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元ヒスブル・ナオキ、性犯罪再犯事件公判での検察官の激しい追及と応酬

篠田博之月刊『創』編集長
裁判が行われたさいたま地裁(筆者撮影)

 2021年5月20日午後、さいたま地方裁判所で、昨年9月に逮捕され、強制わいせつ未遂で起訴された二階堂直樹被告の第2回公判が開かれた。私はナオキと呼んでいるが、かつてヒステリックブルーという人気バンドで活躍し、紅白歌合戦にも出場した元ミュージシャンだ。かつて2004年に性犯罪で逮捕され12年間服役し、4年半前に出所したのだが、昨年、再び性犯罪で逮捕された。

 刑務所でR3という治療プログラムを受講し、更生を誓って月刊『創』(つくる)に決意を書いた手記を発表して出所した彼が、なぜ再犯に走ってしまったのか。いろいろな波紋を広げたこの裁判を、初公判に続いて傍聴した。前回の初公判の報告は下記をご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20210330-00230085/

性犯罪の再犯事件、元ヒスブル・ナオキの初公判を傍聴 彼は何を認め何を否認したのか

予定されていた被害女性の出廷は…

 私は彼の出所後も連絡を取り合ってきたのだが、再び性犯罪で逮捕されたのには驚いた。前の事件は、懲役12年という重い刑罰を受けたことでわかるように、バンドの活動が行き詰ったことが引き金だったとはいえ(その後バンドは解散)、強姦を含む連続わいせつ事件という本当に悲惨なものだった。なぜそんな性犯罪に走ってしまったのかもそうだが、刑に服する過程で彼がどんなふうにそれを乗り越えたのか、そして、にもかかわらずなぜ再度犯罪に走ってしまったのか。今回の逮捕をめぐる捜査や裁判でも当然、前の事件との関連は問題にされる。性犯罪を考えるうえでは関心を持たざるをえない裁判だ。

 開廷は14時だったが、私は1時間前に法廷に着いた。後述する樹月カインさん(仮名)と待ち合わせたこともあったが、傍聴は先着順で、その日は傍聴希望者が多いことが予想されたからだ。というのもその第2回公判には、被害にあった女性が(ついたてで仕切られるとはいえ)、直接出廷して思いを証言することになっていたからだ。性犯罪の裁判でそんなふうに被害女性が自ら法廷に立って加害者を前に気持ちを語るというのは、貴重な機会と思われた。

 前回の公判で検察側は、その女性が一度は示談に応じたのだが、それを翻してやはり重い処罰を求めるという主張に転じたと語っていた。女性がどう考えてそうしたのかぜひ直接本人の証言をぜひ直接聞きたいと思った。この1~2年のMeToo運動で、被害にあった女性が次々と名乗りをあげて性犯罪を告発するという動きの中で、その女性が法廷で何を語るのか。実際、その日の傍聴希望者は前回より増えて、コロナ対策で20人強に限られた傍聴席に入れない人もいたようだ。

 もうひとつ、その日は、過去に性犯罪を犯して服役し、出所後はカウンセリングを受けたり性犯罪を防ぐための活動をしようと考えている、これも『創』に何度か手記を書いている樹月(仮名)さんが、わざわざ関西から上京して、一緒に傍聴することになっていた。樹月さんも服役中にR3を受講し、出所後、ナオキとも面識がある。それゆえにぜひ公判を傍聴したいと新幹線で駆け付けたのだった。樹月さんのリハビリ日記は、このヤフーニュースにも何度かアップしている。例えば下記をご覧いただきたい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190131-00113156/

性犯罪で13年間服役し出所した男性の更生レポートその1

 さてそうやって傍聴に臨んだ公判だが、残念ながら被害女性はその日、法廷に現れなかった。検察側は「体調不良」と述べたが、被害女性の思いも含めて、実際にはそう単純な事情でないだろうことは想像がつく。検察官としては引き続き法廷証言を実施したいと言っていたが、今後の予定は未定となっていたから、もしかすると出廷はないのかもしれない。貴重な話だしぜひ直接聞きたいと思っていたから、この結果は残念だ。

