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検察庁法改正に抗議するツイッターの動きをどう見るかは大事な問題だ

篠田博之月刊『創』編集長
大きな注目を浴びる検察庁(筆者撮影)

 検察庁法改正問題が重大な局面を迎えている。当初、自民党は5月15日までに衆院通過と言っていたようだが、それができなかったのは大きく広がった抗議の声があったからだろう。そして今回の大きな特徴は、コロナ問題によって国会前での大規模な抗議行動が難しいため、ツイッターなどが抗議の意思表明に使われたことだ。8日頃から「#検察庁法改正案に抗議します」の投稿が爆発的に広がり、11日に470万を超えたこと、芸能人を含む有名人が次々と声をあげたことが新聞やテレビで報じられて関心が一気に高まった。

新聞各紙も大きく報道(筆者撮影)
新聞各紙も大きく報道(筆者撮影)

ツイッターでの抗議拡大と芸能人などの発言に注目が

 そのことを大きな社会的うねりとして報じたのが朝日、東京、毎日新聞各紙だ。朝日新聞は11日付で「『どさくさ』審議 反発拡散 2日でツイート470万件」という記事を掲げたあと、12日付朝刊1面に「検察庁法改正案 抗議ツイート急拡大」と見出しを打ったほか、中面でも「『#抗議します』芸能人の次々ツイート」と大きな紙面をさいて報じている。

連日大きな紙面をさいた朝日新聞(筆者撮影)
連日大きな紙面をさいた朝日新聞(筆者撮影)

 東京新聞も11日付で1面に「#検察庁法改正案に抗議します 投稿470万件」と報じたほか、特報面でも2面ぶち抜きで「ツイッターデモ 政治・社会動かす?」と大きく報じている。

東京新聞も特報面などで報道(筆者撮影)
東京新聞も特報面などで報道(筆者撮影)

 特に日本の芸能界では政治問題で発言するのはタブーとされてきたなかで芸能人が声をあげたことの影響は大きく、12日の日本テレビやフジテレビの朝の情報番組もその話題を冒頭で取り上げたほどだった。

検察OBの意見書提出も大きな影響を及ぼした

 さらにその後大きなニュースになったのは15日に元検事総長ら検察OBが改正に反対する意見書を提出したことだった。これは大きなニュースとなったのだが、意見書の中身がなかなか感動的だ。一部引用しよう。

《黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きであり、ロッキード世代として看過し得ないものである。関係者がこの検察庁法改正の問題を賢察され、内閣が潔くこの改正法案中、検察幹部の定年延長を認める規定は撤回することを期待し、あくまで維持するというのであれば、与党野党の境界を超えて多くの国会議員と法曹人、そして心ある国民すべてがこの検察庁法改正案に断固反対の声を上げてこれを阻止する行動に出ることを期待してやまない。》

 この問題について連投してきた小泉今日子さんがこの意見書について「泣きました。そして背筋が伸びました。こういう大人にわたしはなりたい」とツイッターに投稿。それがまた大きな話題になった。

小泉今日子さんのツイッター(筆者撮影)
小泉今日子さんのツイッター(筆者撮影)

 一方で小泉さん始め芸能人のそうした抗議の声に対しては嫌がらせも激しくなっているようだ。当初、抗議の声をあげ、新聞やテレビで報じられたきゃりーぱみゅぱみゅさんは、ファンの間で対立が起きていることを理由に当初の投稿を削除したという。

日本ペンクラブもツイッターで抗議の意思表示

 ちなみに私の所属する日本ペンクラブでも、吉岡忍会長がツイッターにコメントを投稿し、それに他のメンバーがコメントをつけてリツイートするという動きを行っている。15日に投稿された吉岡会長のツイートはこうだ。

《忖度せよと政権が言い、忖度しましたと官僚が応え、公文書書き換えも、名簿廃棄も起きたのではなかったか。検察庁法改正は、政権にいちばん煙たい検察官に忖度せよと迫るための道具。こんなことでは日本が壊れる。私たちは反対の輪に加わる。日本ペンクラブ会長 吉岡忍 #検察庁法改正案に抗議します》

https://twitter.com/japanpen

 

日本ペンクラブのツイッター(筆者撮影)
日本ペンクラブのツイッター(筆者撮影)

 ついでながら私の編集する月刊『創』(つくる)は発売中の5・6月号に「安倍政権が検察人事に介入した『黒川問題』の舞台裏」という伊藤博敏さんの署名記事を掲載しているが、それをヤフーニュース雑誌に公開した。伊藤さんはこれまでも検察問題に取り組んできたジャーナリストだ。

https://news.yahoo.co.jp/articles/10a330f7f5e2c9aee798498e2aa9c6caaf38191a?page=1

