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実はレース前から涙…小平奈緒に号泣のイ・サンファ、北京五輪で何を語っていたのか【実況再現】

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
昨日のレースでの小平奈緒とイ・サンファ(写真提供=OSEN)

北京五輪のスピードスケート女子500mで17位に終わった小平奈緒。前回・平昌五輪で金メダルを手にし連覇への期待が大きかっただけに、まさかの結果となったが、その姿に涙を浮かべて号泣したのがイ・サンファだった。

前回の平昌五輪ではライバルとして金メダルを争ったふたり。互いに競い合った末に小平奈緒がイ・サンファを抱擁し労った姿は大きな感動を呼び、ふたりの友情は日本と韓国の両方で大きな話題になった。

その後、イ・サンファは2019年5月に現役を引退。同年8月には「韓国で最も有名な日本人」とも言われた歌手で人気タレントのカンナムと結婚した。

(参考記事:小平奈緒やキム・ヨナも祝福!! 元スピードスケート選手イ・サンファの結婚式が公開される)

引退後はタレントに転身してバラエティ番組などで活躍してきたが、今回の北京五輪では韓国の公共放送局KBSのスピードスケート中継の解説者を務めている。

昨日も中継席に座り、小平のレース後にハンカチで涙を拭うイ・サンファの姿が一瞬だがテレビの国際映像にも映ったのでその姿を確認した日本の視聴者たちも多いだろう。

実はイ・サンファ、北京入り直後も「奈緒がここまで来るためにどれだけ努力してきたか分かるから、彼女のレースを見たら泣いてしまうかもしれない」と語っていたが、この日はレース前から目を潤ませ涙していた。

「韓日スポーツ親善交流というものがあって、今年は韓国、来年は日本という形で毎年行われたのですが、私は中学2年のとき初めて参加し、奈緒は高校生。先に声をかけてきたのは奈緒。私はそのとき高1、奈緒は高3でした」

「引退後はあまり連絡を取りませんでしたが、(スピードスケートW杯・第2戦が行われた昨年11月の)ノルウェーあたりから連絡するようになりました」

「奈緒は人間性が素晴らしく、配慮があり、勝負強さもあります。自分よりもほかの人のことを先に考える、本当にやさしい人」

KBSの中継では、レース開始前に小平奈緒との友情を振り返る特別コーナーが番組内で組まれ、その思い出を振り返りながら、「オリンピック・チャンピオンは永遠のチャンピオン。私も経験したので負担感やプレッシャーがあることは知っているけど、王冠の重みを乗り越え、平昌五輪の経験も生かして今まで準備してきたものを出し切り、爽快なレースを見せてほしい」とエールを送ったあとで、目を潤ませていたのだ。

そうして迎えたレース本番。13組目に登場した小平とアンゲリナ・ゴリコワのレース中にイ・サンファは何を語ったのか。その実況をここに再現する。

実況:高木美帆選手が好タイムで1位にあります。今の小平選手の心境を想像すると?

イ・サンファ:緊張しているでしょうが、それはすべてのスケーターが感じている緊張だから無視すればいい。彼女はオリンピック・チャンピオンであり、オリンピック新記録の持ち主。しっかりと、自分が重ねてきた努力をこの場で見せるだけでいいのです。

実況:インには昨季の世界記録保持者アンゲリナ・ゴリコワ、アウトには4度目の五輪となる小平奈緒。

イ・サンファ:奈緒選手、コースもいいし、慌てなければ大丈夫です。

実況:スタートしました!

イ・サンファ:悪くないですね。さぁ、一緒に前に…。あぁ、ちょっと遅い。付いて行って。慌てずに。

実況:小平奈緒、10秒72。小平奈緒が思っていたよりも遅いですね。負担が大きかったのでしょうか。

イ・サンファ:諦めないで。最後まで。最後まで…!!

実況:ゴリコワはアウトに、小平はインコースで3コーナーに入ってきました。負担が大きかったのでしょうか。差がどんどん開いていきます。ゴリコワ、ゴリコワ!!

イ・サンファ:それでも最後まで頑張って!!! 最後まで〜!!

実況:小平選手が4年前とは異なる残念なレース結果に終わりました。解説のイ・サンファさんが涙を隠せません。

イ・サンファ:とても重い王冠の重圧を乗り越えるはずと思っていましたが、やはり心理的な圧迫がとても大きかったようです。

実況:高木美帆選手が出した記録が、とても大きな負担になっていたんでしょうね。

もっとも、昨日のレースは残念な結果に終わったが、小平の北京五輪が終わったわけではない。まだ女子1000mが残っている。

「奈緒にとって最後になるかもしれないオリンピックですから、今まで以上に応援してあげたい。すべてのレースが終わったら、今度は私が奈緒を強く抱き締めてあげたい」とは、イ・サンファが大会前に語っていた言葉。彼女もきっと、まだ諦めてはいないはずだ。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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