「強制わいせつ目的」をめぐる応酬

 さて被害女性の証言を聞く機会が失われたことは非常に残念だったが、この第2回公判の経緯を報告しておこう。私は前回に続いて最前列で傍聴した。

 その日は被告人質問が行われ、最初は弁護人から質問が行われ、続いて検察官の反対尋問、それに裁判長も質問、そしてさらに弁護人・検察官双方がもう一度質問するという流れだった。

 前回報告したように、ナオキは事件当日に行ったことは認めているのだが、それを「強制わいせつ目的で」とされたことに異論を唱え、公訴事実の一部を否認した。犯した犯罪はいわゆる痴漢行為で、強姦などの強制的なわいせつ行為を考えたわけではない、と反論した。

 その日の公判では、まさにその争点をめぐって激しい応酬がなされたのだった。

 事件を起こした時の被告人は何を思い、どういう判断をしていたのか。事実経過をめぐる法廷での最初のやりとりはこうだった。

弁護人 7月6日夜は一人で飲食店へ行ったわけですね。そこでお酒をどのくらい飲んだ?

被告人 ジョッキでサワーを6杯です。

弁護人 その後、午前1時半頃、どうしました。

被告人 コンビニで缶チューハイを買って飲みました。

弁護人 酔っているという意識はありました?

被告人 足元がふらつく状態でした。

弁護人 その後の行為はお酒の影響があった?

被告人 正常な判断力が欠けていました。

 この後、女性に近づいて行った行為をひとつひとつ尋ねていくのだが、前回の公判でも語られたように、5~6分、通りかかった女性を尾行し、背後から片手で口を押えて、もう一方の手で女性の胸をさわろうとしたのだった。ナオキはそれを「支配欲の充足」が目的だったと説明した。一瞬さわって逃げようと思ってやったもので、それ以上は考えていなかったと語った。

弁護人 連れ込んでわいせつするという意図は?

被告人 全くありませんでした。

検察官は「前刑と同じでは」と詰め寄った

 続いて検察官の反対尋問が行われた。尾行しただけでなく胸をさわるという行為に踏み切ったのはなぜなのかといった質問を重ねていった。そこでもナオキは「自分の存在を知らしめ、支配欲を満たすためでした」などと答えた。

 それに対して検察官は、背後から近づいて口をふさぐという方法は前刑で犯したやり方と同じであり、服役中に罪と向き合ったと話していたが理解したということがないのではないか、とつめよった。

検察官 前の事件でも大声をあげられて逃げたことがありました。今回も前回と同じに思えるのですが、強制わいせつ未遂。今回も同じではないですか? 違いはありますか?

被告人 前回は刃物に模した車のキーをつきつけて相手を脅迫していた点や、最初から触る目的で相手が抵抗しても強引に触ったりといった点で今回とは違っていました。

検察官 今回、調書の中であなたは「一瞬さわるだけなら大丈夫と思った」と言っていますが、大事にならないとはどういうことですか? 一瞬さわられるだけでも被害者はどういう状態になるか想像できないのですか?

被告人 酩酊状態だったのでそこまで想像できませんでした。

検察官 いや判断できてるじゃないですか。

被告人 認知能力の欠如もありました。

検察官 口をふさいだ後、被害者がしゃがんだという認識なのですか?

被告人 真下に下がったという感じでした。

検察官 地面に転倒してケガを負ったのですよ。自分でしゃがんだりはしていない。

「12年も服役してわからないのか」と女性検察官

 次に女性検察官に代わって反対尋問が続けられた。

検察官 支配欲を満たすために尾行したと言っていますが、そうであれば尾行だけでなく触るという行為には出ないはずでしょう。

 その日の何日か前にも同じようなことがありましたね。尾行だけの時と触りたいと思う時とはどんな違いがあるのですか?

