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是枝裕和監督らが声明を発表、『週刊文春』告発で映画界に#MeTooの大きな波紋

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊文春』が3週にわたって告発(筆者撮影)

 性被害を受けたと女優が次々と告発を行う#Me Tooが映画界に起こり、深刻な問題になっている。発端は『週刊文春』の報道で、何と同誌は既に3週連続で被害女性の告発を掲載している(3月31日発売の号でも続報をやるようだ)。

 最初の記事自体はそれほど大きくないので、恐らく編集部も掲載後のここまでの展開は予想していなかったのだろう。驚くべきは最初の記事を見た別の被害女性から新たな告発が寄せられて第2弾、その後さらに新たな告発が寄せられ第3弾というふうに事態が展開していったことだ。

 その間、波紋は次々と広がっていった。この動きは今の時代を象徴する成り行きと言ってよいだろう。情報をもとに裏付け取材に走った『週刊文春』の力はもちろん大きいが、被害女性がこれだけ次々と名乗りをあげ、しかも実名で登場する女性もいるというこの現実だ。この何年かの女性の権利拡大を求める歴史的な動きが、ここまで事態を動かすという現実を明確に示したという点で大きな事件だと思う。

『週刊文春』が3週連続で告発

 最初は『週刊文春』3月17日号「女優4人が覚悟の告白『人気映画監督に性行為を強要された』」だった。告発されたのは映画監督の榊英雄氏。発売前日の3月9日に電子版で内容が公開されると、3月25日公開予定の新作映画『蜜月』がその日のうちに公開中止になった。

 記事の中で監督を告発したのは4人の女優だった。ホテルで性行為に応じたという女優は「監督の要求を断ればキャスティングから外されてしまうと思った。この世界ではこういうこともあるのかと、仕方なく要求に応じてしまいました」とコメントしていた。

 榊監督は1回1万円の代金をとって演技指導を行うワークショップを開いており、その受講者で被害にあったという女性も複数いた。

 記事に書かれているが、告発のきっかけになったのは、映画『蜜月』の脚本家・港岳彦氏が3月1日に製作会社や配給会社に送ったメールだった。いわば内部告発で、港氏は記事中で、被害者の話を聞いて気持ちが揺れたとコメントしている。

 告発された榊監督は、概ね事実は認めながらも、合意の上だった、あるいは前述した女性の場合は「彼女の方から私に近づいてきて関係をもちました」とコメントしていた。

他の女優からも次々と告発が

 事態が深刻化したのは、記事を見た他の女優からも『週刊文春』に次々と告発が寄せられたことだった。3月24日号では「『性加害』監督の性暴力を新たに4人が告発する」と題して別の被害も報じられた。前号の記事で「彼女の方から近づいてきた」とコメントされた女優は、実名と顔写真で登場し、反論した。

 驚くべきことに、同誌は3月31日号に第3弾を掲載。新たに2人の女優が被害を訴え出たと報じたのだった。文字通りの#Me Tooだ。

 そして同時にこの記事では、榊監督作品に7本も出演し、監督と親しかった俳優、木下ほうか氏についても、同様の性被害にあったという女優の告発を掲載していた。木下氏はドラマなどにも出演しているため、波紋はさらに拡大した。

 所属事務所「カクタス」は3月28日をもってマネジメント契約を解消したと発表。同日、木下氏本人もツイッターで謝罪コメントを公表した。

「週刊誌報道の内容について、一部事実と異なる点や10年程前のことで記憶にないこともございますが、概ね間違っておりません。ただ、現在週刊誌から質問されておりますが、女性から明確に拒否されているにも関わらず関係を持ったことや、薬物を用いて関係を持った記憶はございません。

 それを前提としたとしても、私の軽率な行動の結果、女性の方々が心に深い傷を負ったことに間違いはございませんので、深くお詫び申し上げます。(略)

 次に、私の軽率な行動の結果多大なご迷惑をおかけした多くの関係者の皆様に、深くお詫び申し上げます。 このようなことをした私が、今後、皆様の目に触れる芸能活動を続けることはできませんので、芸能活動については全て無期限に休止させていただきます」

 4月5日から放送が始まるNHKドラマ『正直不動産』にも木下氏は出演していたが、NHKは「木下ほうか氏が出演しない内容で放送する」とし、出演シーンをカット、再編集することを発表した。

是枝裕和監督らが声明を発表

 その間、3月18日には是枝裕和監督らが声明を発表した。名を連ねたのはほかに諏訪敦彦、岨手由貴子、西川美和、深田晃司、舩橋淳の各氏だった。

 この声明はこれまで映画界でこういう問題は指摘されてきたのに放置されてきたことを指摘し、重く受け止めるべきだと主張したもので、考えるべき事柄を幾つも提起している。

主要部分を引用するが、ネットで全文が読めるのでぜひ全文を読んでほしい。

《映画監督は個々の能力や性格に関わらず、他者を演出するという性質上、そこには潜在的な暴力性を孕み、強い権力を背景にした加害を容易に可能にする立場にあることを強く自覚しなくてはなりません。だからこそ、映画監督はその暴力性を常に意識し、俳優やスタッフに対し最大限の配慮をし、抑制しなくてはならず、その地位を濫用し、他者を不当にコントロールすべきではありません。ましてや性加害は断じてあってはならないことです。》

《以上のことを、まずは私たち映画監督の立場から書きましたが、プロデューサーや助手を率いるスタッフも、十分に気をつけなくてならないことです。パワハラやセクハラはジェンダーを問わず誰もが加害者、被害者になりえますが、映画業界がいまだに旧態依然とした男性社会であること、性差別が根強いことを考えれば、キャリアのある男性から率先して自身の特権性を省み、慎重に振る舞わなくてはなりません。》

《映画の現場や映画館の運営における加害行為は、最近になって突然増えたわけではありません。残念ながらはるか以前から繰り返されてきました。それがここ数年、勇気を持って声を上げた人たちによって、ようやく表に出るようになったに過ぎません。被害を受けた多くの方がこの業界に失望し、去っていった事実を、私たちは重く受け止めるべきではないでしょうか。》

 俳優のキャスティングに関わる権限を監督やプロデューサーが持っている業界構造で、地位を利用したこういう事柄が起こる温床は確かにあり、これまでも指摘されながら、今回のような告発が広がるまで放置されてきたといえよう。

 波紋は映画界全体に広がりつつある。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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