ツイッター抗議の拡大をどう評価するか新聞による違いが

 さてこのツイッターの動きをどう評価するかという問題をめぐっては、朝日や東京、毎日のようにそれを後押しする論調のメディアに対して、異論を唱える動きもある。

 例えば5月14日付の産経新聞は「反対ツイート契機 野党勢い」と、ツイッターでの抗議が野党に勢いを与えていると報じた同じ面に「朝日 政権批判にネット利用」という阿比留瑠比編集委員の署名記事を掲げている。朝日新聞はネットの動きを利用して安倍政権批判をやっているという「朝日批判」だ。

5月14日付産経新聞の紙面(筆者撮影)
5月14日付産経新聞の紙面(筆者撮影)

 読売新聞はどうかといえば、16日付紙面に「ツイッターに抗議投稿」というあまり大きくない記事を掲げ、「転載で増加」という副題をつけている。前述した産経もそうだが、約500万件の抗議ツイッターにはリツイート(転載)も含まれるとして、内訳を分析したものを紹介している。

5月16日付読売新聞(筆者撮影)
5月16日付読売新聞(筆者撮影)

 読売新聞が紹介した鳥海不二夫・東大准教授による分析では、5月8~11日の約473万件の投稿のうち自分で投稿したアカウント数は約32万人、投稿数は約56万件。リツイートは約417万件になるが、重複を除いたアカウント数は約59万人だったという。そして鳥海准教授のこういうコメントが紹介されている。

《鳥海准教授は「一部の利用者が転載を繰り返したことで投稿数が膨らんだ」とみる一方、「約59万人のアカウント数は非常に多く、法案への反対でこれほど盛り上がるのは異例だ」と話す》

コロナ禍の中で抗議の意思表示に新しい形

 2015年の安保法制国会前抗議行動の時は、国会前を埋め尽くす抗議する人たちの写真を新聞が掲載して、多いか少ないか、どう評価するかはわかりやすかったのだが、今回のツイッターの場合は、多少分析が必要だ。しかし、読売新聞の記事でも、異例の大きな動きであることは認めている。

 コロナ禍はタレントやスポーツ選手などが自分でSNSを使って発信することを日常の光景にしたし、自宅待機が長引く過程でウェブメディアが改めて見直された。今回のツイッターでの抗議行動はそうした流れを受けたものであることは確かだろう。だからもしかしたら、市民が抗議の意思表示をする新たな方法を獲得したと言えるのかもしれない。

 

 私は共謀罪反対などの抗議が広がる時期には、なるべく国会での集会などに足を運ぶようにしてきた。現場での空気がどういうものか肌で感じるというのは割と大事なことで、そこでの空気によって「民主主義」を実感する体験は何度もあった。院内集会でも人が集まる状況を見ることで抗議がどのくらい広がっているのか身体的に理解できた。

ZOOMを使った検察庁法改正反対集会(筆者撮影)
ZOOMを使った検察庁法改正反対集会(筆者撮影)

 そして今回、ツイッター抗議が広がる中で、例えば5月14日にZOOMを使った「検察庁法改正案に抗議する!リレートーク集会」が開かれ、私も視聴参加した。コロナ禍の中で最近はZOOMを使ったオンライン集会が増えているのだが、この集会は前川喜平さんや政治学者の白井聡さんや経済学者の浜矩子さん、元文部科学事務次の前川喜平さんらが画面上で次々と発言したもの。ウエビナー機能で視聴した市民は開始時間で300人を超え、15分経った時点で500人を超えて参加が締め切られた。やはりこの問題に対する関心が高いことが窺える。 

  

 国会での与野党攻防は週明けに持ち越されたわけだが、コロナ禍での抗議行動という新しい民意の示し方が今後どういう形になっていくのか興味深い。この法案をこの緊急事態に火事場泥棒的にごり押しして成立させてしまおうという安倍政権のやり方はこれまでにも増してひどいもので、抗議の声は日を追うごとに拡大していくだろう。

 15日の衆院内閣委員会での検察庁法改正案の審議はインターネット中継がアクセス集中で視聴しづらくなるほど関心を持たれた。検察人事という一見、市民にとってわかりにくいテーマが(それゆえ自民党も数を頼りに一気に成立させてしまおうと考えたのだろうが)、これだけの関心を持たれていることや、その民意がどういう形で発現していくのか、報道する新聞・テレビなどの既存メディアにとってもそれを見極めるのはすごく大事なことだと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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