実売3000部の『シリウス』作品が単行本で100万部以上増刷がかかっているマンガ界の事情

驚異の大ヒット連発『月刊少年シリウス』(筆者撮影)

 4月7日発売の月刊『創』(つくる)5・6月合併号は恒例のマンガ・アニメ特集だ。もう20年以上続けてこの時期にマンガ特集を組んでいるので、近年は海外の研究者などからも問い合わせが入る。マンガは言うまでもなく今や大手出版社の屋台骨を支えており、しかも昨年前半は海賊版問題もあって落ち込みを見せたのだが、後半から大きく盛り返している。しかもこの半年ほど、テレビアニメ化によって紙の本も大きく売り伸ばすという、かつての成功方程式が復活しつつあるのだ。大手出版社はいずれも大きく胸をなでおろしているところだ。

 ただ、そういう状況の中で注目されているのは、昨年来、マンガ界の大変貌をうかがわせるような事例が相次いでいることだ。キーワードはやはりデジタル化だと思われるのだが、どういう状況が進行しつつあるのか少し紹介しておこう。

『月刊少年シリウス』快進撃の背景にあるもの

 まず昨年来、業界で大きな話題なのは、講談社の『月刊少年シリウス』の快進撃が止まらないことだ。実売3000部というマイナー誌なのだが、連載をまとめた単行本が次々と大ヒットしているのだ。かつてマイナー誌発の大ヒットといえば『テルマエ・ロマエ』があったが、そんなふうに1作品のヒットというのでなく、『月刊少年シリウス』の場合は、次々とヒットを連発している。これが構造的な変化に起因するものであることは明らかだろう。

 昨年、大ヒットした2作品『転生したらスライムだった件』と『はたらく細胞』については、以前も一度紹介した。講談社は昨年後半から、社屋のタレ幕にこの2作品を掲げていたものだ。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20190106-00110230/

講談社社屋の垂れ幕がアピールするコミックの「近年にない大ヒット」作品とは

講談社の垂れ幕に掲げられた作品は(筆者撮影)
講談社の垂れ幕に掲げられた作品は(筆者撮影)

、元々は他社から出ていた小説を講談社でコミカライズしてヒットしたものだ。もうひとつ大人気の『はたらく細胞』も“擬人化もの”と言われる人気のジャンルで、細胞を擬人化したものだ。

 講談社販売局第三・第四事業販売部の高島祐一郎部長がこう語る。

 「『転生したらスライムだった件』は、マイクロマガジン社から出ていた小説のコミカライズですが、転生ものといっても世界観は王道ファンタジーです。メジャー感のある作品だったこともウケた要因でしょう。昨年10月からアニメ化されたことで、全9巻で170万部もの重版がかかりました。動きはその後も止まっておらず好調です。

 『はたらく細胞』は昨年7月からアニメ化がなされて全5巻で120万部の重版がかかりました。『月刊少年シリウス』での連載自体は休載

 『転生したらスライムだった件』は、このところブームが続いている“転生もの”で、ある日突然、異世界へ転生してしまうという話なのだが中なのですが、アニメを見て全5巻のコミックスを読んで、もっと読みたいという読者が多かったのでしょう。たくさんのスピンオフ作品が出て、それらがまたよく売れました。

 例えば『モーニング』に掲載された『はたらく細胞BLACK』はコミックスが15万部以上売れていますし、『なかよし』に連載された『はたらく細菌』はコミックスが13万部売れています。そのほかに『別冊フレンド』には『はたらく細胞フレンド』、『月刊少年シリウス』にも『はたらかない細胞』が載っています。

 こんなふうにスピンオフ作品が続々と出てくるのは、本編がキャラクターもので、いろいろな年齢層へ向けて展開しやすいという要素もあるでしょうね」

 講談社の業績に大きく貢献したと言われるほどの大ヒットだったのだが、驚くべきことに、『月刊少年シリウス』からは、まだ次のヒットにつながりそうな連載作品が次々と生まれているというのだ。

 「例えば『人形の国』は、まだコミックスが3巻ですが、1巻は15万部を超えています。

 それから何と言ってもすごい人気なのが『ヒプノシスマイク』です。もともとキングレコードの男性声優12人によるラップソングプロジェクトですが、それを講談社の『月刊少年シリウス』と『少年マガジンエッジ』、関連会社の一迅社の『月刊コミックゼロサム』でコミカライズを昨年12月に一斉にスタートさせました。それぞれ雑誌によって切り口は異なるのですが、どの雑誌も完売です。『月刊少年シリウス』の場合は、もともと発行1万部弱で実売が3000部ほどなのですが、その号は発行部数を1万5000部に増やしながら完売でした。今年5~6月にはいずれも単行本になる予定で大きな話題を呼ぶと思います」(高島部長)

