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『ドラえもん』『名探偵コナン』だけでない、この春のアニメ映画大戦争の背景

篠田博之月刊『創』編集長
『えいがのおそ松さん』と『バースデーワンダーランド』

 『映画ドラえもん のび太の月面探査記』が興収ランキングトップを走っていたところへ、4月12日に『名探偵コナン 紺青の拳』が公開され、劇場アニメフィーバーが過熱している。『名探偵コナン』は昨年の記録的大ヒットだったから関係者は今年も大きな期待を寄せている。『ドラえもん』はテレビ朝日、『名探偵コナン』は日本テレビの有力なアニメコンテンツだが、今年はそのほかテレビ東京製作の『えいがのおそ松さん』も公開されており、4月26日からはフジテレビ製作の『バースデーワンダーランド』が公開される。さらに『君の名は。』の新海誠監督の新作アニメ『天気の子』の予告編も始まっている。

 この何年か、アニメが日本映画を牽引していると言われてきたが、今年も春から日本映画界はアニメが席巻している感がある。冒頭に掲げた映画の写真は左が『えいがのおそ松さん』(C赤塚不二夫/えいがのおそ松さん製作委員会2019)、右が『バースデーワンダーランド』(C柏葉幸子・講談社/2019「バースデーワンダーランド」製作委員会)だ。

 4月8日発売の月刊『創』5・6月合併号で「マンガ・アニメ市場の変貌」という特集を掲げ、マンガやアニメをめぐるコンテンツビジネスの現状を様々な角度から報告しているが、ここではその中からテレビ局のアニメビジネスの変容について紹介しよう。

 テレビアニメは現在、製作本数は増えていると言われるが、キッズアニメはゴールデンタイムから次々と撤退し、週末の朝と夕方にシフト、それと深夜アニメとに二分されている。特に本数の多い深夜アニメの場合は、リアルタイムの視聴率だけが評価基準でなく、様々なビジネスモデルで製作が行われている。特にこの何年かはアマゾンやネットフリックスなどの配信事業と連動した展開も目につく。アニメビジネスが大きく変容・拡大を遂げつつあることの反映と言えよう。

 そうした中で特徴的なアニメ戦略を展開しているのがフジテレビとテレビ東京だ。特にテレビ東京は、昨年来、大きな組織再編を行い、アニメを中心にしたコンテンツビジネスをさらに拡充しようとしている。この2局のアニメ事業は、今後のアニメ界の行方を見るうえで象徴的な事例と言えるだろう。

フジテレビのテレビアニメと映画の連動

 まずフジテレビだが、有名な深夜アニメ枠「ノイタミナ」のほかに、昨年から「+Ultra」という新たなアニメ枠を水曜24時55分に設けている。

 「ノイタミナ」ではこの4月からオリジナルアニメ『さらざんまい』、7月からはBLコミック原作のアニメ化に挑戦した『ギヴン』、10月からオリジナルアニメーションシリーズ『サイコパス』のテレビ最新作が放送される。この『サイコパス』のメディアミックスのコンテンツ展開など、まさにフジテレビならではだ。アニメ開発部の高瀬透子企画担当部長がこう語る。

 「『サイコパス』は2012年に第1期、2014年に第1期の新編集版と第2期のテレビシリーズを放送。2015年には映画を公開し、2019年の1~3月には中編映画3本を、毎月1本ずつ連続公開してきました。そして10月から満を持してテレビアニメ第3期を放送するのですが、実はその間、4月から5月にかけて舞台化もします」

 「ノイタミナ」は質の高い作品でたびたび話題になり、深夜としては異例の高視聴率をあげたこともあったが、今は配信先行を行うなど放送の位置づけは変わりつつあるという。アニメ開発部の松崎容子部長がこう語る。

 「『ノイタミナ』は2016年からアマゾンで一話先行配信を行ってきたし、『+Ultra』はネットフリックスが第1話放送とともに一括配信を行う作品もあるなど、放送時間帯の視聴率だけで評価されていた時代とは変わりつつあります。以前ほどの高視聴率を獲得するのが難しくなってきている一方で、配信でそれを上回る人に見られることも成果であるというふうにビジネスのあり方が変わってきています。

