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セクハラ疑惑をめぐる細田衆院議長vs『週刊文春』の応酬は報道界に大きな問題を投げかけている

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊文春』告発第3弾6月9日号(筆者撮影)

 細田博之衆院議長と『週刊文春』の応酬が当初の予想を超える大きな問題になっている。取材対象からのセクハラという、メディアにとって以前から議論されてきた問題なのだが、細田氏が「事実無根」「訴える」などと全面否定していることもあって『週刊文春』も取り組みを強化し、国会やメディア界を巻き込む問題になりつつある。『週刊文春』といえばこの春、映画界の性暴力問題キャンペーンで存在感を示したが、今回の問題はどうなるのだろうか。

 取材先からのセクハラという点では、以前、テレビ朝日の女性記者が財務官僚からのセクハラを受けたことへの告発がなされ、2018年にメディア界全体の大きな議論になった。また最近では長崎市で取材対象から性暴力を受けた女性記者の裁判の判決が出て大きく報道された。取材に伴うセクハラや性暴力というのは以前から指摘されてきた深刻な問題なだけに、新聞社なども『週刊文春』の告発と応酬を対岸の火事と眺めているわけにいかず、社内調査を実施したり、続々と社説で見解を表明したりと波紋は広がりつつあるようだ。

最初の記事はワイド特集の1本だった

 『週刊文春』の第一報は5月26日号「細田博之議長、女性記者に深夜に『今から家に来ないか』」だった。いわゆる特集記事ではないワイド特集の1本で、その後これだけ大きな問題になることを編集部も想定していなかったかもしれない。その点は前述した映画界の性暴力告発もそうで、第一報は大きな特集記事ではなかったが、その後の#MeTooの広がりで大きなキャンペーンになっていった。「時代の風」を受けて大きくなっていったテーマという意味では、今回の件も同じかもしれない。

 その最初の記事では細田議長に関わる2つの問題を取り上げていた。セクハラ問題は後半に書かれたもので、その前に書かれていたもうひとつの問題は、5月10日の政治資金パーティーで細田氏が「議長になっても、もらう歳費は百万円しかない」と発言したことだった。

 そんなに多くのお金をもらっていないと言って衆院定数是正問題についての考えを述べた発言だったようだが、これが猛反発を受けた。例えば『週刊ポスト』6月3日号は「細田議長、『月100万円しか』発言はやっぱりおかしくないですか? 国会議員の『給与明細』大公開」と題して大きな特集記事を掲げ、歳費以外でも国会議員にどんな名目でどれだけのお金が支払われているかを詳細に暴いてみせた。

 この歳費発言については、反発を受けて細田氏も反省の弁を述べたというが、『週刊文春』がもうひとつ指摘したセクハラについては「事実無根」と否定したのだった。そうした対応を受けて『週刊文春』は翌週、第2弾として巻頭トップの特集記事で大きな報道を展開するのだが、それに対しても細田氏は、事実無根であり提訴すると述べた。

第2弾では自民党の女性職員のケースまで

 細田氏のセクハラ疑惑とはどういう内容かというと、最初の『週刊文春』5月26日号に書かれていたのはこういう話だった。匿名の官邸担当記者の証言だ。

「私たちの間では、細田氏から『添い寝をしたら教えてあげる』と言われたという話が“常識”のように広まっている。実際、ある女性記者が、その話を飲み会で披露すると、『私も同じようなこと言われた!』などと”#MeToo”の声が続々上がったそうです」

 細田氏がそれを事実無根と否定した後の第2弾、6月2日号「『うちに来て』細田衆院議長の嘘を暴く『セクハラ記録』」では、同氏から5月23日に抗議のファックスが届いたことを冒頭に書いた後で、それへの反論として前号にも増してセクハラを受けたという多くの証言を掲載した。それも女性記者だけでなく、趣味のカードゲーム仲間の女性や、自民党の職員の話まで取り上げていた。

 その記事の中でセクハラを受けたという女性記者のこういうコメントが紹介されている。

「大手マスコミは、自社の女性記者が細田氏から受けたセクハラ発言を把握しているはずです。ただ、彼女たちはオフレコ取材が前提なので、同僚に迷惑がかかるのでは、とも悩んでいる。自ら名乗り出ることは容易ではありません」

 政治家とのオフレコ取材が日常的に行われている報道現場では、どう対応するかを含め、これがなかなか深刻な問題であることを指摘したものだ。

細田氏の「圧力」を第3弾で暴露

 この第2弾に対しても細田氏が「事実無根」と繰り返したことを受けて『週刊文春』は6月9日号の巻頭特集に第3弾「細田セクハラ議長 女性記者に『圧力電話』」を掲載した。

 それによると、セクハラ被害にあったとされる女性記者に細田氏から電話があり、『週刊文春』を非難したうえで「誰も実名で話さないだろ」と語ったという。今のところセクハラ被害の訴えはすべて匿名なのだが、それ以上の情報提供をやめるよう圧力をかけたのではないか、というのが同誌の見方だ。

 この問題が深刻なのは、セクハラを受けたという声に対してその記者の所属する新聞社やテレビ局がどう対応するのかというのが問われていることだ。『週刊文春』vs細田氏の応酬は決して新聞社やテレビ局にとって他人事では済ませられない事柄なのだ。第3弾の記事の中で大手メディアの編集幹部が匿名でこうコメントしている。

「細田氏のセクハラ報道を受け、わが社でも『きちんと追及するべきだ』という声が上がっています。今後の政治取材に影響が出るからといって、報道することを止めてしまえば、女性記者より細田氏を守った形になってしまう。メディアとしてそんなことが許されていいはずがありません」

大手メディアの内部調査と社説の広がり

 この記事では、同誌が大手紙、通信社、テレビ局など14社に「細田氏からのセクハラ被害について社内調査を行ったかどうか」、調査した場合はその内容を尋ねる質問状を送付したとして、結果を報じている。

 それによると、調査の実施を否定した社はゼロで、調査の結果、細田氏からのセクハラ被害がなかったとしたのは読売新聞とフジテレビのみ。他の会社は、社内調査は行ったようだが、調査内容は公表できないという回答が多かったという。

 多くの新聞社などがこの問題について社内調査を行ったり対応を検討していることは、社説にも反映されている。

新聞が社説で次々と細田氏を批判(筆者撮影)
新聞が社説で次々と細田氏を批判(筆者撮影)

 社説で細田氏の問題を取り上げたのは、5月28日付の朝日新聞「細田氏の言動 衆院議長の資質欠く」、30日付の産経新聞「セクハラ疑惑 議長は身の処し方考えよ」などだったが、これが6月4日には一気に広がった。毎日新聞「説明しない細田氏 議長の資質問われている」、東京新聞「細田氏の言動 議長としての資質疑う」、さらに京都新聞「細田議長の言動 疑惑に説明責任果たせ」など地方紙にも拡大している。

 6月3日に野党が細田議長の不信任決議案提出を決めるなど国会でも批判の声が高まっていることなどを受けての反応だろうが、大手メディアにとっては取材に伴うセクハラという深刻な問題にどう対応するか改めて突き付けられたわけだ。

 この問題、今後どういう展開をたどるのだろうか。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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