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「フライデー」女子アナ写真へのリベンジポルノという批判はいい視点だ

篠田博之月刊『創』編集長
『フライデー』9月18日号

『フライデー』9月18日号に掲載された「あの人気女子アナ不倫SEX写真大量流出を発見!」なる袋とじ企画をめぐって、ネットではその女子アナの特定や番組降板の話まで流されている。講談社では翌週発売の『週刊現代』でもそれを取り上げるなど、当初はスクープ扱いで宣伝していたが、たぶんその後、「おいおい待てよ」と思うようになったのではと思われるのは、これがリベンジポルノで犯罪ではないかという批判がなされたからだ。今までこの種の写真掲載については、雑誌界はいささか野放図だったが、これを機に考えるべき良い機会もしれない。

リベンジポルノというのは2013年の三鷹ストーカー殺人事件を機に、社会的に知られるようになり、その後処罰のための法制化もなされた。あの『フライデー』の写真に対してリベンジポルノでは?という批判が起きたのはそうした経緯を背景にしたものだ。実は、週刊誌が掲載している性的スキャンダルは、かなりのものが関係者や当事者によって持ち込まれたもので、それがリベンジポルノになりかねないという発想はこれまであまりなかったのではないだろうか。

講談社では2013年、元AKBメンバーのヌード写真集を発売しようとして、掲載予定の写真を『ヤングマガジン』に掲載したところ、そこに少年が写り込んでいたために児童ポルノ法に抵触するのではと指摘されて、『ヤンマガ』も写真集も発売中止になったことがある。法的規制やトラブルに至るのではないかということについては、大手出版社はナーバスだ。昨年夏には光文社『フラッシュ』の発売中止事件があったが、これも海外の女優らの流出写真を袋とじで掲載したもので、訴訟に発展しかねないと発売中止になった。今回のリベンジポルノだという批判についても、ネットなどで指摘されて、恐らく講談社の法務関係の部署では気にして検討したのではないだろうか。

『フライデー』で思い出すのは、同誌が1984年秋に創刊された同誌が半年後の85年4月26日号に大々的に掲載した沢田亜矢子さんのヌード写真だ。なぜそれが話題になったかというと、同誌はその号を「100万部突破」と表紙にまでうたって売り出し、部数を大きく伸ばすきっかけになったからだ。これも昔つきあっていた男性が同誌に持ち込んだもので、後に沢田さんは『創』1987年1月号に掲載した手記で「怒りと絶望感と人間不信でいっぱいになった」と書いていた。掲載された側はそれだけ傷ついたのだが、当時は掲載された側の痛みに思いを馳せるという感覚は社会的にも希薄だった。

勢いづいた『フライデー』は1995年に160万部まで部数を伸ばすのだが、同年の「ビートたけし殴り込み事件」を機にプライバシー侵害などに対する批判の声が起こり、一気に部数を落とす。報道被害という言葉が社会的に広がり、メディアに対する批判が噴出するようになったのは1984年から85年にかけてのことだ。写真週刊誌が1985年をピークに一気に部数を落としたことでわかるように、市民社会の意識はメディアの市場に確実に反映される。今回の『フライデー』写真へのリベンジポルノという批判も社会意識の変化の現われだろう。

私はもちろん、表現に対して警察が介入したり、法的規制が行われることに対しては基本的に反対なのだが、それゆえにこそ市民意識に基づく批判にはメディアの側は耳を傾けるべきだと思う。ネットなどでは面白がって、この女性アナウンサーを特定する書き込みがなされているが、『フライデー』も女性の顔にモザイクをかけているとはいえ、そういう事態をたぶん想定して写真の掲載に踏み切っていると思う。それこそリベンジポルノが問題にされる状況そのもので、今回の件は、雑誌界でもっと議論の俎上にあげられてよいと思う。

月刊『創』編集長

月刊『創』編集長・篠田博之1951年茨城県生まれ。一橋大卒。1981年より月刊『創』(つくる)編集長。82年に創出版を設立、現在、代表も兼務。東京新聞にコラム「週刊誌を読む」を十数年にわたり連載。北海道新聞、中国新聞などにも転載されている。日本ペンクラブ言論表現委員会副委員長。東京経済大学大学院講師。著書は『増補版 ドキュメント死刑囚』(ちくま新書)、『生涯編集者』(創出版)他共著多数。専門はメディア批評だが、宮崎勤死刑囚(既に執行)と12年間関わり、和歌山カレー事件の林眞須美死刑囚とも10年以上にわたり接触。その他、元オウム麻原教祖の三女など、多くの事件当事者の手記を『創』に掲載してきた。

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