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コロナ禍で就職戦線が大変なことになっている。就活生も採用側も緊急事態

篠田博之月刊『創』編集長
新聞等でも就活緊急事態についての報道が(撮影筆者)

 新型コロナの影響は社会全体に深刻な影響を及ぼしつつある。問題は、当初の予想を超えて事態が長期化しつつあることだ。いったいこの状態がいつまで、どこまで続くかわからないために、不安がじわじわと拡大しつつある。

 深刻な影響を受けているひとつは、就職戦線だ。3~4月という就活ピークにコロナ禍が完全にかぶさってしまった。

マスコミでも選考を延期する会社が続々

 私のところでは『マスコミ就職読本』(通称「マス読」)というマスコミ志望者向けのガイドブックを毎年、もう40年近く刊行している。インターネットが今ほど普及していない時代は、「マスコミ志望者のバイブル」として大半のマスコミ志望者に愛読されていた。

 そして、その読者向けのサポート業務としてマスコミの採用情報を週2回、「マス読メールマガジン」として無料配信してきた。情報配信と言うとマイナビ・リクナビが圧倒的に大きな存在だが、そのマスコミという専門ジャンルに特化したものと考えていただきたい。

 そこで配信される情報をこのところ見ていると、驚くほかない。「新規情報」の多くが、従来のような「募集情報」でなく、エントリーや試験そのものを「延期する」という情報なのだ。

 ちょっと例をあげてみよう。これはごく一部だ。

●新聞社

★河北新報 志望書と作文提出をさらに5月17日まで延長。4月予定の筆記試験を延期。

★日刊スポーツ新聞西日本 応募締切を4月27日まで延長。

★沖縄タイムス社 4月21・22日予定の採用試験の実施見送り。今後の採用活動については新型コロナウイルスの状況を踏まえ判断。

★北日本新聞 面談、1次試験をwebテストに変更。6月以降に本格的選考を再開。

●放送・番組製作会社

★山形放送 選考スケジュールを変更。詳細は後日告知。

★石川テレビ 新型コロナにより当面の採用活動を見合わせ。再開の目途が立てば告知。

★MBS企画 5月7日を予定していた応募書類締切を白紙に。後日詳細を告知。

★日テレアックスオン 応募書類締切を6月1日まで延期。

★東京ビデオセンター 5月25日に予定していた応募書類締切を延期。詳細は後日告知。

★日経映像 4月に予定していた採用試験を5月以降に延期。詳細は今後告知。

●出版社

★扶桑社 2021年新卒採用の選考をいったん停止。GW明けを目処に連絡。

★中央公論新 新型コロナの影響で応募締切を5月31日まで延長。状況によってはさらなる変更の可能性も。

★第一法規 エントリー受付を一時停止。再開はゴールデンウィーク明けを予定。

★ぎょうせい 4月中の選考を延期。詳細は今後新型コロナウイルスの状況を踏まえ告知。

★早川書房 予定していた筆記、面接試験を当面の間見送り。再開の目途が立ち次第告知。

★生活の友社 応募締切を5月22日郵送当日消印有効に変更。

もともとはオリンピックがあるので前倒ししていた

 採用する側にとっても、面接などは会社をあげて社員を動員することになるので、2020年は東京オリンピックまでに決着をつけようとしていた会社が多かった。マスコミにとっては、オリンピック報道も会社をあげての総力戦だから、6月までに採用活動を終えてしまおうと考えていたのだった。

 ところがコロナ騒動でオリンピックは延期。しかも3~4月がピークの説明会や選考が行えなくなってしまった。だから多くの会社が選考を延長することに決めたのだ。

 延期が難しいと考えて選考を継続した会社は、面接をオンラインに切り替えるなどしているが、これも大変なことだ。テレビ局は以前からエントリーシートを動画に切り替えるなどしていたから、面接のオンラインへの切り替えもイメージはできるものだったと思うが、一部のそういう会社以外は、オンライン面接と言っても急にそれに切り替えるのは容易ではないだろう。

試験内容も大幅に変更

 1次試験の筆記試験だけは予定通りに行っている会社も、準備していた一般常識試験などをやめてwebテストや論作文に変更したところが多い。試験内容も大幅変更なのだ。受験する側も、今年は例年と比べて大きく変更されたうえに、説明会なども中止になっているから、いったいどうやって企業研究をすればよいのか困惑している者が多い。さらに大学や大学図書館まで休校・休館になっているから、以前なら新聞各紙の読み比べといったことを大学や図書館でやっていたのができなくなってしまった。まさに緊急事態である。

 実は今続いている2021年度採用は、マスコミに関して言うと前半の動きがかなり早まった。TBSやテレビ朝日など早い会社は2019年11月から選考を行っていたし、日本テレビやフジテレビも早かった。新聞社も日本経済新聞社や読売新聞社など、かなり早い動きだった。それらの早期選考によって既に事実上の内定もかなり出ている。

 ところがそうした早期選考の動きが、この3月を機にコロナ禍で一転、採用を延期する逆の流れになった。早期選考組と今後日程が遅くなった人たちの間にかなりの空白期間ができてしまうわけで、それにも採用担当者は頭を痛めているだろう。

 

延期がそのまま「中止」になるのではと就活生の恐怖

 これからコロナ騒動がいつどうなるかわからない現状では、選考の延期といってもいつまで延期するのか予測が立てにくい。

 既にエントリーしていた学生のもとへ、いま、採用側から延期の通知が続々届いているようなのだが、問題は、いつまで延期するか明示せず、「状況を見て今後通知」などと書かれているケースも多いことだ。予想外にコロナ問題が延びていくと、結局、こういう企業は、来年度の採用そのものをやめてしまう怖れがある。

 例えば大手出版社の扶桑社は「2021年新卒採用の選考をいったん停止させていただきます。エントリーしていただいた方には選考再開の有無を含め、GW明けを目処にご連絡させていただきます」と告知を始めたのだが、GW明けにコロナ感染が終息していないと、結局採用取りやめになるのではと、エントリーした学生が不安にかられている。しかも、こういうケースは今後、どんどん増えていく可能性がある。

 そういう混乱状況の一方で、再来年度へ向けた大学3年生向けのインターンシップ募集が始まりつつある。朝日新聞社など、プレエントリーと呼ばれるマイページへの登録を開始した。コロナ禍がどうなるかわからないが、一応予定していたものは進めていこうということなのだろう。GW明けには他の大手マスコミでも2022年度へ向けたプレエントリーやインターンシップ情報を流し始めると思われる。

 いったい今後どうなるのか。採用担当者も志望学生たちも今、本当に大変な状況だ。

 新型コロナの影響がさらに長期化すれば、これは本当に深刻な事態に至るだろう。1日も早い収束を、今はただ祈るのみ。今年が就活期にあたった学生たちは、大きな不安を抱えつつある。

 なおマスコミ採用情報に関しては「マス読」こと「マスコミ就職読本」のWEB版にも詳細を公開している。

http://www.tsukuru.co.jp/masudoku/index.html

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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