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脅迫容疑で逮捕された三田佳子さんの次男・高橋祐也君が渋谷署の面会室で語ったこと

篠田博之月刊『創』編集長
勾留されている渋谷警察署(筆者撮影)

接見禁止解除後最初の接見 

 2019年10月21日、朝一番で高橋祐也君に接見してきた。彼の父親も一緒だ。

 ちなみに祐也君の10月17日の逮捕については、既にヤフーニュースに第一報を書いた。下記の記事なので参照してほしい。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20191017-00147274/

脅迫で逮捕された三田佳子さんの次男・高橋祐也君が直前に語っていた「今の生活ぶり」

 その後、祐也君は10月19日朝に送検された。フジテレビが送検時の映像をしっかり押さえ、ニュースとして流していた。そして休み明けの21日から接見禁止が解かれたというわけだ。

 まだ捜査中の事件で、接見にあたっては「事件の中身に関わることは一切話さないように」と立会いの警察官に釘を刺された。たぶんこの事件は近々決着するはずで、本当はその後で報告したほうがよいとは思うのだが、途中経過を書こうと思ったのは、この週末のテレビなどの報道を見たからだ。送検のニュースが大々的に報道されたし、私が毎週見ているフジテレビの「ワイドナショー」でもこの事件が大きく取り上げられた。

 世間を騒がせているし、祐也君の生き方を批判するのはやむをえないと思う。でも気になるのは、事実に基づかないであれこれ断罪するケースが多いことだ。例えば20日放送の「ワイドナショー」で芸能レポーターの駒井さんが、前回の事件の時も祐也君は三田さん夫妻に1日15万円もらい、家族カードを使って200万円の買い物をしていたと言っていたが、これ事実と違うと思う。家族カード云々は本人も含めて当事者が事実誤認だと言っているし、三田さん夫妻と祐也君は一緒に住んでないのに1日15万円ずつ渡すというのは、物理的にありえない。

 祐也君の事件をめぐってはいつも、三田さん夫妻が月に何十万円の小遣いを与えていたという言い方で親の責任が追及されてきた。親の責任を問うのは良いとしても、そこに出てくる金額がほとんど事実と違っていて、しかも週刊誌とワイドショーでその怪情報をキャッチボールしながら膨らませていくというプロセスにいつも疑問を感じてきた。何回も言われるため、根拠のない情報でも多くの人が信じ込んでしまっている現実もある。

 この話はまた後述するが、その前にまず接見した時の話を踏まえて、祐也君が置かれた現実と、今回の逮捕をめぐる舞台裏を書いておこう。

なぜ渋谷警察署が動いたのか

 祐也君は糖尿病で入院していた病院から10月12日に退院したばかりで、17日に逮捕された。血糖値も高いままで、勾留中にもインシュリンを打っている状態らしい。「さすがに相当参っています」と語っていた。

 今回の逮捕は、17日にヤフーニュースに書いたように、ラインでのやりとりに怒った内縁の妻とされる女性が被害届を出したためだが、「ワイドナショー」で犬塚弁護士が言っていたように、このケースで逮捕というのは法的手続きから見ても厳しすぎる。「おやじを殺してやりたい」というラインの文句が取り出されて独り歩きしているが、その前後にも二人はやりとりをしており、全体として見れば、殺害予告といったものでない夫婦喧嘩のようなものであることは明らかだ。

 それにもかかわらず警察が動いたのは、担当しているのが渋谷警察署であることが大きなポイントだ。祐也君が住んでいるのは渋谷区でないし、女性の帰省先も東京ではない。それにもかかわらず今回渋谷署が動いたのは、恐らく1年前の事件との関わりを考え、背後に薬物があるのではないかと疑ったのだろう。

 2018年9月、渋谷のレストランで今回の2人は激しい喧嘩になり、女性が通報。駆けつけた警察官によって尿検査をされたところ、祐也君から薬物が検出された。それが前回の事件だった。12月に祐也君は執行猶予付きの懲役2年6カ月の判決を得て、沖縄の治療施設「ガイア」に入所した。その後、治療プログラムが続けられ、今年夏に東京へ戻ったのだった。相手女性が妊娠して、周囲が反対する中で、二人が子どもを産むことを決意したからだった。ちなみに祐也君の両親は元々結婚には反対していたが、子どもができたと聞いてそれならと黙認に転じた。最後まで反対していたのは女性の親で、確かに薬物依存の男性に嫁ぐと聞いては、特に父親なら反対するのは当然かもしれない。

 そして9月下旬に女性が子どもを出産。その時に検査してもらった結果、祐也君が糖尿病であることがわかって入院。生まれたばかりの子どもを連れて女性は帰省した。

 その後、もともと結婚に反対していた女性の父親が、もう祐也君のもとへは娘を返さないと言い出したようで、そのことをめぐって祐也君と女性がラインで応酬。感情的になった祐也君が「おやじを殺してやりたいくらいの気持ちだ」と書いたのが、脅迫容疑となったわけだ。