 例えば現在『ノイタミナ』で放送中の『約束のネバーランド』は『週刊少年ジャンプ』のビッグタイトルですが、視聴率自体は他の『ノイタミナ』のタイトルとそう大きくは変わりません。深夜アニメをリアルタイムで見ている人の数はそう変わらないのもしれません」

 「+Ultra」についてもラインナップを紹介しよう。この4月からは『キャロル&チューズデイ』という音楽をメインテーマにしたアニメを放送しているが、10月からは、数多くの賞を受賞したコミック原作の『BEASTARS』、2020年1月からは『空挺ドラゴンズ』を放送する。

Cボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会
Cボンズ・渡辺信一郎/キャロル&チューズデイ製作委員会

 こうしたテレビアニメとともに劇場アニメに積極的に取り組んでいるのも、フジテレビアニメ開発部の特徴だ。高瀬担当部長が語る。

 「映画も深夜アニメから派生したものと、初めからファミリー向けに考えたものと両方製作しています。4月26日に公開される『バースデーワンダーランド』はワーナー配給で、250館以上という大きな規模で公開されます。

 その後5月10日に公開されるのはテレビシリーズ『甲鉄城のカバネリ』の続編にあたる劇場アニメです。松竹の配給で公開館数は28館ですが、公開と同時にアマゾンとネットフリックスで同時配信されます。映像のクオリティが高い作品なので劇場の大スクリーンで見る楽しみを味わっていただくとともに、配信でも2つのプラットフォームですぐに見ることもできるという、新しい試みです。

 6月21日には『きみと、波にのれたら』という湯浅政明監督の最新オリジナル作品が東宝配給で、200館以上で公開されます。湯浅監督は昨年、『夜は短し歩けよ乙女』で日本アカデミー賞最優秀アニメーション作品賞を受賞しています。声優さんも豪華な顔ぶれです」

 公開規模やビジネス展開も様々な映画を、ほぼ毎月のペースで公開していくわけだ。

 このほかにフジテレビの映画制作部が手掛ける劇場版『ワンピース』シリーズの3年ぶりの新作『ワンピース スタンピード』も8月に公開される。今年はアニメ放送開始20周年を記念して大きな取り組みを行うという。

 

テレビ東京が大きな組織再編

 アニメをめぐるコンテンツビジネスの展開で知られるテレビ東京では、2018年から2019年にかけて大きな組織再編に踏み切った。アニメ局が存在するのが同局の特徴だが、アニメ局と国際企画室、コンテンツ事業局の3局を統括するライツビジネス本部を2018年6月に新設。これまでアニメ局の局長だった川崎由紀夫さんがその本部長に就任した。

 この4月にはさらにもうひとつ、ビジネス開発局がその本部内に新設される。同局はビジネス開発部とイベント事業部に分かれ、イベント事業部がいわゆる2・5次元と言われる舞台にも、アニメ局と協力しながら取り組むことになる。

 川崎前局長の後を受けてアニメ局長に就いたのは押田裕一さん。これまで関連会社でデジタル関連の業務についていたが、元々2015年にアニメ局でアニメ事業部長を務めていたという。

 「アニメの部署に戻ってきて感じたのは、まさに今は“連携の時代”ということでした。いわばクロスメディアの考え方です。テレビだけネットだけというのでなく、それらがクロスしないと、作品が世の中に浸透していきません。

 そもそもアニメファン自身がアニメを見て楽しむだけでなく、その関連商品を買うのも楽しみ、舞台にも足を運ぶ。ファン同士の横のつながりもできてきています。ドラマやバラエティと同じ感覚でアニメを見ているし、表現手段のひとつとしてアニメを捉えています。

 そういう環境に即した組織のあり方として、昨年来のテレビ東京の組織再編もあったのだと思います。ライツビジネスという括りで4局がどう連携し、各局を貫く横串をどう作っていくのか。アニメをめぐる環境が大きく変わりつつある中で、コンテンツへのタッチポイントを増やすことが大きな目標になります。

