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三田佳子さんの次男、高橋祐也君への執行猶予判決をどう捉えるべきなのか

篠田博之月刊『創』編集長
判決が出された地裁前の報道陣(筆者撮影)

 12月13日、高橋祐也君への判決公判を傍聴。帰社してこの記事を書いている。既にネットには速報が流れているが、懲役2年6カ月、執行猶予5年という有罪判決だった。

 裁判所を後にしながら、たぶんこれについては「なぜ実刑でないのか」「甘すぎる」という意見がネットでは多数を占めるだろうと思ったが、予想通りだった。炎上状態と言ってもよいかもしれない。何度も逮捕され、常習性が認められる人物になぜ執行猶予をつけるのか、というのが世間の大方の見方かもしれない。だから今回の判決の意味をここで説明しなければならないと考えた。

 地裁前で「ミヤネ屋」のインタビューを受けた。判決の感想を聞かれて「評価します」とまず答えた。正直に言うと、可能性としては、実刑判決に刑の一部執行猶予がつくというケースを想定していた。だから裁判長が主文を読み上げた時には、その判決理由を聞き漏らすまいと耳を傾けた。裁判所がどういう判断でそうしたのかが大事だからだ。

 裁判長が語ったのは、第1に、祐也君の更生への意思だ。そして第2に、前の刑の執行から約10年間、薬物に手を出していなかったという理由をあげた。どうやらこの2番目の事情を比較的重く判断したようだ。

 その後、執行猶予5年の間に保護観察がつくことなど詳しく説明した。本当はそのあたりについての裁判所の判断をもう少し言葉にしてほしかった。そうでないと執行猶予判決の意味が社会によく伝わらないからだ。

 私は、祐也君だけでなく田代まさしさんについても深く関わり、薬物依存に対してこの社会がどう対処しているかいろいろ見てきたが、一番驚いたのは、満期出所の場合は、全く出所後のフォローがなされず「どうぞご自由に」になっていることだ。それじゃ再犯可能性が高くなるのは当然だと思う。

 そこで刑の一部執行猶予制度が取り入れられたのだが、これは刑の一部を執行猶予する代わりに保護観察をつけ、治療・更生へ向かうようフォローしていくという仕組みだ。今回の祐也君の場合も考え方は同じで、5年間、保護観察がついて、彼がどう更生していくか見ていくという趣旨だ。何度も書いているように、薬物依存への対処については「処罰から治療へ」という大きな転換がこの2~3年でなされている。それは正しい転換なのだが、問題はそのことへの説明がほとんど社会になされておらず、社会の理解が得られていないことだ。

 いやそもそも今回の祐也君の事件も、芸能スキャンダルとしてしか報じられておらず、それをきっかけにして薬物依存の実情を報道していこうという意思があまり感じられない。理由は単純で、社会的問題といった難しいことを言わずに三田さんの映像を映していたほうが視聴率が上がるからだろう。

 だから今回の、世の中にとっては意外と受け止められる判決内容も、ある意味では議論を行うよいチャンスなのだが、果たしてそれが行われるかどうか心もとない。薬物依存や性犯罪については、様々な取り組みがなされ、法務省もいろいろな施策を打ち出しているのだが、社会への説明や発信が全く不十分なのだ。

 「ミヤネ屋」のインタビューでも答えたが、こういう判決が出て、問われるのは、執行猶予の5年間、そしてそれ以降も、祐也君がどう更生を果たしていくかだ。18歳の最初の事件からもう20年、祐也君も間もなく40歳だ。その20年間、三田さんら家族がどんなにつらい思いをしてきたか、私は間近で見てきたから、本当にそのことは改めて祐也君にも言いたいと思う。そして同時に、薬物依存から脱することが、どんなに大変なことか、社会の多くの人にももう少し知ってほしいと思う。

 祐也君だって、三田さんら家族に大変な迷惑をかけ続けてきたことは自覚している。自覚していながらも、今回のように危機に追い詰められると、現実逃避のために薬物に手を出してしまう。それが薬物依存の怖いところなのだ。

 祐也君は沖縄の更生施設「ガイア」で保釈後生活していて、この後も沖縄に住んでガイアの手伝いをしようかと思う、と言っていた。私もそのくらい本気になって薬物依存と向き合うという意味で良い選択だと思う。今回の事件で、これまでの彼の生活は完全に破壊され、もとには戻れない。奥さんとの別居についても、戻るのはもう難しそうだし、東京でやっていた事業も、続けることなどありえない。祐也君にとって人生を一新させるべき機会だし、これがラストチャンスだと思う。

 たぶん近々祐也君には会うことになると思う。本当は私も、10年ほども薬物事件を起こさず、家庭を築いてきたので、祐也君は更生をなしとげたものと思っていた。それが一転して今回の事件だ。この10年間の努力も水泡に帰した。それが薬物依存の恐ろしいところだが、努力によって更生している人も世の中にはたくさんいるわけで、社会的注目を受けている存在だからこそ、薬物依存の克服は可能なのだということを、家族に、そして社会に示してほしい。祐也君には本当にそう言いたい気持ちだ。

 なお、祐也君の今回の事件については既に4本、ヤフーニュースに記事を書いている。下記にリンクを貼ったので参照していただきたい。

三田佳子さん次男の高橋祐也君に20年間つきあってきた者として今回の逮捕に感じた痛み

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20180913-00096644/

三田佳子さんの次男、高橋祐也君保釈騒動。接見したその日に渋谷警察署前で見た光景

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20181008-00099761/

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20181011-00100100/

三田佳子さんの次男、高橋祐也君「保釈」騒動の最中に本人から掛かってきた電話

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20181213-00107509/

三田佳子さんの次男・高橋祐也君の裁判と、新たに逮捕された容疑者と交わした会話

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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