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読売新聞報道で一気に変わった眞子さま結婚騒動の今後の展開はどうなる?

篠田博之月刊『創』編集長
読売新聞9月1日朝刊の一面トップ記事(筆者撮影)

9月1日付読売新聞の大きな報道

 菅首相の突然の退陣表明には驚いたが、眞子さま結婚騒動の急展開にも驚いた。4年近く続いた結婚騒動は新たな局面を迎えたと言ってよい。

 でも多くの人が勘違いしているかもしれないが、眞子さま年内結婚というのは正式発表があったわけではない。4年前の婚約内定報道もNHKのスクープで、正式発表前に過熱してしまったのだが、今回は読売新聞の報道がきっかけだった。しかも、前のNHKスクープと違って、9月1日朝刊の読売新聞1面トップ「眞子さま年内結婚」報道は、内容的には新しい話はほとんどない。これまで週刊誌が約1カ月近く報じてきたことを追認したものだ。

 小室圭さんのニューヨークでの就職の目途がたったことで、眞子さまが皇籍離脱して渡米して結婚し、現地で生活するという、もう半年ほど前から検討されていたプランが具体的に動き出した。眞子さまが30歳になるなど、節目ともいえるこの秋、思い切って実行に踏み切ることになった。

 たぶん皇室関係者の間では、前例のないことだけに、具体的にどういう手続きを経るのかなど検討している最中だったと思う。秋篠宮さまの11月の誕生日までには見通しをつけ、宮内庁から正式に発表するという計画だったと思う。

 新聞・テレビなどの大手メディア各社も、発表が近いことはわかっていたから、報道の準備態勢に入っていたはずだ。

正式発表はないのに既定の事実に

 そこへ突然、9月1日朝刊の1面トップで「眞子さま年内結婚」とぶちあげたのが読売新聞だった。全国紙が一面トップで、しかも「年内結婚へ」ではなく「年内結婚」と断定で見出しを打ったことの意味は大きく、他紙も一斉に後追いし、夕刊からそのニュースを報じていった。

 読売新聞は街の声などを拾った続報を準備し(2日朝刊用紙面に社会面トップで掲載)、1日朝刊を追うように同日からネットニュースで配信した。他社も後追いするにあたっては宮内庁のしかるべき筋に裏を取ったのだろう、結果的に新聞・テレビが一斉に年内結婚を報じ、正式発表があったかのような状況が作られてしまった。

 たとえるならば、正式発表というGOサインを待って各社がスタート地点で待機していたのに、一人の選手がいきなり走り出したことで他の選手も一斉に後を追い、正式サインのないままレースが始まってしまったという感じだ。

朝日新聞は1日夕刊で一面トップ、毎日新聞は2日朝刊でトップに(筆者撮影)
朝日新聞は1日夕刊で一面トップ、毎日新聞は2日朝刊でトップに(筆者撮影)

  他紙が具体的にどうしたかといえば、朝日新聞は9月1日夕刊一面トップで「眞子さま・小室さん結婚へ」と報道。見出しが長くなってしまうこともいとわず、眞子さまだけでなく小室さんの名前も並べたのは、それなりの判断があってのことだろう。毎日新聞は夕刊では一面左に見出しを立て、2日の朝刊で一面トップの報道になった。読売新聞の報道を受けてどういう紙面を作るか、各紙ともいろいろ考えたに違いない。

 読売新聞がなぜ9月1日朝刊というタイミングで報道に踏み切ったかはいろいろ憶測を呼んでいるが、恐らく9月に入ってすぐ報道することで準備を進め、確証のある確認を得られたということで踏み切ったのだろう。扱いが大きい割には記事内容に新事実が見当たらないので、あれ?という感じは残るが、その後の展開を見ると、やはり全国紙が一面トップで報じるという威力の大きさを感じざるをえない。

これで局面は大きく変わったか

 これで局面が大きく変わったというのは、それまでは眞子さま結婚報道は週刊誌の独壇場で、しかも異様なまでのバッシング一色報道だったからだ。新聞・テレビの報道も、さすがにお祝い一色でなく、成り行きを危惧する街の声を入れたりもしているが、少なくとも支持と批判の両論を併記するだけでも、反対一色の週刊誌報道とは印象が違う。

夕刊紙やスポーツ紙も大々的に報道(筆者撮影)
夕刊紙やスポーツ紙も大々的に報道(筆者撮影)

