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リアル「リーガル・ハイ」!? 最強弁護士VS東電の激闘、史上空前5兆円の賠償金支払いを東電経営陣に

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

破天荒な弁護士が主人公の人気テレビドラマ『リーガル・ハイ』、今日で最終回ということで、残念に思う人々も多いだろう。だが、「現実は小説より奇なり」。世の中には実に痛快な弁護士がいるものである。その名は、河合弘之。ダグラス・グラマン事件や、イトマン事件、「光進」による国際航業に対する日本初の敵対的M&A、など日本経済史に残る事件をいくつも手がけてきた凄腕のビジネス弁護士である彼は、今、最大最強の相手に挑んでいる。それが東京電力だ。福島第一原発事故を起こしながら、その責任追及がまるでされていない東電経営陣。彼ら東電経営陣の個人資産から賠償させる訴訟―「東電株主代表訴訟」に奮闘する河合弁護士に話を聞いた。

◯東電経営陣に払わせろ!史上空前の巨額賠償金5兆5045億円

「株主代表訴訟とは、取締役らの違法行為、或いは著しい判断ミスにより、会社が大きな損害を被った場合、株主らが会社になりかわって取締役たちに損害賠償請求を行う訴訟だ。株主が勝訴した場合、取締役の個人資産から賠償が会社に対して支払われる。

「東電株主訴訟は、事故以前から脱原発を求めていた東電株主42名が、昨年3月、訴訟を起こしました。私や海渡雄一弁護士などが弁護団としてついています。訴えられたのは、東電の元・現取締役ら27名。彼らの賠償請求は5兆5045億円です。私達が勝訴した場合、賠償金は東電取締役から、東電へと支払われますが、そのお金は全て、原発事故で被害を受けた方々への賠償にあてます」(河合弁護士)。

インタビューに応じる河合弘之弁護士
インタビューに応じる河合弘之弁護士

この5兆5045億円という賠償請求額は、政府・内閣官房の「東京電力に関する経営・財務調査委員会」が算出した事故による東電の損害額や廃炉費用の「とりあえず」の推計。国内の損害賠償請求としては、史上最大の金額だ。当然、東電の元・現取締役らの全財産を持ってしても支払える額ではないが、これは「二度と原発事故を起こさせない」という河合弁護士の強い意志の表れだ。

「原子力業界の人間たちは何度事故を起こしても、日本に人が住めなくなるまで、決して原発を諦めません。東電が福島第一原発事故の直後にその原因を『津波による電源喪失』に絞り、地震の揺れによる影響を否定したのも、津波対策さえしておけば、原発を再稼働させられるという計算があったのではないでしょうか。同様に、原子力規制委員会の新規制基準が、複数のトラブルが同時発生し原発が事故を起こす事態を想定していないのも、結局は原発再稼働を前提としているからでしょう。だからこそ、事故を起こした責任を徹底追及し、東電経営陣のみならず、他の電力各社にも『原発事故を起こしたら、ただではすまない』と思い知らせ、原発再稼働を諦めさせる。それが私達の目的です」(河合弁護士)。

◯東京地検が「全員不起訴」も、東電経営陣を「公害罪」で追及

原子力業界は非常にしぶとく手強いことは河合弁護士も痛感している。実は、株主代表訴訟と平行するかたちで河合弁護士は、福島県民1342人と共に、避難中の死亡や被曝が「業務上過失致死傷」であるとして、東電幹部や官僚、学者達を昨年6月に刑事告訴していた。だが、今年9月、東京地検はロクな捜査もしないまま「全員不起訴」としたという。「あれだけの巨大事故にもかかわらず、強制捜査すらしないなど、今回の東京地検の対応は異常と言うしかありません。権力(検察)に権力(電力会社、官僚)を裁かせるというのは容易ではない、ということでしょうね」と河合弁護士。だが、それでも彼は追及の手を緩めない。「東京地検は、事故の予見可能性について認めなかったのですが、事故が起きた後の東電の対応も酷すぎました。汚染水対策などは、事故発生直後から、地下遮水壁の建設の必要性が議論されていたにもかかわらず、株主総会で事故対策コスト増を批判されることを嫌い、東電経営陣は遮水壁建設を先延ばしにしてしまった。その結果が現在のアンコントロールな状況です。そこで私達は、汚染水をみすみす垂れ流したとして、公害罪で東電経営陣の責任を追及しています」(河合弁護士)。

◯「リアル『リーガル・ハイ』ですよ!」

東電が引き起こした原発事故の損害は今なお拡大している。政府は今月18日、福島第一原発事故の損害賠償の支払いのため、東電に無利子で貸し付けている支援金の上限を、現行の5兆円から9兆円に引き上げる方針を固めた。これとは別に福島第一原発の廃炉費や汚染対策費も約2兆円に膨らむとされる。だが、これらの税金を東電が返済できるか、いや、そもそも返済するつもりがあるのかすら疑わしい。実際、今年2月、除染を担当する環境省が第一次分の費用として404億円を請求したが、東電が支払ったのはわずか67億円だ。さらに、東電は来年夏を目標に柏崎刈羽原発の再稼働へ全力を注いでいる。

こうした状況は、東電経営陣の思う壺のようにも見えるが、河合弁護士らは株主代表訴訟の中で手応えを感じ始めているようだ。「取締役議事録を開示させることで、事故以前から巨大津波が福島第一原発を襲い、電源喪失に陥る危険性を、東電経営陣が認識していたなど、新証拠が集まりつつあります。これらの新証拠を元に、再び、刑事告訴すること視野に入れています。なにしろ、相手は電力会社を中心に政財官学、そしてメディアも取り込んだ巨大勢力です。非常に手強いですが、私達はたたかい続けます。リアル『リーガル・ハイ』ですよ!」(河合弁護士)。

東電株主代表訴訟の、次回の口頭弁論と報告集会は明日19日*。テレビドラマだけでなく、リアル『リーガル・ハイ』な河合弁護士らの奮闘も見逃せない。

*東電株主代表訴訟の口頭弁論と報告集会については以下参照

◇第9回口頭弁論

2013年12月19日午前10時30分~

東京地方裁判所103号法廷

◇報告会&学習会

会場:参議院議員会館1階101号室(地裁より地下鉄丸ノ内線で1駅)

12時頃から入館証を参議院議員会館入り口で配布。

12時30分~13時 只野靖弁護士による裁判報告

13時   ~14時 井戸川克隆・前双葉町町長の講演

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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