 確かに祐也君の言葉が行き過ぎなのは明らかだが、東京で自活といっても薬物治療や糖尿病の治療で生活していくだけでも大変なのに、パートナーと子どもが出て行ってしまったとあっては、精神的に追い詰められたのも確かだろう。問題となったラインのやりとりは、そういう精神状況の中でのことだ。

 それが逮捕され、マスコミが一斉に報道して大事件になってしまうとは、祐也君はもちろん、相手女性もどこまで認識していたかわからない。そして大きな問題は、へたをすると祐也君の執行猶予が取り消され、収監されてしまう怖れが出てきていることだ。女性にとっても、生まれたばかりの子どもを抱えたまま、夫が刑務所へ服役というのでは大変な状況であることは冷静になってみれば理解できることだと思う。何よりも生まれたばかりの子どもが本当に可哀そうだ。

 ちなみに逮捕後、祐也君には当然、尿検査がなされたが結果は陰性。薬物関連の疑いは晴れている。きょうの接見でも「薬物は絶対にやってませんから」と強調していた。

マスメディアに携わる人たちにお願いしたいこと 

 今回、テレビやネットニュースなどは「5度目の逮捕」という点を強調し、とんでもない奴だという断罪キャンペーンになっている。もちろん祐也君の生き方が非難されるのは仕方ない。ただ最低限、事実を踏まえた報道をしてほしいと思うのと、願わくは、薬物依存者の社会復帰についても理解したうえで報道してほしい。

 前述した「ワイドナショー」では、ゲストだった乙武さんが、こういう人を追い詰めるだけではよくないとコメントをしていて救われた。乙武さんのような障害者と薬物依存に苦しむ人たちは社会に置かれた状況にかなり共通性がある。だから、そのスタジオでそのコメントをするのは乙武さんならではだと思った。

 「ワイドナショー」は、ワイドショーの標的になっている人たちが芸能を含む話題を論評しようという番組で、松本人志さんが、でたらめな報道ばかりだと批判するのが小気味よくて、第1回から見ている。番組自体がある意味でメディアリテラシーを実践する役割を果たしているのだ。

 それだからこそ、その番組で怪情報を、しかも伝聞・推測であることを明示せずに客観的事実であるかのように提示するのはまずいだろう。

 祐也君が逮捕された10月17日、たまたま私は午前中に、薬物逮捕され実刑判決を受けた元五輪体操選手の岡崎聡子さんに接見していた。岡崎さんも祐也君をはるかに上回る逮捕歴で、彼女の逮捕報道を見た祐也君からラインで「岡崎さんすごいですね」という感想が送られてきたほどだ。

 でも、そういう重度の依存症に対しても、今回、治療機関のアパリやダルク、それに昔の友人知人など多くの人が支援に乗り出し、岡崎さん本人も服役後は依存症の克服に本格的に取り組むことを法廷でも表明した。

 そんな重度の依存症の人が自分の人生を切り替えるのが簡単でないことは誰でもわかる。

 でも報道のあり方を見ていても、薬物依存についての社会的理解が次第に深まりつつあることが感じられる。テレビなども、薬物依存者をただ叩くだけでなく、依存症という社会的病理に目を向けようという意識を持つようになってきつつある。

そういう状況だからこそ、メディアに関わる者には、その影響力の大きさを自覚してほしいと思う。

 祐也君の事件については今後も経過を報告していこうと思う。

〔追補〕最初に書いた時に「脅迫容疑」を「恐喝容疑」と誤記していて、読者から「篠田さんともあろうものが」とお叱りを受けた。申し訳ない。正確な報道をと訴えている本人が間違えていたのではしかたない、と反省。それからこの記事も、別に「ワイドナショー」の駒井さんを特に批判しようという意図はない。祐也君への親の援助という文脈で出てくる金額がいつも怪しいものばかりであることは芸能マスコミ全般の問題だ。ということで最初に書いた記事を10月22日時点で少し書き直した。

 なお昨年の祐也君の逮捕事件や、先頃の岡崎さんの事件について知りたい人は、ヤフーニュースの私の書いた記事をたどっていけばよいし、主な記事については履歴を下記に示しておこう。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20180913-00096644/

三田佳子さん次男の高橋祐也君に20年間つきあってきた者として今回の逮捕に感じた痛み

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20181213-00107551/

三田佳子さんの次男、高橋祐也君への執行猶予判決をどう捉えるべきなのか

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190816-00138673/

元体操五輪・岡崎聡子さんの薬物裁判証人として語った「そんな人生は切なすぎる」

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20191004-00145351/

元体操五輪・岡崎聡子薬物裁判で判決!懲役3年4カ月という裁判所の判断理由は…

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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