放送法「政治的公平」とは何か、安倍政権の深刻な誤解

高市早苗総務大臣(写真:ロイター/アフロ)

放送法をめぐる安倍政権の面々の発言が、物議を醸している。高市早苗総務大臣は8日の衆院予算委員会で、テレビ局などの放送事業者が「政治的に公平ではない放送」を繰り返すならば電波を停止することもあり得るとの見解を示した。さらに、9日の同委員会でも高市大臣は「極めて限定的な状況のみで行う」と重ねて電波停止について言及。発言を取り消さなかった。同日夕方には、菅義偉官房長官が記者会見で「当たり前のことを言っていると思いますよ」と高市発言を支持。10日には、安倍首相も、「従来通りの一般論を答えたものと理解している」と発言。野党の「言論弾圧」という指摘に対し、「レッテル貼り」と不快感をあらわにした。

◯「政治的公平」とは報道の自由を守るためのもの

放送法における、「政治的公平」とは何か。同法4条には、次のように書かれている。

第4条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。

一 公安及び善良な風俗を害しないこと。

二 政治的に公平であること。

三 報道は事実をまげないですること。

四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

出典:http://www.houko.com/00/01/S25/132.HTM#s2

この第4条の二に違反する場合、放送事業者の電波を停止させるぞ、と高市大臣らは主張しているのである。だが、高市大臣ら安倍政権は、放送法での「政治的公平」の意味を誤解しているようだ。端的にいえば、放送法での「政治的公平」とは、憲法21条の「表現の自由」に基づき、報道機関への権力の介入を防ぐための規定なのだ。そのことは、放送法第1条に以下のように明記されている。

第1条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。

一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。

二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。

三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

出典:http://www.houko.com/00/01/S25/132.HTM#s1

大事なことなので、再度、強調する。放送法における「放送の不偏不党」「政治的公平」とは、「放送による表現の自由を確保する」ためにあるのであって、第4条を根拠に、権力が報道機関に介入するなど、放送法の理念と全く反対のことなのだ。

◯「当たり前」でも「従来どおりの一般論」でもない!

放送法をまるで理解していない高市総務大臣は論外、もはや辞任すべきであるが、「当たり前のことを言っている」との菅発言、「従来通りの一般論」との安倍発言も大問題だ。放送法第4条を報道機関への介入に使うべきではない、あくまで報道機関の自主的な倫理規定である、との見解は、歴代大臣答弁でもその趣旨が確認されている。

放送法を所管する総務省の基本的立場は、憲法に基づく表現の自由、放送法に基づく番組制作の自由、これはしっかり守っていきたい。基本的には、確かにいろいろな議論があることは私も承知しておりますが、それは放送事業者の方の良識と自律、セルフコントロールでやっていただきたい。そこで、放送事業者のそれぞれに私はその辺を強く期待いたしているわけでありまして、法律をもって直ちにということは我が省は全く考えておりません。

出典:平成13年04月10日衆院総務委員会 片山虎之助国務大臣

我が国放送法は、憲法の表現の自由の保障規定を受けて、放送事業者の自律的な取り組みを通じて放送番組の適正を図る仕組みとなっているというように答弁をしていると思うんですね、議事録を見ていただければそうなっていると思うんです。

出典:平成16年06月03日衆院総務委員会 麻生太郎国務大臣

◯報道関係者は憤れ

最近の一連の言動からは、安倍政権の面々は、憲法というものを、まるで理解していないのでは、との疑念を持たざるを得ない。権力というものは、常に暴走する危険性を持つもの。そうした権力から人々の基本的人権を守るため、権力を縛る最高法規が憲法であり、いわゆる立憲主義というものである。ところが、安倍政権は、憲法学者や元最高裁判事らの「違憲」との指摘にもかかわらず、集団的自衛権を含む安保法制を閣議決定、定められた手続きも経ずに強行採決するなど、「違憲政治」を繰り返している。

今回の放送法をめぐる安倍政権の面々の発言も、憲法21条で保障された「表現の自由」を脅かし、民主主義の根底を覆しかねない、ありえない程の大暴言であると同時に、彼らの政治家としての資質が問われるものでもある。

情けないことに、一部の新聞では、高市発言を擁護する傾向もあるが、報道関係者らは、自らの「報道の自由」を守るため、日本の民主主義をこれ以上、壊させないため、安倍政権に徹底的に反論すべきである。

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、入管による在日外国人への人権侵害、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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