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寝屋川事件・山田被告が書いてきたコロナに揺れる大阪拘置所の深刻事情

篠田博之月刊『創』編集長
山田浩二被告の5月下旬の手紙(筆者撮影)

 日本列島をコロナ禍が襲っている中で、拘置所や刑務所などの刑事施設も深刻な状況を迎えている。東京拘置所も大阪拘置所も感染者が出て緊張に包まれた。そうした刑事施設の現状については、獄中者が次々と手紙で伝えてきている。

 2020年6月10日発売の月刊『創』(つくる)7月号に掲載した寝屋川男女中学生殺害事件の山田浩二被告の獄中手記もそのひとつだ。

 山田被告は、2019年5月と2020年3月と、死刑判決の控訴を二度も取り下げるという異例の出来事で注目されている。二度目の取り下げについては以前、下記の記事で詳しく書いた。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20200519-00179275/

「やっぱ無理す」死刑台へのボタンを二度押した寝屋川事件・山田被告「控訴取り下げ」の真相

 死刑判決への控訴を取り下げるというのは、死刑台へのボタンを自ら押すことを意味する重たい行動なのだが、それを二度もやったというのは前代未聞かもしれない。しかも二度ともその取り下げを無効とする申し出を裁判所に行っているという、この経緯も極めて異例のことだ。

 今回の二度目の取り下げについては、大阪高裁はもう2カ月もたっているのに受理するのかどうかも含めて判断を示していない。新型コロナ危機で、司法現場が混乱しているためだろう。その後の状況を山田被告がどう受け止めているのか、今回の獄中手記にはその心情がよく描かれている。

 手記自体はヤフーニュース雑誌に公開したので興味ある方は読んでいただきたいが、ここではその主要部分を紹介しておこう。手記自体は、実際にはもっと長かったのだが、掲載に当たって短くした。ヤフーニュース雑誌は下記からアクセスできる。

https://news.yahoo.co.jp/articles/f461cd946844a7f0999576e075a4c70ca5a64e14

〔獄中手記〕コロナに揺れる大阪拘置所で僕の前の2つの壁 山田浩二

 以下、手記の中の大阪拘置所のコロナ事情を書いた部分だ。

〔手記〕緊急告知放送で感染の事実が伝えられた

 2020年4月5日の日曜日の夕方に突然所内緊急告知放送が流れた。内容は大阪拘置所の職員がPCR検査で陽性反応が確認されたという事だった。刑事施設関係者の感染確認は「初」らしい。

 その翌日の4月6日月曜日から早速所内の処遇変更が始まった。屋外運動や入浴、洗濯物の回収、ゴミの回収の中止、飲食物の購入申込み受付や差し入れの中止、一般面会人では新型コロナ感染の疑いのある者は中止、平日だけど免業日扱いとなり一日中布団を使用しての横臥の許可等々…だ。

 4月7日火曜日には入浴やゴミ回収、洗濯物の回収は再開となったものの洗濯物については洗濯工場が閉鎖(?)となっているため乾燥機が使用出来ず、洗濯物は居室棟各階フロア内に設置されている洗濯室からの洗濯と脱水の実施のみで濡れたままの返却…。あと午前と午後のコーヒー等の配湯の中止となった。そしてこの日の夕方には緊急事態宣言が発令してしまった。対象区域の中には大阪も該当区域に入っていた。そのためだろうか、また所内勤務の職員の感染確認、クラスターによる感染拡大防止等から4月8日水曜日より大阪拘置所では一般面会が当分の間中止になるという発表があった。再開時期は未定とのこと。

 そして窓口宅下げや差入れの受付も中止、一日中の布団を使用しての横臥許可、午前午後のほぼ一日中FM802のラジオ番組の放送が流れっぱなし…という処遇変更になった。平日でも免業日のような毎日がずっと続き、カレンダーを見ても今日が何月何日の何曜日なのか判らなくなっている日々の連続だ。僕みたいに単独室で生活を送り、音楽が好きなので毎日FMでの音楽番組が流れるのは特に苦痛には感じない。

 面会や購入申込みが中止になっても、面会に来るような人もなく、購入申込みをする程の領置金を所持していない僕にとっては突然の処遇変更についてもストレスを感じることもなく、好きな音楽が毎日聴けることでストレス解消にもなったけど、共同室ではどうやらそれどころではなかったみたいだ。

一般面会は中止、公判出廷なども延期に 

 一般面会の中止だけではなく公判出廷や資格異動も延期。外出自粛期間でもあるので余程の理由がない限り、弁護士だって面会には来れないだろう。唯一居室から出入りするのは入浴時くらい。あと、濃厚接触での転室があるだけで、狭い共同室の居室で男が7~8人もずっと24時間閉じ込められていれば、そりゃあいくら仲の良い者同士でもささいな事がきっかけでトラブルに発展するだろうし、大半は好き好んで一緒の居室になった訳ではないから気の合わない者がいてもおかしくない。

 数週間前だったか僕が生活している単独室の近くに共同室から調査で居室を移されて来た人がいた。何故調査になったのか知らないが、その人の着ていたシャツの首元のあたりが気持ち良いくらいに裂けて破れていたのが確認できたのでおそらく居室内での喧嘩、それもフルボッコ状態でやられたんだなと思った。

 まあ、喧嘩まで発展していなくても多少の口論等は、この時期、共同室ならば数多くあったんだろうなあと思う。僕だって共同室で生活をしていればきっと何かのトラブルを起こしたりあるいは巻き込まれたりしていたと思う。

 4月16日には全国に緊急事態宣言が発令されたが、おそらくこの時点で全国の刑事施設も一般面会が中止、受刑者だと配食関連以外の出役も中止になっているだろうと思う。大阪拘置所だけの問題ではないから仕方ない。受刑者なんて出役出来ないからといって報奨金も入ってこないし、たまったもんじゃないだろうと思う。僕は前刑時徳島刑務所で服役したけど徳島は大半が無期刑等の長期の受刑者が多く、人間関係も難しい所だし、2トップ悪牢番に足を引っ張られて仮釈を飛ばされた模範囚の無期受刑者もたくさん見てきたから、そのような人権侵害が今も行われていないか心配だ。

職員の8人が新型コロナ感染という情報も

 4月末から少しずつ公判出廷や資格異動、移送等が再開をし始めたみたいだが一般面会や所内窓口での宅下げ受付等の再開は緊急事態宣言後もしばらく続きそうな気がする(注:5月21日に大阪は解除、22日から一般面会が再開した)。

 風の便りでは所内職員の8人が新型コロナ感染してるらしいし、僕が生活している単独室の居室棟でも濃厚接触者の転室等がほぼ毎日のようにあるみたい。それに一般面会が再開すれば、当然面会希望者も多数来られるだろうし、めっちゃ「3つの密」に該当する面会待合室からクラスター感染が発生するリスクは極めて高い。所内の面会待合室は僕も知っているけど、そんなに広くない。

 緊急事態宣言解除になってもおそらく第2波はやって来ると思うし、今だに世間ではたくさんのイベントとかスポーツ行事等が延期や中止となっており、まだまだ平穏な日常に戻るのは先になると僕は思っている。

 個人的には春と夏の甲子園の高校野球の中止が残念だなあ…って思っている。

 来年2021年の今頃はどうなっているのだろうか?「そ~いえば1年前の今頃はステイホームとかテレワークとかで色々大変やったなぁ…」と笑って話せる日常に戻っているのか、それとも第2波、第3波が襲って来て今以上に深刻な社会問題になっているのか。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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