【コラム】「私は蝶になりたい」パレスチナの乙女から日本の人々への伝言―封鎖されたガザの日常と絶望

2012年11月の大空爆で破壊されたガザのサッカーグラウンド
2012年11月の大空爆で破壊されたガザのサッカーグラウンド

 先日の、安倍首相とイスラエルのネタニヤフ首相との会談についての記事でも書いたように、イスラエルは、「アパルトヘイト国家」と言うべき国連憲章違反の人権侵害を繰り返している。

 特定の人種・民族等に属しているというだけで、政治的、社会的、経済的及び文化的生活に参加することを妨げられてる―アパルトヘイト的な状況について、私は、パレスチナ・ガザ地区で出会った若手人権活動家のことを思い出す。

 シャハッド・アブサラマ。彼女は、私が滞在させてもらったパレスチナ人一家宅の次女で、09年1月のイスラエル軍によるガザ侵攻直後の取材で出会った時は、まだ高校生だった。親切で気がきくシャハッドは、私が取材から現地滞在先に戻ると、笑顔で迎えてくれ、香りの良いアラブ紅茶をいれてくれた。夜な夜な、彼女とお茶を飲みながら話す中、ガザの若者の心情をうかがい知ることができた。ある晩、シャハッドはこうこぼした。

「ねえ、レイ。私はあなたが羨ましい。世界のあちこちを旅してまわっているから。私は多分、死ぬまでガザにいるのよ。…あなたも日本に帰ったら、きっと、私のことなんか忘れてしまうんだわ」

シャハッド
シャハッド

 ガザは、イラエルとエジプトに囲まれた飛び地であり、特にイスラム組織ハマスが2006年1月に選挙で大勝して以来、イスラエルやエジプトは、ガザの人の出入り、物資の流通を極端に制限するようになった。そのため、ガザ外の高度な医療を必要とする重病人や重傷のけが人が境界を越えられず、むざむざと亡くなる、ということも珍しくない。いくつもの人権団体が指摘しているが、現地の人々の移動の自由を徹底的に妨げているガザ封鎖は、国際法で禁じられている「集団的懲罰」にあたり、人道に反するものだ。ある民族や地域に属しているというだけで、迫害を受けることがあってはならない、はずなのだ。本当は。

 ガザを去る前、「また会えるかしら?」と聞いてくるシャハッドに、私はこう答えた。

「もう、ガザに来ないですむように願っているよ。戦場ジャーナリストの俺がここに戻るとしたら、それはまたガザが戦火にさらされている時だからね。でも、平和になったガザに観光客として来るのはいいかもしれない。その時は、あんたがいれるお茶を飲みたいな」

 だが、残念ながら、再びガザは危機に直面する。イスラエルは2012年11月、ガザへの大規模な空爆を行った。またも女性や子どもを含む一般市民が犠牲となり、現地テレビ局の事務所も攻撃され、片足を失う大怪我を負ったジャーナリストもいた。不幸中の幸い、シャハッド達の家は無事だったが、彼女の家のすぐ側でやはり一般人が乗っていた乗用車が空爆され、「爆撃された人の肉片があたりに飛び散っていた」と言う。

ドイツでの脱原発取材の関係で、すぐにはガザ入りできなかったものの、2013年春、私は空爆被害を取材するため、ガザを再訪。シャハッドとも再会する。英語を流暢に使いこなし、文才もあるシャハッドは、国際的な反占領サイト「エレクトリック・インティファーダ」にエッセイを寄稿したり、イスラエル当局に不当拘束されているパレスチナ市民の解放を呼びかけるなど、いっぱしの人権活動家に成長しつつあった。

 だが、人々がガザの中に閉じ込められている状況は相変わらずだった。エジプトでの「中東の春」の影響で、一時的にガザからの出入りが緩和された時もあったが、また元の状態に戻ってしまったのだ。

 ある朝、シャハッドはベッドにうずくまって泣いていた。彼女は、トルコでのジャーナリズム研修の誘いを受けたものの、果たしてトルコに行けるのか、見通しが立たないのを嘆いていた。トルコのビザを取るにはイスラエル側のエルサレムにあるトルコ大使館にパスポートや必要書類を届けないといけない。だが、シャハッドがガザから出ることは難しいし、ガザからエルサレムへは郵便や宅急便も使えない。結局、外国のNGO関係者に必要書類を託すことはできたものの、シャハッドは封鎖されたエジプトとの境界を越えられず、彼女を乗せないまま、飛行機は飛び立ってしまう。

絵の少女とシャハッドの耳には蝶のかたちをしたピアスが飾られていた
絵の少女とシャハッドの耳には蝶のかたちをしたピアスが飾られていた

 ある午後、シャハッドは彼女が描いたという絵を見せてくれた。絵の中の少女の耳と

シャハッド自身の耳には、蝶の形のピアスが飾られている。憂いを帯びた笑みを浮かべ、

「私は蝶になりたい」とシャハッドは言う。

「だって、蝶ってどこでも好きに飛んでいけるでしょ?私たちとは大違いだわ…」

 今、さんざんイスラエルを擁護し支援してきた米国ですら、アパルトヘイト的な振る舞いを続け、中東和平を破棄しようとする同国に対し、そろそろ距離を置くべきではないか、という風潮が広まりつつある。そんな中、安倍政権は、武器輸出三原則をねじ曲げ、挙句には撤廃して、日本産の部品を組み込んだF-35戦闘機がイスラエルにもわたってしまうことを事実上容認した(関連記事1関連記事2)。考えたくないことだが、今後「メイド・イン・ジャパン」の兵器がパレスチナの人々を殺すことになるのかも知れない。私は日本人として、シャハッドらパレスチナの友人達に対し、申し訳なく思う。

 だからこそ。私はシャハッドとの約束を守らないといけない。それは、彼女が蝶のピアスに込めた、心の叫びを、日本の人々に伝えること。

「パレスチナに自由を」

(了)

パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、入管による在日外国人への人権侵害、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。

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