安保法制で「バカの壁」化する安倍政権ー不誠実な説明、「ウソも繰り返せば本当になる」的な手法

国会前で安保法制の衆院強行採決に抗議する若者たち

「安倍政権はバカの壁となっている」―怒りのあまりか、小林節・慶応義塾大学名誉教授は語気を荒らげた。今月12日に都内で行われた、憲法学者らでつくる「国民安保法制懇」の記者会見でのことだ。16日の衆院本会議での強行採決をひかえ、小林教授は「安倍政権の姿勢からして、強行採決は当然くるだろう。だが、これまでの国会内外の論戦で彼らは一つも答えられる内容を持っていないことは明らかだ」と指摘していた。実際、この間の安倍政権の安保法制についての「説明」は、散々批判され、論破された主張を、壊れた機械のように何度も繰り返す、というものとなっている。

○戦争と火事は違うと批判されながらも、くり返される喩え話

小林節教授
小林節教授

今月20日には、安倍首相自らフジテレビ系列の報道番組「みんなのニュース」に出演。安保法制についての説明を行った。「総理肝いり」との触れ込みで出てきたのは、火事を起こしている三つの家の模型。安倍首相は、模型を手に次のように語った。「米国の母屋に誰かが火を放って、火事になった。これに対して同盟諸国の消防士が火事に消しにいくが、今の日本はそれができない。それに対し、今我々がやろうとしていることは、米国の母屋から離れに延焼して、その離れから火が日本の家に移ってくることが明白な場合、米国の離れの消火を日本の消防士が行うことができる」(安倍首相)。要するに、国外に展開する米軍への攻撃に対し、日本も自衛隊を使って応戦できるという集団的的自衛権の行使を説明したかったらしい。だが、戦争と消火活動は全く別物であり、喩え話としては適当ではない。また、安倍首相が使っていた、炎と煙の模型が不気味に赤黒く生肉を連想させたため、ネット上では「安倍首相と火事と生肉イエーイ」「生肉総理」と散々揶揄されることに。

関連情報http://togetter.com/li/849944

安倍政権はよほど火事の喩え話が好きらしく、礒崎陽輔・首相補佐官が今年6月8日、ツイッターに同様の喩え話が投稿している。しかも、この喩えを10代の若者に徹底的に批判されるという失態まで晒した。

「戦争と火事は全く別物だし笑 戦争は火事と違って少しでも他国の戦争に加担すれ自国も危険に晒す」「火事は消火すれば解決する。殺し合いは必要ない。戦争は違うよね?殺し合って何万人何十万人何百万人が死んでくんだよ。それに日本が加担するってことだよ」

出典:http://bylines.news.yahoo.co.jp/shivarei/20150611-00046537/

今月13日の衆院平和安全法制特別委員会の中央公聴会でも、自民党の今津寛議員が火事の喩えを持ち出し、公述人として発言した木村草太・首都大学東京准教授に「火事と武力行使というものを同視する比喩が果たして成立しているのか、私はよく分かりません」と指摘され、どっと笑い声があがるという場面もあった。

○「邦人を輸送する米軍の護衛」は、集団的自衛権で一番いらないケース

柳澤協二・元内閣官房副長官補
柳澤協二・元内閣官房副長官補

過去に論破されたにもかかわらず、懲りずに持ちだされた論議は火事の喩えだけではない。自民党は今月2日、元自衛官の佐藤正久議員をモデルにした短編アニメ「教えて!ヒゲの隊長」をYOUTUBEにアップ。その中で、米軍艦隊が日本の民間人を保護し戦闘地域から安全なところへ輸送している際、米軍艦隊を守るために自衛隊が戦闘行為を行うことができる、という安倍政権が集団的自衛権行使の要件とするケースを説明している。だが、これも既に論破されているものだ。昨年5月19日に開催された「集団的自衛権を考える超党派の議員と市民の勉強会」で、防衛官僚として日本の安全保障の実務を担った元内閣官房副長官補の柳澤協二氏が講演。柳澤氏は、当時、安倍首相がパネルで説明した米軍艦隊による邦人輸送について「一番、集団的自衛権がいらないケース」とバッサリ。「軍事専門家の99%は北朝鮮が戦争する能力がないという認識だが、仮に北朝鮮の軍隊が燃料を集め、弾薬を補給して、戦争の準備をする動きをしたら、こちらにも必ずわかる。そうなれば、外務省から退避勧告が出る。民間のエアラインが飛んでいる間に引き上げさせる。戦争になれば、民間人が邪魔にもなる。軍事的観点からも引き上げさせる」「軍艦に民間人を乗せるスペースはない」等と、米軍による邦人輸送が非現時的であることを理路整然と批判した。

ちなみに、「教えて!ヒゲの隊長」に対し、これに反論する動画「【あかりちゃん】ヒゲの隊長に教えてあげてみた」が今月9日にアップされた。現在、元の動画より反論動画の方が再生回数を上回り、「完全に粉砕」「とてもわかりすく論破している」等と話題になっている。

○砂川事件判決は集団的自衛権を容認していない

安保法制が「合憲」だと言って憚らない安倍政権。彼らが根拠としているのが、砂川事件の最高裁判決だ。砂川事件とは、1957年7月に砂川町(現在の立川市)での米軍基地の拡張に反対する学生が基地に立ち入り、刑事特別法違反として逮捕、起訴されたというもの。その後、学生側は、安保条約およびそれに基づく米国軍隊の駐留が憲法前文および9条に違反すると無罪を訴え、1959年3月、東京地裁はこれらの主張を認め、学生らを無罪とする(伊達判決)。ところが、検察側は高裁を飛び越えて最高裁に上告。最高裁は同年12月、「憲法9条は自衛権を否定していない」「外国軍隊は憲法第9条にいう戦力にあたらないから米軍の駐留は憲法に違反しない」「米軍駐留を定めた安保条約は高度の政治性を有し、司法裁判所の審査にはなじまない」と、伊達判決を覆した。

安倍政権が集団的自衛権の行使を可能とするのは、この砂川事件の最高裁判決が「自衛権を認めている」というものだが、砂川事件最高裁判決は「日本が攻められた時に応戦する権利」としての個別的自衛権は認めていても、「日本が攻撃されていないのに、米国等の助太刀をするために、武力行使を行う」という集団的自衛権の行使までは認めていないというのが定説であり、これまでの政府見解であった。昨年5月30日付けの日本弁護士連合会の声明も、「砂川事件最高裁判決によって集団的自衛権の行使を正当化する余地はあり得ない」と断じている関連情報)。 

○「ウソも繰り返し言い続ければ本当になる」的手法

破綻したロジックや、繰り返しその根拠が否定されてきた主張を、懲りずに何度でも使う。そうした手法は、「ウソも繰り返し言い続ければ本当になる」というナチス・ドイツのゲッべルス宣伝大臣の手法を彷彿とさせるものだ。少なくとも、「丁寧に説明」しているとは到底言えないであろう。前出の記者会見で、小林教授は「安倍政権とのたたかいは我慢大会」「強行採決への怒りは忘れず、次の選挙ではっきりケリをつけるため私は語り続ける」と決意を新たにしていた。安保法制の衆院特別委での強行採決後、「SEALDs」や「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」などが、15日、16日、17日の3日連続で行った国会前抗議行動では、のべ人数で約19万人(主催者発表)もの人々が集まり、安倍政権の支持率も30%代に急落、「支持しない」は50%代に急上昇したのも、多くの人々が安倍政権のやり方に憤りを感じているからなのだろう。

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