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乙武洋匡さんの元「糟糠の妻」が元夫提訴!不倫騒動での妻の立ち位置とは

篠田博之月刊『創』編集長
『週刊新潮』が報じた乙武さん元妻の提訴

 最近のやや異常とも言える不倫騒動には思うところもあるのだが、その話は後にして、まず取り上げたいのは乙武洋匡さんの元妻が、乙武さんを訴えたという報道だ。

 ちょうど1年前の乙武さんの不倫騒動の時に、このブログでその妻の話を書いた。今回、それがまた結構読まれているのだが、それを受けて今回の事態について書いておこう。1年前の記事とは下記だが、当時、妻は夫の不倫騒動において「私にも責任がある」と一緒に謝罪したことで話題になった。

https://news.yahoo.co.jp/byline/shinodahiroyuki/20160405-00056227/

 その後、夫妻は離婚したのだが、今回、その「糟糠の妻」と呼ばれた仁美さんが何と、8月4日に乙武さんを提訴したというのだ。報じたのは『週刊新潮』2017年8月17・24日号「乙武クンと愛人を糟糠の妻が訴えた!!」。同誌は昨年の乙武さんの不倫スキャンダルをすっぱ抜いた媒体だ。

 昨年3月、同誌が乙武さんの不倫を暴き大騒動になった時、妻は夫を懸命にかばっていたのだが、今回、乙武さん相手に精神的損害の賠償を求める訴訟を起こしたという。正確に言えば、提訴した相手は元夫と、不倫相手とされた女性だ。

 なぜ今になってと思うだろうが、きっかけは昨年11月27日放送のフジテレビ「ワイドナショー」での乙武さんの発言だったという。謹慎していた乙武さんが一連の騒動について説明し、それをみそぎとして、彼は再びメディアに露出するようになった。

 その番組で乙武さんは「私がしでかしたこと自体は、妻はずっと前から知っていたことなので、それ自体は二人の間で揉め事になることはなかったんです」と語った。離婚理由は不倫そのものでなく、騒動が予想を超えて拡大したことで、子どもを守るためには離れたほうがよいと元妻が判断したため、というのだった。

 しかし今回の記事では、元妻の知人が、彼女は決して不倫を容認していたわけではないと反論。そして離婚の理由について「乙武さんの態度は傍若無人で、自分が不貞行為を繰り返してきた『加害者』であるにも拘わらず、『被害者』である仁美さんに辛く当たり続けたんです」という。

「例えば、お子さんを幼稚園の送迎バスに乗せるために、仁美さんがほんの数分、彼のもとを離れると、自宅マンション内にある共用の会議室に行きたがった乙武さんは、『自分を放り出すのか』『どれだけ自分が惨めかわかるか』などと仁美さんを何度も詰り、LINEを通じても延々と彼女を責めた」

「乙武さんは仁美さんに、『俺の面倒を見ないと、障害者虐待防止法で訴えるぞ』とまで言ったそうです。不倫という『悪いこと』をしたのは彼なのに、なぜ自分が責められなければならないのかと、彼女は次第にノイローゼ状態に追い込まれました」

 そういう状況に妻が耐えられなくなったのが離婚の理由だったという。それにもかかわらず乙武さんは自分に都合の良い一方的な説明を行い、彼女をさらに傷つけたというのだ。確かに「ワイドナショー」での乙武さんの説明は、不倫自体は以前から妻も知っていたことだ、と強調していた。ただ今回の提訴という事態を考えると、それはあくまでも元夫側の主張だったわけだ。

 昨年、不倫騒動で妻が夫と一緒に謝罪したことが話題になった時、仁美さんは夫婦の関係について乙武さんが障害者であることを抜きには語れないと強調していた。

 乙武家においては、夫婦関係も含めて、夫が障害者であることを前提に家族関係が成立しており、妻は夫を支える支援者でもあった。その独特の関係と、夫が不倫した夫婦という関係が、不倫騒動を機に「軋み」を生じさせたわけだ。妻が障害者の夫を支えるという関係を乙武さんは続けようとしたのだが、「どれだけ自分が惨めかわかるか」などと言われるたびに妻は、不倫という事態の「加害者」である夫が「被害者」である妻にそんなふうに当たることに疑問を感じたというわけだ。

 昨年の不倫騒動の時にも、乙武さん夫婦の関係がどういう状況であるかについては障害者の現実を考えるためにも、可能なら赤裸々に語ってほしいと思ったが、今回の事態を受けてさらにそう思う。たぶん裁判ではそのあたりが仔細に検討されるのだろうが、民事訴訟だからやりとりが全て公開されるわけではない。当事者双方ともこれ以上プライバシーをさらされることを受け入れないだろうから、夫婦のあり方にこれ以上踏み込むことは困難なのかもしれない。でも今回の裁判に、もし社会にとってプラスな側面があるとしたら、それはこれを機に障害者の置かれた現実について皆が考える、そういうきっかけになってほしいということだろう。

