が自動停止しても、核燃料は冷やし続けなくてはならず、外部電源が失われたら、冷やせなくなりメルトダウンする。外務電源が失われても、ディーゼル発電機などの施設内非常用電源もあるが、これが何らかのトラブルで作動できなくなったら、おしまいだ。だが、あらかじめ原発を停止し、核燃料を冷やしておけば、メルトダウンのリスクは軽減する。そもそも、川内原発が停止しても、九州が電力危機に陥るわけではなく、さまざまなリスクがある中で、原発を稼働させ続けることの必要性があるのか、という問題がある。福島第一原発後、約4年間停止していたが、その間、電力不足による大規模停電など一度もなかった。それどころか、急増した太陽光発電からの電力を系統から締め出したくらいである。けっきょくのところ、燃料代がかかるという九電の経営上の問題だろうが、電力自由化でその存在感が増している新興の電力各社は、原発など持っていなくても、利益を上げている。むしろ、無理矢理でも原発を稼働させなければ経営が成り立たない電力会社など、市場原理で淘汰されるべきなのだ。

〇原発事故懸念の無視こそ、愚かで非常識

今回の九州での震災や川内原発への政府の姿勢について、について、BBCや米紙シカゴ・トリビューン、仏紙ル・モンドなど、海外メディアは、福島第一原発事故にからめて報じた。つまり、そういう目で海外は日本を観ているのである。福島第一原発事故という史上最悪クラスの大事故を起こしながら、懲りもせず、地震が頻発する国土で、原発を稼働させ続ける。その挙句、万が一再度、深刻な事故を起こしたら、放射能云々以前に、国際的な信用という点で、日本は「終わる」ことになるだろう。川内原発のリスクを懸念する声を無視する政府関係者や右派メディアこそ、愚かで非常識なのだ。

(了)

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、入管による在日外国人への人権侵害、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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