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邦本宜裕、Kリーグでも契約解除。「悪魔の才能」の処罰と解除に至った背景とは?

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
邦本宜裕(写真提供=韓国プロサッカー連盟)

Kリーグの全北現代(チョンプク・ヒョンデ)モータースが7月13日、邦本宜裕との契約解除を正式に発表した。

全北現代は先ほど、メディア登録されている記者向けの報道資料を配布。そのプレスリリースを通じて、邦本との契約を双方合意のもとで解除したことを明らかにした。

「ファンの方々にご心配をおかけしてしまい、改めてお詫び申し上げる。今後は徹底した教育及び管理を通じて、このようなことが再発しないようにする」(全北現代発のプレスリリース)

邦本の飲酒運転問題は日本でも報じられたが、全北現代の対応は早かった。

邦本が7月8日未明に飲酒運転をして警察に摘発された事実がわかると、Kリーグを管轄する韓国プロサッカー連盟に該当の内容を報告。クラブ公式ホームページ、SNSでも当該の事実を発表した。韓国では「悪魔の才能」とも言われるほどの有名選手でもあったのでショッキングだった。

(参考記事:【動画】これが日本人Kリーガー邦本宜裕の“悪魔の才能”!観客を魅了した絶妙パス&華麗ルーレット)

それを受けて韓国プロサッカー連盟は翌7月9日には邦本に公式戦出場を60日間禁止する活動停止処分を下していたが、全北は“飲酒運転”という社会的に重大な事案を鑑みて、邦本との契約を早期解除することを決めたという。

Kリーグの飲酒問題に対する処罰

この「処罰」についていろんな意見があるだろうが、そもそもKリーグでは過去にも“飲酒運転”に対して厳しい罰則を科してきた。

昨年8月、DFチャ・オヨン(24、FCソウル)は知人と酒を飲み、代行運転を利用して自宅付近に到着した後、自らの運転で駐車していたところを近隣住民に通報されると、警察に摘発され、8試合の出場停止処分を受けた。

また、2020年6月にはFWパク・インヒョク(26、全南ドラゴンズ)が飲酒運転事故を起こして10試合出場停止処分を下された。

同年5月には、DFイ・サンミン(22、忠南牙山FC)も飲酒運転摘発で15試合の出場停止処分を受けたが、イ・サンミンは摘発の事実をクラブに知らせないままリーグ戦3試合に出場したことで、加重で処罰を受けた。

こうした事例に基づくと邦本は最低10試合以上の出場禁止が有力とされていたが、そうなると邦本の必要価値もガクンと落ちる。

というのも、Kリーグ1は今季17試合しか残っておらず、今後10試合以上出場できないとなれば実質、戦力外の選手になったのと変わりないのだ。

クラブの親会社は世界的な自動車メーカー

そのため、『スポーツソウル』サッカー班が取材したところによると、7月11日の時点で全北が邦本との契約を解除する可能性はかなり高かったらしい。『スポーツソウル』サッカー班は問題発覚後、全北現代の事情に詳しい関係者に話を聞いたが、そのときもこんな内容が明らかになったという。

「邦本と全北現代が契約を解除する可能性が高い。何しろ契約期間が6カ月しか残っていない状況だ。韓国プロサッカー連盟の懲戒の程度を考慮すれば、今シーズンの間に出場できる試合も多くない。そうなると契約解除のほうに傾くのは当然だろう」

また、この関係者は「クラブや親企業のイメージまで考えれば、契約解除は当然の手順だ」とも語っていたらしい。

全北の母体企業は韓国最大にして今や世界第五位の自動車メーカーである「現代(ヒョンデ)自動車グループ」だ。その傘下となるサッカークラブの選手があろうことか「飲酒運転」で摘発されたのだ。親会社の幹部たちが激怒した光景は容易に想像がつく。

昨季はベストイレブン候補、今季はMVPも期待されていた

しかも、皮肉なことに今回の問題は、全北と邦本は来季に向けた再契約交渉をちょうど始めようとしていた矢先に発覚した。

2020年に全北現代に加した邦本は昨季、Kリーグの年間ベストイレブン候補にもリストアップされるほど活躍。今季もシーズン前にはチームメイトで昨季年間MVPのホン・ジョンホから「2022年の年間MVP候補は邦本」とも言われていた。

その期待通り、今季も4試合に出場して4ゴール1アシストを記録し、ラウンドMVPに1度、ラウンドベストイレブンに3度選出されるなど、活躍を続けていた。

5月はキム・サンシク監督との不仲説が流れたこともあるが、全北現代のホ・ビョンギル代表取締役は邦本のパフォーマンスを高く評価し、再契約に積極的に乗り出す意思も示していたそうだが、今回の問題発覚でそれもすべて水の泡となってしまった。

浦和レッズユース、アビスパ福岡を経て、2020年に慶南(キョンナム)FCでKリーグのキャリアをスタートさせた邦本。

しかし、近年の韓国社会で大きく問題視されている“飲酒運転”を犯してしまったことで、チームにも悪影響を及ぼした。

近年の日本人Kリーガーたちの中ではもっとも成功した選手として有名だっただけに、残念な結果に終わってしまったが、まだ24歳だ。このまま選手生活を終わらせてはいけない。しっかりと反省し、かならずや再起することを期待したい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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