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元体操五輪・岡崎聡子さん薬物事件、7月3日初公判。予想を超える傍聴希望者が訪れた

篠田博之月刊『創』編集長
公判が開かれた東京地裁(筆者撮影)

 2019年7月3日14時半より東京地裁725法廷で、元体操五輪・岡崎聡子さん薬物事件の初公判が開かれた。地裁側には問い合わせがたくさんあったようで、直前になって法廷が大きめのところに変更になった。傍聴席はほぼ満席。体操選手時代からの岡崎さんのファンだという人もいた。

 私のヤフーニュースの記事を見て、連絡してきた彼女の知人という女性は、最前列の隣の席に座っていたが、手錠姿の岡崎被告が入廷後、ハンカチで涙をぬぐっていた。被告人席のその日の岡崎さんはやつれて見えた。

 開廷後、氏名や生年・職業を聞かれ、昭和36年1月13日生まれ、無職と答えていた。起訴事実については「間違いありません」と答えた。

 この日はほとんど実質審理に入らず閉廷。次回公判は8月15日11時から同じ法廷で、と決まった。情状証人の証言と弁護・検察双方からの被告人質問が行われる。恐らく結審まで行きそうだ。

 この間、芸能人が相次いで薬物で逮捕されているが、初犯が多いので執行猶予付き判決だ。岡崎さんの場合は、有罪となれば実刑は免れない。刑の一部執行猶予も、これだけ累犯の場合は簡単ではないらしいが、そのあたりは、次回の審理内容いかんにかかっている。

  

 この裁判の大事なポイントは、岡崎さんのような重症の依存症に対して、何をどうすべきなのか、本人の意思はどうで、司法や社会の側に何ができるのか、どこまで具体的な議論が行われるかだろう。刑罰をくだすだけなら前例に則して簡単に終わるだろうが、問題はそこではない。彼女の場合は逮捕が14回、薬物での前科も多く、これまでのようなことでは、再犯を止めるのは難しい。治療を施して依存症を克服する道を切り開かないと、何回でも塀の内と外を行ったり来たりするだけだ。

 実際に治療にどう取り組むのか、具体的な道筋が示されなければならない。

 岡崎さんとはもう10年以上にわたるつきあいだが、これまで本格的に治療に取り組むという話はほとんど出ていなかった。前回の逮捕後、両親が相次いで亡くなったことや、今回実刑になれば出所は60代になり、さすがに老後の人生を考えねばならなくなっていることなど、いろいろな要因があってだろうが、彼女自身、今回はこれまでと違った対応になっている。民間の治療機関との関わりも、今回初めて具体的に始まった。

 何度も言っているが、薬物依存は社会的病気だ。その治療をしない限り、刑務所に一定期間閉じ込めてまた社会に出すというのでは、依存症は直らないばかりか、ひどくなっていくだけだ。今回は私もかなり強く説得したし、今のところ、治療への取り組みは、これまでの彼女にはなかったような形で進んでいる。ただ壁はまだ幾つも残っており、超えなくてはならないハードルは幾つもある。

 閉廷後、弁護士などと話をした後帰社すると、フジテレビの「ノンストップ!」のスタッフが入り口前で待機していた。このところのテレビの薬物事件報道は、以前に比べると、薬物依存が病気だという認識も深まっているし、かつてのように「厳しい処罰を!」と叫ぶだけの内容ではなくなってきつつある。私がテレビの取材を受けるのも、薬物依存への対応を社会全体で考えていくために、マスメディアの役割が重要だと思うからだ。

 「ノンストップ!」のクルーとは小一時間話をした。彼らは裁判も傍聴していたが、まじめな取り組み姿勢で好感が持てた。

 

フジテレビ「ノンストップ!」。撮影場所は「創」編集部
フジテレビ「ノンストップ!」。撮影場所は「創」編集部

 それは7月4日10時からの同番組の冒頭で、結構長い時間を使って放送された。スタジオで岡崎さんのかつての映像や、薬物逮捕の過去の経緯なども詳しく説明され、これほど繰り返されて再び今回逮捕されたことで、薬物依存がどんなに恐ろしいものであるかもスタジオトークで強調されていた。

 今回は本人の意思も含めて、本格的治療に取り組もうということになっているという私の話も放送された。

 ただひとつ訂正しておきたいが、スタジオでのパネルでの説明で、岡崎さんが10年以上、子供たちと会ってないとされていたが、これは恐らくそうではないような気がする。パネルでは「篠田さんによると」としてそう説明されていたが、私はそう言ってないと思う。今回の逮捕後は会っていないはずだという話はしたので誤解されたのかもしれない。

 この10年間、両親も子どもたちも岡崎さんとは一定の距離を置いていたという話はしたが、実際に会っていなかったかどうか私は聞いていない。次回の接見の時に確認しておこう。

  テレビや新聞が薬物事件について報道するのは、いわゆる有名人に限られる。警察も有名人の場合はマスコミに情報を知らせるが、これは社会全体に薬物依存の怖さを知らせようという意思に基づくものだ。その有名人の薬物事件の中でも、逮捕14回という岡崎さんの事例は突出している。

こういう重症の依存症を具体的にどんな道筋で更生させるかというのは、簡単ではない。その意味では、岡崎さんが今回、どんな決意をもってどんな取り組みをするかは、社会的にも意味が大きなことだ。ぜひ、薬物依存は深刻だが克服は不可能ではないということを示してほしいと思う。

彼女の具体的な取り組みについては、今後も順次、レポートしていくつもりだ。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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