被告人 基本的には尾行だけで満足しているけれど、酩酊していて判断ができなかったということだと思います。

検察官 前刑の時も尾行して…と同じ状態ですよね。その時もお酒は飲んでいたことも同じじゃないですか。12年も服役していたのにわからないということですか。

被告人 認知の歪みがあって、尾行していても再犯には至らないだろう、尾行くらいなら犯罪ではないだろうと考えていました。

検察官 触ろうとしたことについても、これくらいならと考えたのですか。自分のやっていることを認識していなかった?

被告人 認識はしていました。

検察官 していたのに欲望を抑えられなかった?

被告人 はい。

検察官 「強制わいせつを目的に」という公訴事実の「意味が分からない」と言っていましたが、今回やったことは違うのですか?

 そのやりとりに弁護人が割って入り、続いて裁判長も質問した後、再び女性検察官。

検察官 あなたは一瞬さわっただけと言っていますが、被害者にすればどこかへ連れ込まれるのではと恐怖を感じるというのがわかりますか?

被告人 わかります。

予兆とカウンセリング

 被告人は、あくまでも尾行がメインで、一瞬さわって逃げようと思ったのは最後の瞬間だと説明したが、検察官は、前の事件の時も背後から近づいたことや大声を出されて逃げたことがあった、今回も同じではないかと詰め寄った。

 初公判で弁護側は、今回の事件はあくまでも痴漢行為であって、強制わいせつ目的ではない、と主張した。それに対して検察官が反撃したのが今回の公判だった。

 私は逮捕翌日にもナオキに接見したし、その後も話を聞いていたが、事件を起こした当日の前から何度か女性の後をつけたりしていたことは知らなかった。本人は「尾行した時点で再犯と重く受け止めるべきだったのに、事件当時は、これぐらいならと考えてしまっていた」とその日も証言していたが、そういう行動が何度か続いたというのは考えるべきことであったことは確かだろう。

 以前接見した時に「予兆があったのでカウンセリングを受けようかとも思っていた」と語っていたが、今回の公判でそういうことだったのかと思った。

 今回の検察側との応酬を含めて、ナオキの行動をどう考えるべきかは、性犯罪の再犯を考えるうえで大事なことだ。今後、情状証人の出廷を含めて裁判はまだ続けられる。

樹月さんの感想と取り組み

 帰り際、樹月さんと話をした。樹月さんは「R3で学ぶリスクマネジメントの観点から言うと、深夜に外出すること自体が避けるべき行動だし、まして酩酊するほど飲酒するなどもってのほかだ」と語っていた。「R3は、刑務所で学習して完結するものではなく、社会生活の中で実践し、知識を血肉化させるところまでもっていかなければ、実際に再犯を防ぐことはできない」とも話す。

 樹月さんも性犯罪で長期の服役を経て出所した人だが、現在も定期的にカウンセリングを受けている。そして、性犯罪の再発防止のために何か活動ができないかと、いろいろ考えているところだった。

 樹月さんは一方で、ナオキの証言を傍聴していて、「かつて裁判に臨んだ時の過去の自分を見せつけられているような感じがした」とも語っていた。「自分がそうだっただけに、どうして彼がああいう話し方、ものの考え方をしてしまうのかもよく理解できる」とも言う。

 R3は法務省の認識では治療効果はあるというプログラムだが、それが出所後どんなふうに実践されたかといった体系的な調査ができているわけではないようだ。性犯罪で出所した人たちは、実際には就職はもちろん、住む場所の確保さえ困難な状況に置かれることが多く、カウンセリングを受けながら更生への試みを続けるという実践を行っている人はそう多くはないのが実情のようだ。

 性犯罪の再発防止のための治療プログラムの導入は、2004年の奈良女児殺害事件を機に行われるようになったもので、死刑執行された小林薫元死刑囚は裁判を受けている間に、月刊『創』に何度も手記を寄せていた。そういう経緯もあって私としては、その後の性犯罪対策の様々な取り組みにも関心を持たざるを得ない。

 今回のナオキの裁判は、まさに性犯罪の再犯のありようが争点になったもので、今後もフォローしていきたいと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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