 実は講談社ではこの2月に組織改編があり、シリウス・ラノベ編集部がシリウス・ラノベ・エッジ編集部に拡大した。小説とコミック、それにアニメも連動させて大きなヒットを出していこうという取り組みで、今後も期待できそうだ。

 ちなみに、そんなふうに小説とコミック、アニメを連動させてヒットを出していくというのは、マンガ界でも独自の存在感を誇るKADOKAWAグループの得意な戦略で、『創』の特集ではこのKADOKAWAの戦略についても記事を1本立てて検証しているのだが、取材に応じてくれたコミック&キャラクター局の青柳昌行局長が、“転生もの”がブームだという話の冒頭に、こう語っていた。

 「現実世界で行き詰った主人公が異世界に転生して活躍するというのがこんなにもウケているというのは、今の若い子たちにそれだけ閉塞感があるということでしょうね。ある意味、大丈夫か今の日本は…とも思いますが(笑)」

 

デジタルと紙の売れ方、そして海外でも… 

 メジャー誌発の作品でなくても大ヒットしてしまうというのは、ヒットを生み出すのにネットが大きな役割を果たしていることと関係があると思われるが、紙とデジタルとでヒットマンガがどんなふうに市場を拡大していくかというのも興味深い。

 「『転生したらスライムだった件』は紙も電子も非常によく売れましたが、『はたらく細胞』は紙に比べて電子は伸ばしきれませんでした。作品や内容による読まれ方の違いはあると思います」(同)

 『月刊少年シリウス』からヒットが次々と飛び出していった経緯に、「ニコニコ静画」内の「水曜日のシリウス」というサイトが関わっていたことも知られている。

「『月刊少年シリウス』の異世界系の作品は、ニコニコ静画と相性が良いのでしょうね。相性の良いところで話題になると大きく拡散していきます。昔は雑誌がその役割を担っていたのですが、デジタルコミックの拡大でそのあたりは大きく変わりつつあると思います」(同)

 もうひとつ、このところ注目されているのは、『進撃の巨人』など日本で大ヒットしたマンガが海外でも大きな売れ行きを示していることだ。『月刊シリウス』発の作品も海外で売れているというから、日本でのマンガの売れ方は、いまや国際標準となりつつあるらしい。最近はBL(ボーイズラブ)というジャンルが、そのまま海外でも市場を獲得し、BLというジャンル名で通用するという。

 デジタル化によって紙の本に伴っていた流通上の問題などが乗り越えられたことも、国際化の大きな要因だと思われる。

 「ライツについて言うと、4年前と比べると売り上げが約3倍に伸びています。大きく伸びた時期が、ちょうど紙からデジタルにシフトした時期と一致しています。我々の取引先も出版社以外のところが増えています」

 そう語るのは講談社ライツ・メディアビジネス局国際ライツ事業部の金子義雄部長だ。     

 「『進撃の巨人』と並んで海外で人気の高いのが『FAIRY TAIL』です。『週刊少年マガジン』での連載は昨年終了しましたが、海外だとまだアニメが放送されているし、人気は衰えていません。

 その作者である真島ヒロ先生の次の連載『EDENS ZERO』が現在、『週刊少年マガジン』で連載されていて人気を博していますが、この作品については日本と同じタイミングで海外でも8つの地域でデジタル版の連載をするという企画を行いました。我々はそれをサイマル連載と呼んでいるのですが、紙とデジタルで海外でもリアルタイムで作品が読まれていく時代になっています。

 我々も海外の取引先にはデジタルで発売と同時に見本を提供しており、連載が始まって3回目くらいには、ぜひやらせてほしいという申し出が海外から入ってきます。英語訳についてはこちらでデジタル版を作って配信する作品もあります」

 マンガの取引先としては国別に見るとフランスが一番、次いでアメリカだという。タイトルでいうと上位の2作品に次いで『カードキャプターさくら』『転生したらスライムだった件』『はたらく細胞』などが伸びているという。最近は、日本で人気が出ると時間をおかずに海外でも売れるというようになっているというのだ。

 このところ映画やドラマでもマンガ原作が多く、映画会社のプロデューサーは、人気連載が始まると3回目くらいで版権をとりに動くと言われるが、海外のマンガコンテンツに関わっている人たちも今や同じように動く時代なのだ。

 日本のマンガがいまや世界で評価されるコンテンツになっているのは知られているが、デジタル化によって、その動きは加速されつつあるようなのだ。マンガ市場がいま、大きな変貌を遂げつつあるのは間違いないと言えるだろう。

月刊『創』5・6月号「マンガ・アニメ市場の変貌」

http://www.tsukuru.co.jp