 ドラマや実写映画にもマンガ原作が多いし、いまやアニメはサブカルチャーからメインカルチャーになっています。いろいろなパートナーと連携しながらどうやって事業を拡大していくのか。ポテンシャルはまだまだ残っていると思います」

 既に知られているように、テレビ東京は、他局がファミリーアニメをゴールデンタイムから次々と撤退する中で、平日の18時台に毎日アニメを放送するというアニメゾーンを堅持している。しかも主な作品については1クール2クールでなく、年間を通じて放送している。

 これは玩具やゲームなどと連携させながらアニメ番組を放送するというビジネスモデルと関わっているようだ。

KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-(T-ARTS/syn Sophia/エイベックス・ピクチャーズ/タツノコプロ/キングオブプリズムSSS製作委員会)
KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-(T-ARTS/syn Sophia/エイベックス・ピクチャーズ/タツノコプロ/キングオブプリズムSSS製作委員会)

 この4月にもアニメ番組が次々とスタートしているが、主なものを見ていこう。

 まずは金曜深夜帯の『フルーツバスケット』。原作は20年ほど前に白泉社の少女マンガ誌で連載されたもので、過去にもテレビ東京でアニメ化されている。

 そのほか、ゲーム原作の『八月のシンデレラナイン』や、映画・舞台と展開してきた『KING OF PRISM』、『ワンパンマン』の新シリーズもスタート。土曜午前の放送枠では、『月刊コロコロコミック』連載中の『けだまのゴンじろー』。さらに『週刊少年マガジン』連載作品では『ダイヤのA act2』が火曜夕方にアニメ放送されている。

『えいがのおそ松さん』めぐる新たな試み

 そしてこの春、テレビ東京のアニメ局が満を持して取り組んでいるのが『えいがのおそ松さん』だ。2015年と2017年に1期と2期が放送され大ブレイクしたテレビアニメ『おそ松さん』は、制作にあたったぴえろがアニメの幹事社を務めた。今回の映画の制作はぴえろだが、幹事社はテレビ東京だ。廣部琢之アニメ事業部長が語る。

 「今回の映画は『おそ松くんとおそ松さんをつなぐストーリー』と謳っています。おそ松さんらしさも散りばめながら、高校の制服を着た6つ子たちも登場するし、青春感動ムービーとしても見れます。テレビアニメのスペシャル版でなく、ちゃんと映画を作ろうと製作しました。

 テレビアニメよりもっと幅広い層に見てもらおうと春休み公開とし、映画に合わせたタイアップや商品化もいろいろ展開しています。高校生の18歳の6つ子関連の商品は映画館でも販売されますが、初日に売り切れたところも多かったようです」

 押田アニメ局がこう語る。

「新しいファンを獲得しないとブランドは縮小していきますから、今回の映画は幅広い層に見てもらおうと考えました。テレビ東京としても、例えば『出川哲朗の充電させてもらえませんか?』とコラボして、6つ子がスイカヘルメットを被ってバイクに乗るシーンを描いてみせたり、テレビ東京ならではのプロモーションを行っています」

 『おそ松さん』は元々深夜枠のアニメで、ブームになってからは様々なタイアップや商品化を展開させたのだが、今回はさらに広い層を狙いたいという意向のようだ。『おそ松さん』は深夜帯としては異例の高視聴率だったが、いまやアニメは視聴率だけでない様々な指標によって何を獲得するかを考えていく時代のようだ。

 昨年のライツビジネス本部の新設や今年4月のビジネス開発局の新設は、アニメを核としてテレビ東京がコンテンツビジネスを強化拡大していこうという方針の現れだろう。

 前述のフジテレビの展開を見てもそうだが、このテレビ東京の取り組みは、アニメをめぐるコンテンツビジネスが、今どういう方向をめざそうとしているのかを示す象徴的な事例といえそうだ。

※月刊「創」5・6月号 

http://www.tsukuru.co.jp/

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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