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同性選手セクハラ疑惑で揺れた韓国の金メダリストが、中国への帰化に踏み切った理由

慎武宏ライター/スポーツソウル日本版編集長
中央がイム・ヒョジュン(写真:ロイター/アフロ)

ウインタースポーツの人気種目で韓国のお家芸とも言えるショートトラック・スピードスケートの金メダリストが、来年に北京冬季オリンピックを控えている中国代表への帰化を進めていることが明らかになり、韓国でちょっとした騒ぎになっている。

中国への帰化が確実視されているのは、2018年平昌(ピョンチャン)五輪のショートトラック男子1500mで金メダル、男子500mで銅メダルを獲得したイム・ヒョジュンだ。

かつて韓国では2006年トリノ五輪の金メダリストであったアン・ヒョンスが、2011年にロシアに帰化してヴィクトル・キムと名前を変え、ソチ五輪で活躍する例もあるが、イム・ヒョジュンが帰化するに至った背景はショッキングで複雑だ。

2019年6月に起きた前代未聞のセクハラ騒動に端を発しているのだ。

(参考記事: 「お尻の半分だけ…」同性選手に“セクハラ疑惑”の韓国代表選手、苦しい釈明)

2019年6月、イム・ヒョジュンは鎭川(チンチョン)選手村のウェイトトレーニングセンターでの練習中、後輩であるファン・デホンのズボンを引っ張り、体の部位を露出させた疑い(強制わいせつ)で起訴された。

これを受け、韓国スケート連盟は同年8月、イム・ヒョジュンに1年間の資格停止処分を下す。イム・ヒョジュンは大韓体育会のスポーツ公正委員会に再審を求めたが、結果が覆ることはなかった。

2か月でのスピード処分だったが、その後、イム・ヒョジュンは2020年3月に韓国スケート競技連盟を相手取って懲戒無効確認訴訟を提起。そこで懲戒に対する仮処分申請が受け入れられたため、韓国代表復帰がかかった代表選抜戦への出場が可能な状態になった。また、同年11月には強制わいせつ容疑と関連した控訴審でも無罪を言い渡された。

だか、イム・ヒョジュンの「1年間の資格停止」は解かれず、来年の北京五輪出場の可能性も低いままだった。

『スポーツソウル』が韓国スケート界の関係者に話を聞いたところ、「イム・ヒョジュンは控訴審で無罪となったが、今後最高裁判所の判決が残っている。もし最高裁で判決が覆れば懲戒がその時点から再開されるため、北京五輪に出場することはできないだろう」という。

「そのため、イム・ヒョジュンは中国からの帰化の提案を受け入れたのではないか」というのがこのスケート関係者の見立てらしい。

韓国スケート連盟によると、イム・ヒョジュンの中国帰化の意志は固く、すでに帰化の手続きを踏んでいるという。スケート連盟関係者は電話による説得も試みたが、連絡も取れないらしい。

ライター/スポーツソウル日本版編集長

1971年4月16日東京都生まれの在日コリアン3世。早稲田大学・大学院スポーツ科学科修了。著書『ヒディンク・コリアの真実』で02年度ミズノ・スポーツライター賞最優秀賞受賞。著書・訳書に『祖国と母国とフットボール』『パク・チソン自伝』『韓流スターたちの真実』など多数。KFA(韓国サッカー協会)、KLPGA(韓国女子プロゴルフ協会)、Kリーグなどの登録メディア。韓国のスポーツ新聞『スポーツソウル』日本版編集長も務めている。

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