 その9月1日直前まで週刊誌のバッシング報道は過熱しており、例えば『週刊女性』9月14日号など「小室圭さん母・佳代さん、『日本脱出』目前まで積み重ねてきた嘘と見栄」という激しい見出しを掲げていた。一連の女性週刊誌などのバッシング報道とは一線を画しながらも、佳代さんと勤務先のギクシャクをこの間報じてきた『週刊新潮』は9月9日号でも「小室佳代さん今度は『傷病手当』不正受給」という記事を掲載している。

 興味深いのは、次週以降、週刊誌の報道がどうなるかだ。相変わらずのバッシング報道を続けるのかどうか、編集部は考えているところだろう。眞子さま結婚については多くの市民が反対しているというのが、これまでの週刊誌のバッシング報道のよりどころだったが、結婚が具体的に動き出すとなると様相は少し違ってくる可能性が高い。いつまでもバッシング一色の報道を続けることのプラスとマイナスを週刊誌も考えるタイミングに来ていると思う。

NYに渡ることの意味は結局…

 眞子さま結婚騒動については、この4年弱、相当な本数の記事を書いてきた。眞子さまが結局、日本でのバッシングを逃れてニューヨークで暮らす選択をせざるをえなくなったことをどう見るかは、この段階でもっと議論が必要だろう。事実上の「駆け落ち」だと非難する向きもあるが、本当はもちろん当事者も関係者も、日本で2人が祝福されて結婚することを望んでいたと思う。

 昨年来、眞子さまの決意が公表されたり、この春に小室圭さんが長い文書を発表するなど、いくつかの試みがなされたのは、何とかバッシングの空気を緩和できないかと考えての試みだったと思う。しかし、そのやり方があまりうまくなかったことも手伝って、どう転んでもバッシングが続く、しかもそれはエスカレートの一途をたどっていることで、もう打つ手はないと当事者たちも判断したのだろう。

 この間のバッシングの空気については、下記の記事に書いたので参照いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20210811-00252595

眞子さま結婚問題にこの秋決着か。これで良いのかと思わざるを得ない結末は…

 週刊誌の一連のバッシング報道について、背景に何があって、どういう構造で一色報道になってしまうのかについては、いろいろな媒体で記事を書いてきた。拙著『皇室タブー』でも大きな分量をさいて、かつてのいわゆる「美智子皇后バッシング」、「雅子妃バッシング」と今回の眞子さま結婚バッシングは全く同じ流れで、象徴天皇制の矛盾が噴き出たものと分析している。

象徴天皇制の矛盾が噴き出た構造的問題

 簡単に言うならば、皇室内部に外部から民間人が入ってくることへのアレルギーがあり、特に小室母子については家柄を問題にする拒否感があった。その人たちは、小室圭さんが辞退することで今回の結婚がつぶれることへの想いがあって、週刊誌にも積極的に情報を流していった。週刊誌はそれに依拠することで、報道のスタンスそのものが結婚反対派へ大きく傾いていった。これは絶えず皇室内伝統派に依拠して皇室報道を行ってきた週刊誌の限界だが、新聞・テレビが宮内庁発表しか報じないという菊のタブーのなかで、皇室報道のゆがみが一気に全面開花したのが、眞子さま結婚騒動だった。

 そうした結果として、眞子さまは追われるように皇籍離脱し、日本を離れるわけだが、これは憲法下にありながら憲法を超えた存在という象徴天皇制の矛盾の現れといえる。こういう決着のつけ方をしていると、今後ますます皇族の結婚は難しくなるし、皇室の危機が深まるのは明らかだと思えるのだが、そうした冷静な議論も見られないほど、皇室をめぐっては当たり前のことが当たり前でなくなっている。

 市民社会であれば、いまどき当事者同士が結婚したいと望んでいるものを、周囲が反対してやめさせるといったことが時代遅れであることは明らかだろう。でも、皇室の場合は別で、個人の意志よりも尊重すべきものがあるという意見が通ってしまう。それは日本社会の皇室への独特の感情の反映であり、象徴天皇制の矛盾ともいえるだろう。

 今回の騒動で、眞子さまが、バッシングに抗して自分の意志を貫こうとしたことや、妹の佳子さまがそれを積極的に応援したりしたことは、皇室の伝統と個人の意志との折り合いをどうつけるべきか、皇室内部にも葛藤があることの現れだろう。

 どういう形で決着がつくにせよ、もう少しそういう本質的な議論にメディアが踏み込んでほしいと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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