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福岡IT講師刺殺事件、被告人が憎んだ「集団リンチ」をHagexさんはしていたのか?

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
公判が行われている福岡地裁。筆者撮影

 昨年6月に福岡で起きたIT講師(以下、被害者のハンドルネームよりHagexさんと記載)刺殺事件の第2回公判が福岡地裁で11月12日に開かれました。

 この事件で被告人は犯行の動機として「ネットの集団リンチに抵抗した」、「自分も集団リンチされた」と供述しています。

 この記事では被告人の考えている「集団リンチ」についてと、Hagexさんが被告人に対して集団リンチをしていたのかを解説します。

被告人「一般の人を多数で攻撃することが集団リンチ」

 被告人によると、被告人の考える「集団リンチ」とは「一般の人をインターネット(被告人が利用していた『はてなブックマーク』というサービス)上において多数で攻撃すること」です。

 この一般の人にはブロガーとして有名な人(影響力のある人)もふくまれる一方、政治家や著名な芸能人、経済的に成功している人はその対象ではないとのことです。なお、その判断基準は被告人のなかにしかありません。

 被告人は「集団リンチは弱いものいじめであり、自分(ユーザー)が笑うために他人を笑うのは許されない、ネットを見ているうちに許せなくなった」と集団リンチを敵視する理由を語りました。

 そのうえで記事に対してユーザーひとりひとりがコメントを投稿できる「『はてなブックマーク』は集団リンチできる仕組みができて」おり、それを止めさせるために「低能」、「死ね」、「ゴミクズ」と言った罵倒コメントを自分が集団リンチをしていると思った人に対して送っていたと続けました。

「被害者ブログ記事で自分も集団リンチの被害者に」と訴え

 こうした罵倒コメントは被害者であるHagexさんにも送られており、13日の第3回公判では遺族が「被害者は2018年ごろに低能先生について『はてな(被告人と被害者の両方が利用していたネットサービス)で荒らしをしている人がいる』、『からまれて困っている』、『怖い』と話していた」と証言しています。

 その後、Hagexさんは罵倒に耐えきれなくなったことから、被告人の荒らし行為を自分が通報していたことや、「はてな社は偽計業務妨害で訴えるべきだ」との記事を公開しました(参考:低能先生に対するはてなの対応が迅速でビックリ)。

 この記事が公開されたことで、被告人は「晒されたことで自分も集団リンチの被害者になってしまった」と思うようになり、「集団リンチをやめさせるには殺すしかない」と考え、犯行に至ったとのことです。

Hagexさんは「集団リンチ」していたのか?

 『はてなブックマーク』におけるユーザーのコメントは、ユーザーひとりひとりが自分の考えを投稿しているものであり、決して複数のユーザーが協力して少数を攻撃しているわけではありません。

 被告人は「被害者は記事を公開することで集団リンチを誘発させていた」との考えを語りました。

 しかしHagexさんは『はてなダイアリー』上で事実に基づいた批判を行っているだけであり、それが「集団リンチを誘発させるために行っていた」とは言えません。

 被告人は「被害者は有名であるため、記事を書けば一緒に批判する人が現れ、それが集団リンチを作ることになった」との考えを述べましたが、それではネット上での批判は一切できないことになってしまいます。

 被告人の考える「集団リンチ」を防ぐために、個人の言論活動を規制することはおかしいと言えます。

 また、被告人を通報していることや、被告人に対してはてな社は法的対応を取るべきだと言う記事も、被告人が被害者に対して「低能」、「死ね」、「ゴミクズ」という罵倒コメントを送り続けていたからであり、被告人を集団リンチしようとしていたとは言えません。

 なお、被告人は検察官からの「Hagexさんに対して『集団リンチをやめろ』という直接的な言葉を投げかけたことはあるか?」との質問に対して、「自信がない」と答えています。

 ただひたすら罵倒されるだけの状態で、Hagexさんはどうやって被告人の頭のなかにしかない集団リンチをやめられたのでしょうか。筆者にはわかりません。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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