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【現在の姿も】22年前のJリーグ得点王の波乱万丈、パリ五輪目指す韓国の新監督にファン・ソンホン!!

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
現役時代は韓国代表として活躍したファン・ソンホン(写真:ロイター/アフロ)

東京五輪の閉幕から1カ月。韓国サッカーが2024年パリ五輪に向けて動き出した。

KFA(韓国サッカー協会)は9月15日、2022年のU-23アジアカップと杭州アジア大会、2024年パリ五輪に出場するU-23韓国代表の指揮官にファン・ソンホン氏を選出したことを発表したのだ。

準々決勝でメキシコに3-6の惨敗を喫し期待されたメダル獲得に失敗していた韓国。成績としては2勝2敗だが、グループリーグ初戦の握手拒否事件やオーバーエイジとしてチームに加わった3選手の働きが期待外れに終わったことなど、試合内容以外でも批判が多かった。

(参考記事: サッカー韓国代表選手の無礼な“握手拒否”、相手国メディアも批判「無視する行動」【PHOTO】)

ジェフ市原・千葉のユン・ジョンファンも候補だった?

チームを率いたキム・ハクボム監督は大会終了後に契約満了で退任。以降、次期監督が誰になるかに関心が集まっていた。筆者も韓国に入国して以降、多くのサッカー関係者や旧知のサッカー記者たちに会ったが、話題としていつも上がったのはパリ五輪を目指す代表監督人事のことだった。

その話を要約すると、当初候補として上がっていたのはKリーグ1の水原FCを率いているキム・ドキュン、Kリーグ2の忠南牙山(チュンナム・アサン)FCを率いるパク・ドンヒョク監督などだったという。

A代表ではない年代別代表だけに、1977〜1979年生まれで40代の青年監督が望ましいのではないかということだったが、ふたりとも現在、指揮するクラブがあるということで自然と立ち消えになったという。

その後にKFAが最終候補としてリストアップしたのが、チェ・ヨンス、チェ・ジンチョル、ファン・ソンホンらかつての2002年ワールドカップ出場のレジェンドたちで、現在はフリーの立場にあった指導者たちだが、最終候補6名の中には彼らと同じ2002年ワールドカップ4強戦士で現在はジェフユナイテッド市原・千葉で采配を振るうユン・ジョンファン監督の名前もあったらしい。

いずれしにしてもこうした最終候補の中で選ばれたのがファン・ソンホン監督というわけだが、その実績は言うまでもない。

韓国人選手初のJリーグ得点王

現役時代は1990年イタリア大会から2002年日韓大会まで4大会連続でワールドカップ代表に選出。国際Aマッチ103試合に出場して50ゴールを記録した。

クラブでは、浦項(ポハン)スティーラーズでアジアクラブ選手権(アジア・チャンピオンズリーグの前身)2連覇を経験し、1999年にはセレッソ大阪で韓国人Jリーガー初のJ1リーグ得点王に輝いたレジェンドだ。

ただ、その現役時代には常に称賛と非難が付きまとった。代表ではケガでフランス・ワールドカップに出場できず、Jリーグでは柏レイソルでもプレーしたが、最後は契約解除という形で退団。全南(チョンナム)ドラゴンズを最後に2003年2月に惜しまれつつ引退した、波乱万丈の選手生活だった。

指導者としても2007年から2010年にかけて指揮を執った釜山アイパークで成功を収めると、2011年からは浦項スティーラーズの監督に就任し、Kリーグと韓国FAカップ優勝を達成した。アンダーカテゴリーとはいえ、まさに待望の代表監督就任とも言えるだろう。

昨日は我々韓国メディアを対象にしたオンラインでの就任記者会見があったが、「2002年日韓W杯を終えて指導者を志したときから、韓国代表監督になることが夢だと語ってきた。20年かかってようやくできた」と本人もちょっぴり嬉しそうだった。

会見中のファン・ソンホン監督(写真提供=KFA)
会見中のファン・ソンホン監督(写真提供=KFA)

ただ、ファン・ソンホン監督は失敗も挫折も経験している。

この5年は波乱万丈だった監督生活

2016年からはFCソウルで采配を振り、就任初年度にKリーグ優勝を果たしたが、それ以降はACL出場失敗や降格危機にもさらされたことで、FCソウルの監督の座を追われた。

2018年末には中国リーグの延辺FCで指揮する予定っだったが、就任直後にクラブが解体。中国のピッチに立つことなくその挑戦は終わっている。

2020年には再起をかけて新Kリーグ2の大田ハナシチズンを指揮するが、9月にクラブ上層部との摩擦から辞任を選んだ。ここ5年は波乱の連続なのだ。

それだけに昨日の記者会見ではその苦汁の日々も糧にしたいと語っていた。

「失敗は誰にでもあることであり、それをどう受け止めるかによって未来は変わってくると思う。過去よりも未来が重要であるため、謙虚に受け入れて発展した姿を見せるために努力しなければならない。二度とそのようなことを経験してはならないという考えでこの場にいる。若い選手たちと交感しながら、ワンチームを作り上げたい」

契約期間は2024年パリ五輪本大会まで。ただ、2022年9月に行われる杭州アジア大会後に中間評価を行い、契約を継続するかどうかが決まるが不満も心配もないという。

「契約期間はそれほど重要ではない。プロチームもそうだが、代表監督は常に冷静に評価されなければならない。それに伴う責任も重大だ」とし、「アジア大会では金メダルが目標だ。パリ・オリンピックはまだ考えていない。アジア大会後にオリンピックについて考えたい」

初陣は来る10月27日から31日までシンガポールで行われるU-23アジアカップ予選。韓国はフィリピン、東ティモール、シンガポールの順に対戦する予定だが、はたして。

現役時代はその名とゴールを運ぶという意味を込めて“ファンセ(=コウノトリ)”と呼ばれたファン・ソンホン。今度は監督として勝利を運ぶことが期待される。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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