 さて、それにつけても思うのは、最近の異様ともいうべき不倫スキャンダル現象の中で、妻が置かれている立ち位置だ。例えば『週刊文春』8月17・24日号が報じた「雨上がり決死隊」宮迫博之さんのケース。同誌発売8月9日の2日後、11日の昼のワイドショー「バイキング」でレギュラー出演者でもあった彼は番組内で釈明を行った。それが「最終的には嫁から『家族だから私が助けるよ』という男前な言葉をもらった」という説明だった。不倫の一番の被害者は妻なのだが、その妻が許してくれているというわけだ。乙武さんの昨年の騒動での妻も一緒に世間に謝るという構図に似ている。

 また『週刊新潮』8月10日号には、不倫騒動で自民党離党に追い込まれた中川俊直代議士が後援者にお詫び行脚をする写真がグラビアに掲載されたのだが、驚いたことに中川代議士の傍らに悦子夫人が写っている。この妻ががんで闘病中に不倫をしていたということで一斉に彼は非難されたわけだが、何とその夫の釈明行脚に、最大の被害者であるはずの妻が同行しているというわけだ。

 これは、ある意味では日本的光景なのかもしれない。夫の不倫は許せないが、その政治家や芸人としての社会的地位が失われかねない事態においては、そちらの危機を乗り越えることがまず優先される。被害者であるはずの妻も一緒に謝罪し、「妻が許したのだから」と釈明するのが、不倫騒動を乗り切る究極の対策というわけだ。乙武さんの不倫騒動でも、1年前はその構図だったのだが、それに妻が反旗を翻したというのが今回の提訴だ。

 

 考えてみれば、そもそも不倫騒動でこの間、俳優やタレントが次々に「お騒がせしました」と謝罪会見を行っているのだが、あれはいったい誰に謝っているのだろうか、と思う。謝るべきは妻や家族に対してであって、あんなふうに会見を開いてマスコミや世間に謝るというのは、いったい何なのだろうか。どう考えても、騒ぎを収めるために仕方なく謝罪しているとしか思えない。不倫を暴き立てている芸能マスコミは、世間のモラルをたてに、あたかも不正を暴いているような趣さえあるのだが、考えて見ればこの構図はおかしくないだろうか。

 例えば『週刊文春』8月10日号で不倫と報じられた斉藤由貴さんは会見で釈明を行った際に、まだ夫には話していないと語っていたが、本来なら最初に釈明すべきは夫に対してだろう。本来なら妻と夫の間の「私」の問題なのに、それが報じられて社会問題化することで「公」の問題になり、「私」と「公」の倒錯が起きてしまう。一連の不倫スキャンダル騒動を見ていて違和感を感じるのはそのためだろう。騒動を乗り切るために妻が一緒に謝罪するというのは、考えて見ればまさに倒錯だ。

 メディア社会においては「私」と「公」の垣根が限りなく曖昧になる。最近の不倫騒動で深刻なのは『女性セブン』8月24日・31日号が暴いた「上原多香子『致命的な破倫の果てに』」だろう。元SPEEDの上原多香子さんの夫が3年前に自殺したのは、実は妻の不倫を知ったためだったという話だ。亡くなった夫の関係者からの情報だろうが、気持ちはわからないでもないが、メヂィアを使ってそれを公にするというのは、言うなれば「私的制裁」ではないだろうか。

 この1~2年、週刊誌による不倫スキャンダル騒動が続いたが、そろそろこれ自体を考えてみるべき時期だろう。夫婦や家族の「私」の問題が「公」の問題とされ、「消費の対象」になっているのが現実だ。不倫は悪だというモラルをかざしてスキャンダル報道がなされるから、当事者もプライバシー侵害ではないのかという反論ができない。スキャンダルの消費の対象としてそれが受けとめられるから、家族の間の微妙な問題は無視されてしまう。乙武さんの夫婦関係が結局、提訴まで行きついてしまった結果にそんなことを思わざるをえない。

 このところ、24年前に起きた「日野不倫殺人事件」の北村有紀恵さんのことを追いかけているのだが、これは不倫の果てのもつれが子ども2人の殺人という深刻な事態に至ったケースだ。この2年ほどもっぱら話のネタとして「不倫」が受け取られる風潮が続いているが、こんなふうに深刻な事態に至ったケースにも目を向けてみてほしい。この事件は『8日目の蝉』というベストセラー小説のモデルにもなったものだが、事件の概要と、追い込まれた当事者たちがその後どういう悲惨な状況に追い込まれたか。関心ある人は、『創』8月号の記事をヤフー雑誌に全文掲載したので下記をご覧いただきたい。ヤフーニュース個人にも前に書いたが、そこで割愛した、北村受刑者の心情なども紹介している。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170816-00010000-tsukuru-soci

[日野不倫殺人事件・北村有紀恵受刑者24年目の現実]

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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