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「安倍首相はトランプ大統領の親書を尻に敷いた」デマ広がる。発信元はイランの保守派か(追記あり)

篠原修司ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門
イランへ出発する安倍首相(写真:つのだよしお/アフロ)

 「安倍首相がトランプ大統領の親書をイランのハメネイ師に渡そうとしたが、受け取りを拒否された。その後、尻に敷いた。失礼だ」。こんなデマがSNS『Twitter』で広がっています。

 問題のツイートは記事執筆時点で5,500件以上もリツイートされており、安倍首相への批判が集まっています。が、デマです。

デマの発信元はイランの保守派?

 このデマについて、日本語での拡散元は「海外のSNSで出回っている」、「BBCの報道によると」としています。

 海外のSNSがどれを指しているのかはわかりませんが、画像の発信元は『Instagram』のこの投稿、「BBCの報道によると」はBBCのイラン特派員であるAli Hashem氏のこのツイートであると思われます(※ツイートは削除されました。6月16日11時36分追記)。

 ツイートでは安倍首相が親書を渡そうとしたものの、受け取りを拒否されたため尻に敷く様子がアニメーションを使って表現されています。

 「BBCがなぜこのようなデマを」と思われるかもしれませんが、Ali Hashem氏によるとこのアニメーションはイランの最高指導者(ハメネイ師)の支持者が運営している『Telegram(テレグラム)』のチャンネルに掲載されていたものだとのことです。

 要するにBBCの報道ではなく、イランの保守派が作成したアニメーションが発信元というわけです。

※『Telegram』は機密性の高いメッセンジャーアプリ。メッセージを暗号化することで通信内容を保護し、削除されたメッセージの復元も困難にする。発信者のプライバシーが保護されるため、ネット犯罪に使われやすい。

「親書ではなくメモ書き」河野外務大臣が否定

 今回のツイートが広まるにつれ、河野太郎外務大臣は「総理が持っていたのはメモであり、トランプ大統領からの親書ではない」とデマを否定するツイートを投稿しています。

実際の動画を見るとメモ書き

 確認のため、実際の動画を見てみましょう。

 ドイツの動画ニュースサイト『Ruptly』が、安倍首相がハメネイ師と会談したときの様子を『YouTube』にアップしているので掲載します。

 動画からは「親書」とされている紙を膝に置き、安倍首相がメモを取っている様子を確認できます。

 残念ながらメモ書きを尻に敷くシーンは映っていませんでしたが、メモを取っているときに「親書」が尻に敷かれてないことを考えると、「親書」は「メモ書き」であったと判断するのが妥当であると思います。

BBCイラン特派員がツイートを削除(6月16日11時36分追記)

 河野外務大臣からの指摘を受け、アニメーションを転載していたBBCのAli Hashem氏が問題のツイートを削除しました。

 もはや上述した「BBCの報道によると」は存在しません。イラン保守派によるデマと断定して良いでしょう。

※ちなみに安倍首相がトランプ大統領からの「message(メッセージ)」を伝え、ハメネイ師がそれを「返信するに値しない」と回答した報道はあります。この「message」を「親書」と受け取ってしまった点も、日本語圏でデマが生まれた一因ではないかと筆者は推測します。

ITジャーナリスト/炎上解説やデマ訂正が専門

1983年生まれ。福岡県在住。2007年よりフリーランスのライターとして活動中。スマホ、ネットの話題や炎上などが専門。ファクトチェック団体『インファクト』編集員としてデマの検証も行っています。最近はYouTubeでの活動も。執筆や取材の依頼は digimaganet@gmail.com まで

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