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KYな安倍靖国参拝に米国も批判-思想の左右でなく経済で外交を考えてみよう

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

また安部晋三首相がやらかした。昨日26日午前、安倍首相は首相としては小泉純一郎氏以来の靖国神社参拝に踏み切った。政権発足1年目、ということだが、奇しくも12月26日は毛沢東の誕生日にあたり、中国側の反発は必至。また、韓国や北朝鮮も刺激することになるだろう。だが、安倍首相にとって誤算だっただろうことは、米国の憤りだ。米国の反応は早かった。在日米国大使館報道室は26日午後に緊急声明を発信。その内容は、

「日本は大切な同盟国であり、友好国である。しかしながら、日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している。

米国は、日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させ、地域の平和と安定という共通の目標を発展させるための協力を推進することを希望する。

米国は、首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する。」

出典:在日米国大使館報道室

と、安倍首相の行動をはっきりと批判するものだった。米国は中国を刺激するような安倍政権の振る舞いを決して支持しない。今年2月の訪米の際に安倍首相は「集団的自衛権の行使容認」をオバマ政権への手土産にしようとした時も、オバマ側は難色を示したという。それは当然のことだ。米国はイラク・アフガンの対テロ戦争で巨額の財政赤字を抱えてしまった。これまで「聖域」だった軍事費をいかに削減し、財政危機をどう乗り切るか、オバマ政権は苦慮してきたのである。安倍政権が中国やその他の北東アジア諸国を挑発し、この地域の情勢が緊迫すると、「中国の脅威に対抗すべき」という米国内のタカ派がアジア方面の軍事力増大を主張することになる。だから、なるべく波風立てず、粛々と軍事費削減を行い、米国財政を建て直し、自らの支持基盤である低所得者層や中流階級が求める、「オバマケア」のような社会サービスを充実させる、ということがオバマ政権の求めている情勢だ。そのような文脈で言えば、今回の安倍首相の靖国参拝には「余計なことしやがって」とオバマ大統領が舌打ちしたとしても不思議ではない。

◯日中・日韓関係の悪化が景気低迷の要因に

「アベノミクス」といった経済の立て直しを訴え、支持を集めたのが先の衆参総選挙での安倍・自民の勝因だった(本当にアベノミクスが日本経済を再生するかどうかは別として)。だが、今回の安倍首相の靖国参拝は、「経済の回復」にも悪影響を及ぼす。2012年度の日本の国別輸出額で観ると、米国むけは11.2兆円。これに対し、中国と韓国むけの総額は16.4兆円だ。つまり、今や日本にとって最大の経済的なパートナーは米国ではなく、中国&韓国なのである。そして、これらの国々との関係悪化は確実に日本経済へのダメージとなる。2011年9月に野田政権が「尖閣国有化」を決定した翌月は、10月としては過去最大の貿易赤字を記録した。特に自動車販売額の減少が顕著で、2011年10月の自動車輸出額は前年度比8割減だった。2001年に小泉純一郎首相(当時)が靖国参拝した頃もやはり同様の大幅な輸出減があっただけに、今回の安倍首相の靖国参拝が、日本経済の回復に暗雲をもたらすことは避けられなさそうである。

◯日中戦争は非現実的、米国も望まない-対話路線こそが現実的

講演などで筆者が平和憲法の話などをすると、よく「中国が攻めてきたらどうするんだ」と聞いてくる人がいる。だが、そうした想定は、いささか非現実的だ。何故なら、中国の輸出先シェアで日本は米国、香港に次いで第3位(2011年度統計)。巨大な市場をわざわざ潰すようなことは中国も望まないし、第一、日本のような経済大国に攻撃を加えれば、世界経済は大混乱に陥る。中国としても被害は大きかろう。また、日本と中国はそれぞれ、40~50兆円以上の米国債を保有する国である。米国としても、日本と中国が直接衝突することは望まないのである。ただ、このまま日中関係が悪化し続け、双方の戦闘機などが「偶発的な戦闘」を引き起こした場合、双方が引くに引けない状況になることは、あり得ないことではない。だからこそ、外交的・軍事的な挑発は避け、あくまで対話する姿勢を周辺国と共有することが、日本にとって重要なのだ。好むと好まざると、日本経済の現状と、地政学的な状況から観て、対話路線こそが現実的なのである。

◯安倍政権は経済政策に専念せよ

筆者はアベノミクスが日本経済を回復させるとは思っていないし、安倍政権が目指す原発再稼働についても批判的だ。だが、安倍・自民に投票した人々の多くが求めていたのは、「景気・経済対策」であったはずだ。先月の世論調査(FNN、産経)で「経済回復を実感していない」が8割強という結果が出ている中、安倍政権が優先的に行うべきは経済政策だろう。周辺国のみならず、米国にまで呆れられ、国際社会の中で孤立し、経済の低迷を招くことを望むのか。先の衆参総選挙で自民党に投票したに人々こそ考えてもらいたいし、政府にもの申してもらいたいものである。

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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